第12話面接はいかに着飾るかだ。

「………暗黒僧侶ダークプリーストの呪術による記憶削除」

不可能ですノン、勇者には【主神の加護EX】(神性付与、幸運増大、精神異常無効)があります。幾ら魔法とは違うとはいえ、充分な効果が出るとは思えません。

 ………物理的殴って記憶削除は?」

無理だノン

 奴には【状態保全A】(怪我、病気による後遺症の残り難さ)がある。殴ったところで少しの間は記憶の混乱もあり得るが、直ぐに元に戻るだろう。

 錬金術の薬ではどうだ?」

危険ですノン

 脳の一部切除」

馬鹿かノン、危険すぎる」

「もういっそ、無かったことにして亡き者にする」

「論外だ。くそ、こうなると、仕方がないか。

 闇巫女よ、用意を。当初の予定通り、!!」


 ………………………


 ………………


 ………


「それで、勇者よ。履歴書は書いてきたか?」

「あぁ、これで良いと思うけど。

 なあ、実際。俺は履歴書とか書いたこと無いんだが………これって、そんなに重要なのか?」

「当たり前だ。この出来映え如何でお前の未来が決まると言っても過言ではない」

「そんなに重要なのか………」

「お前の事を詳しく知っているやつなんてこの世にどれだけいると思う? お前の村ならいざ知らず、少し都会に出れば一割以下、社会で言えばほぼゼロだ。名前さえ知らんだろう」

「いや、幾らなんでも名前くらい」

「少なくとも、我輩は知らんぞ」

「え」

「我輩にとってお前は【勇者】だ、それ以上ではけしてない。

 人間どもにとっても、そうだ。勇者という存在は知っているだろうし、お前の顔立ちを知っている者も中には居るだろう。だが、それだけだ。お前という存在の個人情報まで世界には知られていない。

 それを知らせるために、履歴書があるのだ」

「成る程な………。

 宿命の相手に名前を知られてなかったというのは少し堪えたけど、確かに理屈は解るよ。けど、なら会ってみて話せば良いんじゃないか?」

「馬鹿者。お前は自分にどれだけの価値があると思う。他人が時間を割いてくれるだけの価値があると?

