『一度目は悲劇として、二度目は喜劇として』


最初に断って置かなければならないことがある。

私は断じて世にいうマルクス主義者ではない。確かに、私の名前はカール・マルクスだ。しかし、私はマルクス主義者ではない。マルクス主義がそのまま私の理論を指すと思ったら大間違いだ。


私は哲学者であり、思想家であり、そして何と言っても経済学者なのだ。

そうなのだ。仮にも『学者』なのだ。ムショクダッタケド。いわば、真理の探究者。

だから、好き好んで資本主義は駄目だとか言ってるわけじゃない。まぁ、資本主義に憎しみを抱いていないといえば、嘘になるのは認めよう。でも、私が資本主義が駄目だと言ったのにはそれなりの『科学的』根拠がある。


恐らく、ターニャ・デグレチャフはそこをどうにも勘違いしている。私と、マルクス主義は別なのだ。そこをはっきりさせなくてはならない。


だから、ターニャ・デグレチャフとかいう市場原理主義者リバタリアンと討論するためには、科学的ではない不純物を除去しなければならない。私の理論をイデオロギー的に歪めてしまったマルクス主義者共を排除しなければ、奴に付け入るスキを与えるだけだ。特にレーニンの系譜は徹底的に潰さなくてはならない。


「本当に、貴方はカール・マルクス、その人なのですか」

「私がカール・マルクスで悪いかね?ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ君?」

「いや、そんなことはないのですが、俄には信じがたいというか……」

「ふんっ。大体お前と仇敵スターリン、それに毛沢東に加えてポルポトまでもが元気いっぱい一緒にいる時点で十分信じがたいことが起こっているのだ。今更、私が少女の姿で現れようがそんな細かいことは気にするまでもない」


全く珍妙な世界を作ってくれたものだ。様々な時代の共産主義者がこれでもかというほど集められている。政治家ではレーニンやスターリンは勿論のこと、思想面ではフランクフルト学派、理論面では逐一挙げるのが馬鹿馬鹿しい程集められている。

デグレチャフにとって、ここは魔女の釜の底だろう。

だいたい、何故この私が女の子の姿で顕現せにゃならんのだ。共同幻想になりかけてからというもの、良い思いをしたためしがない。というか私、実は女に見えるだけで、男のままなんだが。日本語で言うと、『男の娘』というわけだ。

……極東の島国人め。変に私を女体化しおってからに。共同幻想になりかけている私にとってイメージは死活的なんだぞ、クソが。中途半端に共同幻想化してしまった結果がこれだよ。


「レーニン同志。そんなに信じられないというのならば、この小娘がカール・マルクスであることを私が証明しよう」

「エンゲルス同志……」

「レーニン同志。これが読めるかね?」

「……これは随分と悪筆ですね。おそらく、ドイツ語ですが……すいません。全く読めません」

「はい、マルクス。これ読んで」

「資本主義生産様式の支配する社会の富は、「膨大な商品集積」としてあらわれ、個々の商品はその富の基本形態としてあらわれる。したがって我々の研究は、商品の分析から始まる」

「なっ。これはまさか……」

「そうだ、レーニン同志。『資本論』の自筆原稿だよ。君ならばそらんずることが出来るだろう有名な一節でさえ、君は読めなかった。マルクスの悪筆は世界レベルだな」

「うっさいぞ、エンゲルス」

「わかりました。貴方がそこまで言われるのでありましたら、この少女はカール・マルクス同志なのでしょう」

「おい、レーニン」

「はい、何でしょうかカール・マルクス同志」

「同志と呼ぶのをやめろ。この最下層の腐敗物ルンペン・プロレリアートが!!」

「えっ?」

(あっ。マルクスの癇癪だ。逃げよう)

「まぁ、お前の書いた『帝国主義論』。あれは良い本だ。資本主義の発展は不回避的に帝国主義へと至るとするお前の主張は刺激的で、なかなかどうして示唆に富む内容だ」

「ありがたき幸せであります」

「だが、お前。『国家と革命』。あれは、いけない。断じていけない。私が考えてなかったところまで考えた点は評価する。しかし、お前の出した結論は間違っているぞ!何だあれ!!」

「いや、でも。マルクスさん。貴方プロレタリア独裁って昔書いて……」

「だまらっしゃい!!拡大解釈しすぎだ!!!私、プロレタリア独裁とか殆ど書いてないからね!?確かに過渡的な制度として、権力の集中は必要不可欠なことは認めよう!だが、それだからといって「どんな法律によっても、絶対にどんな規則によっても束縛されない、直接暴力で自ら保持する無制限の権力」とか頭がオカシイんじゃないか!!??」

「いや、でも、あの混乱を立て直すには……」

「そもそもだよ、糞野郎。私言ったよね?共産主義社会は資本主義社会の後に来るって。ロシアって当時、資本主義国だったっけ!?ねぇ、答えてよ!!」

「資本主――」

「あん?それでもお前、一応は自他ともに認める理論家だろ?事実は事実として認めろよ」

「……後進資本主義国でした」

「もしかしたらロシアの革命が西欧州に波及するかもしれないとは書いたことはあるけれども、ロシアが革命の主役になるとは書いてないからな!そんなロシアで共産主義革命っておかしくない?私の本は本当に読んだことある?」

「しかし、カール・マルクスさん!!最も成熟した資本主義国であるはずのイギリスですら共産主義革命は起きなかったではありませんか!!もっと言えば、共産主義革命が成功したのは全て、後進資本主義国ですよ!?マルクスさんの理論に間違いがあったのでは!?」

「だまらっしゃい。もう疲れたよ。バカを相手にするのはこれだから疲れる。それでは、私の理論の根幹に対する反論になりはしないぞ。先進資本主義国で共産主義革命が起きなかったのは、民主主義という政体が私の予想より遥かに適応能力に優れていたというだけの話だ。大衆民主主義なんてものが出来るとは思っても見なかった私の落ち度でもあるがね。しかし、その適応能力に陰りが見えたら、一体どうなるかぐらいは分かるだろう……?

