第38話 最後の大会

お揃いの、ポニーテールに黒のリボン。

手首には、毎年新しく作る赤のハートと白のミサンガ。

紺と、白。それに金の釦のついたユニフォーム。黒のハイソックス。


ネックストラップとアルトサックス。


場内からは、他の学校の演奏が響き、次の出番を待つ。

同じように3年目を迎えた仲間とそして、次を託す2年生と、上手く引っ張ってこれたのか...。そのまるで通知表のような1年生。

まだ、ここでは終われない。そんな地方大会。


彩未は、アルトサックスをそっと胸に当てた。

この6年、ずっとこの楽器と共に過ごしたと言っても過言じゃないくらい、毎日触れていた。


練習は...裏切らない。


「行かなきゃだね全国に、ここじゃ終われないよ。みんな、目を閉じて思い出して。来る日も来る日も、たくさんこの時の為にしてきた事。私はずーっと見てきてるから、絶対に大丈夫だってわかってるよ」


和奏は静かにそう語りかけると、

「笑顔でいくよ!こうせい~ふぁいっ!」

「「「やーーーーっ!」」」


和奏の合図で、演技がはじまる、静かな音と、歩を進める靴音がピッタリと揃う。

(怖いくらい、あってる)


そう、見えるわけではないけれど、ゾクゾクするくらいの一体感を感じる。

たて、よこ、そのラインは和奏が神経質なくらいに何度も合わせた。


合わない訳がない。和奏の言うようにそんな確信がある。フォーメーションは次々と変化する、そして、彩未のソロ。


(響け、私の音)

そして最後に向けて、パーカッションが次第に音を高らかに、そして全員が踊り出す。去年は泣いてしまったけれど、今年は笑顔だ。最後の最後まで、彩未たちはやり遂げられたのだ。


上手く出来た興奮で、1年生たちはボロボロと泣いている。



「惶成大学 高等部 金賞」

そう言われ、和奏と晴臣が盾を受けとればやはりほっとして泣けてきてしまった。そして、全国にも選ばれたのだ。

「良かった...。和奏、良かった」

バトンメジャーとして率いてきた和奏。部長の晴臣。

全国に向かっての練習を、部員たちを率いる二人は本当に苦しかっただろうなと思うのだ。


少しの妥協が、この結果を変えてしまう、そんな世界なのだから、甘い顔も弱みも決して見せなかった。

『Devil's dark blue』いつしかそう異名をとるようになった惶成の吹奏楽部は、この日笑顔で集合写真を撮った。


そして、翔太たちのインターハイも始まった。

彩未たちは例年通り、客席の一画に陣取った吹奏楽部は一員としてのKosei senior high schoolのロゴの入ったTシャツと紺色のミニスカートと、そして黒のハイソックスだ。


彼の勇姿を、こうして同じ学校の仲間として応援できるのは今年が最後で、ピッチ上の翔太は今年は、正ユニフォームでネイビーにブラックの模様と黒のズボン、ソックスもネイビーだ。

その背番号3番にはNAGASEの名前入りだ。


ゲームがスタートしてみれば、前半は惶成の圧倒的な攻撃で昂牙2点を入れて後半へと入る。

調子がいいというのはきっちりと続いているらしい。

後半も追加点として、朔人が決めて、そして翔太も一点を決めて4対0で勝利をおさめた。


初戦を突破した惶成応援陣は大いに盛り上がり、彩未たちもsing sing singを奏でて華を添えた。


翔太たちは3回戦で惜しくも、PK戦で敗退してしまったが彩未は翔太のサッカーを目に焼き付けた。



サッカー部の次は吹奏楽部は全国大会で、これがいよいよ本当に最後の大会だった。


いつものように、揃えたユニフォーム姿。


(これが...さいご)


そんな風に思えば早くも、視界が潤んだ。

この後も、イベントはあるし、この先も受験というものもある。

しかし、こんな風に必死に目指すものがこの先に待っているだろうか?


終わるまで絶対に泣かないと言っていた和奏はやはりいつものように力強い笑みを浮かべた。


「特別な事はいらないよ。いつも通り、それで十分だから」

最後のとは口にしなかった和奏。


『惶成の吹奏楽部は最後じゃないから』

とそう語っていた。

「笑顔で!こうせい~ふぁいっ!」


そして、そのかけ声にやーーーっ!と全員が答えた。


ひたすらに、楽しむべく彩未は会場となるホールに、走って行き、配置に着いた。

和奏の笑顔が、輝いていた。

「one two」

合図となる手が動き、静かな旋律からはじまり、そして彩未のソロも、最後の音が終わるまで、全て全員がやり遂げた。


和奏と、晴臣が受け取ったのは、金賞、goldの盾。


その瞬間に、和奏の目から涙がこぼれ落ち、滲む視界から見れば春花もそしてほとんどの仲間たちが涙を流していた。


終わるまで泣かない。そんな強い意志を示した和奏が、止めどなく涙を流していた。

そして、そんな顔のまま見ている仲間たちに笑顔で手を振った。


こうして、彩未たちも後輩に後を繋いだのだった。

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