 仮にそうだとしても、会う前ではそれは解らん。題名もなく粗筋もない小説を手に取る者は少ないだろう、金が掛かっているなら尚更だ。

 履歴書は、他人に興味を持ってもらうための呼び水だ。………そして、だからこそ、内容には気を使わねばならん。

 先ず、これは駄目だ」

「何が?」

「職業だ、【勇者】って書くな」

「何で?」

「ここは魔王城でお前が就職しようとしてるのは魔王軍だからだ! 【勇者魔族絶対コロスマン】って書かれてたら誰が採用するんだよ!」

「けど、嘘は良くないだろ」

「現在無職で良い。それなら嘘じゃあないだろ。

 前歴は、そうだな、『魔物狩りをしてました』と答えろ」

「それは良いのか」

「魔族にも趣味で魔物狩人クリーチャーハンターをする者が居るからな。上手くすれば話も合うだろう、得意武器は重機械弓以外なら良い。笛が一番良い」

「それは武器じゃなくて楽器だろ」

「気にするな、シンバルで殴る音楽家も居る。

 趣味もまあ、それで良いから………そうだ、何か特技はあるか?」

「えっと………」

「何でも良い、昨今の冒険者は、戦闘一辺倒というよりも妙な内政スキルを持つ奴が多いからな。

 そうだな、薬学と魔物ならしは駄目だ。かなり被る。それ以外ならまぁ大丈夫だろう。………料理も良くあるが、ブームに乗れるかも知れんぞ?」

「………」

「どうした」

「あー、その、えっと………」

「………お前、まさか………」

「仕方がないだろ! 15になったと思ったらもう旅に出てて、そこから今まで世界救ってたんだぞこっちは!! 何の特技磨く時間があるんだ!」

「レベルアップ時のスキルポイントはどうした!」

体力、筋力、反射神経戦闘技能に全部振った」

「この脳筋野郎(脳味噌まで筋肉の略。喧嘩の元になる)が………!」

「ぐっ………だ、だって! 戦いが楽になる方が良いだろ! 裁縫やら料理に振るようなふざけた奴等に勇者が務まるか!」

「務まるのだ、昨今の勇者は」

「マジでか………」

「我輩の小耳に挟んだところではな」

「そんなやつに世界の命運を託すなんて………」

「ふん、良くも悪くも勇者任せの采配とはそういうものだ。遊ぶつもりが無いのなら軍隊を出せ軍隊を」

「各地で王様に、何か生暖かい視線を向けられると思ったけど………馬鹿にされてたのか………」

「まぁ、何も出来ないとが利かんからな。魔王倒してはいさよなら、とはならないだろう、お前の人生は」

「うぅ………」

「まぁ、仕方がない。そうだな………もういっそ、体力検査に賭けるしかないか」

「そんなのもあるのか、魔王軍には」

「筆記試験、体力検査、そして面接だ」

「案外ちゃんとしてるな………。

 解った。この際だ、特技はもう筋肉ですって言おう」

「………まぁ、他に出来ないしな………せめて堂々としていた方がましか」

「ましって言うな」

「後は、闇巫女待ちだな」

「………なぁ、魔王」

「なんだ」

「俺の名前なんだけど………」

「(ガチャリ)魔王様、用意出来ましたよ」

「おぉ、来たか。ん、何か言ったか勇者よ」

「………いや、後で良いや。

 ところで、用意って?」

「面接には、やはり服装も大切です。失礼ながら勇者の格好では、魔族から睨まれるだけですので、相応しい格好を御用意しました。こちらです、よっこいしょっと(ドスン)」

「重い音だな………何、これ。鎧?」

「暗黒騎士の甲冑だ。これを着て、面接を受けてもらうぞ」

「重そうだな………」

「お前の脳筋ぶりなら間違いなく装備できる」

「どれどれ………うわっ?! 何かビリッて来た!」

「あー、勇者の神性が邪魔してますね。勇者、ちょっと暗黒面に堕ちて下さい」

「ちょっと暗黒面に!? そんな気軽なものなの?!」

「秩序・善は無理だな。せめて中庸に………どうしようか………」

「例の精神汚泥も品切ですしね」

「お前がログインをサボったからだぞ」

「なぁ、そういうのって生き方だろ? そんな簡単には変わらないだろ」

「いや? 少なくとも、悪い方には簡単に行けるぞ。人間の善性は、ふとした事で汚れるものだ。

 ………そうだな、お前、ちょっと捨てられた仔犬見捨ててこい。直ぐに悪に属性変わるから」

「嘘だろ!?」

「反対に、善に戻すのは大変なんですよねぇ。罪を禊ぐのは、もう死ぬしか無いですし」

「じゃあ嫌だよ! こんなところで人生の行き先決定したくないよ俺は!

 それくらいなら………うりゃあっ!!」

「あ、着た」

「成る程、流石は脳筋。我慢する気か」

「いや、でも、属性的な拒絶作用はかなり強力ですよ? 流石に我慢なんて………あ」

「暗黒騎士の甲冑が浄化されたぁぁぁっ!?」

「真っ白になってますね、あ、背中のは白鳥の翼ですか? 心和む音楽と共に羽根が舞ってるのは、中々にオシャレ上級者ですね………」

「ふふふ、どうだ魔王! これこそ神の加護、勇者の証明だ!!」

「力わざじゃねぇか!!」


 ………………………


 ………………


 ………


「はぁ、はぁ、なんとか、鎧を着せられたな………」

「あぁ、秩序神様も、はぁ、はぁ、根負けした感じだ………」

「10着もの甲冑が無惨な変身を遂げましたね。年末の隠し芸にしか使えなさそうですが、どうしましょうかこれは」

「ウィルに買い取らせる。不良品だったと言っておけ」

「ひどい………」

「大体お互い様だ。

 さて、勇者よ。これで準備は整った。………あとは、解るな?」

「あぁ。かなり不本意だけど、面接で勇者だとバレないようにするんだろ?」

「その通りだ。くれぐれもバレるな、バレたら即逃げろ。面倒だから」

「解ったよ………」

「さて、となると………我輩もお前を勇者と呼ぶのは止めておかねばな。とすると………」

「っ、じゃあ………」

「良し。



 気を付けろよ、!」

「名前を呼べぇぇぇぇぇっ!!」


 ………………………


 ………………


 ………


「………魔王様」

「闇巫女か、どうした」

「勇者、いえ、暗黒騎士(仮)の試験ですが」

「おぉ、どうだ、上手くいきそうか? 面接でバレそうならさりげなくフォローを、」

「筆記で落ちました」

「あの脳筋野郎!!」

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