つまりだ。お前は早すぎたんだよ。お前は理論家のまま生きるべきだったのだ。無理に後進資本主義国のロシアで私の理論を当て嵌めようとするからおかしくなるんだ、愚か者。挙句の果てに私の理論を歪めまくって、私の評判を落としたのは筆舌に尽くしがたい罪だ。よって死刑」

「なっ……!!」

「おい、エンゲルス。コイツを連れて行け」


ふんっ。当然だ。レーニンのせいでどれだけ私に対する風当たりが厳しくなったか。マルクス・レーニン主義なんていう風に言われる私の気持ちを考えてみろ。私は政治理論については殆どそれらしいことを書いてないのに、勝手にレーニン主義が私の政治理論の後継者とされるのは全く心外だ。


「よろしいですのか。教祖カール・マルクス?」

「資本主義の犬め。こちらの話だ。介入してくるな、ターニャ・デグレチャフ君」

「レーニンは共産主義国家の立役者ではありませんか。いわば、共産主義の教父。世界の半分を支配した国を打ち立てたその業績は共産主義者の泰斗たいとでは?」

「それがいかんのだ。あんな失敗国家を打ち立てたところで共産主義に対する功績にはなりはせんよ。シカゴ学派総帥の方が共産主義を科学的に罵倒しただけ、共産主義に対する功績が大きい。もっとも、彼の論敵は私ではなく、ケインズが主だったがね」


――意外かね?ターニャ・デグレチャフ君。私がそんなにシカゴ学派総帥を知っているのが、そんなにも驚くことなのかね?


「……なぜ、フリードマンのことを知っている?」

「すまないね。私の一番好きなことは本を読むことでね。賽の河原で石を積みながら本を読むのが日課だ」

「ちっ。存在Xめ。なんということを」

「なに、心配することはないさ。専門用語をできるだけ使わずに、懇切丁寧に反論して上げるから、そこで待っておれ」


こっちに飛ばされてくる前に脳内に流れ込んできたデグレチャフの経歴からして、歴史にはそれなりの素養がある筈。それならば、絶対に計画経済の非効率性は突いてくるだろう。そこを突かれては、不本意ながらどうしようもない。資本主義制度よりも計画経済は非効率になるのは否めない事実だ。

だが、私の経済理論の本質はそこではないのだよ、ターニャ・デグレチャフ君。


私の経済理論の革新性は、資本主義というシステムがその活動の果てに自壊することを『科学的に』立証したことにあるのだ。


といっても、私の理論には重要な反論があるのだが。


「次はお前だ、スターリン」

「はっ、はいい!!」

「お前はなんというか、こうというか。擁護すべきところがないな。共産主義と国民主義ナショナリズムを結びつけた時点で死刑だ」

「なっ!!それだけは!!!堪忍してつかぁさい」

「共産主義革命は国民の壁を飛び越えなくてはならない。万国の労働者のために、革命を続けなくてはならないのだ。だから、世界革命論から一国社会主義論に路線を変更したのも、死刑ポイント。おまけに、大粛清したのも死刑ポイントだ」

「うっうっ……仕方がなかったんです………」

「まぁ、レーニンが悪いな、レーニンが。でも、やっぱお前もダメだ。スリーアウトチェンジだ。おい、エンゲルス。コイツを連れて行け」


私を除けば世界一有名な共産主義者のスターリンだが、共産主義の歴史的にはそこまで重要ではない。彼の時代に抜本的な理論変更があったわけではないのだ。


「はい、次は毛沢東」

「はっ。はいぃ!!」

「お前も共産主義と国民主義ナショナリズムを掛け合わせた時点でアウトだ」

「独立のためには、そうせざるを……」

「まぁ、スターリンが悪いな、スターリンが。いや、もっと遡ればレーニンが悪いな、レーニンが」

「ほっ……」

「今、ホッとしたか?でも、残念。お前も死刑だ」

「なっ!!」

「大躍進政策、文化大革命で十分アウトだ」

「あれは、後進国の中国を精神革命で――」

「だまれ。文革はお前の権力闘争のせいだっていうのは既に分かってるんだよ。時代遅れの学者みたいなことを言うな。そもそもだ。大体なんだ精神革命って。そなもん直ぐにできると思ってたのか?下部構造ですらボロボロなのに上部構造に手をつけようとしたってムダだ、ムダ。はい、連れて行け」


毛沢東も又然りだ。共産主義的にはあまり重要ではない。確かに、文化大革命は世界に波及してフランスとか日本とかの学生運動にも影響を与えたという点で、社会史にはそこそこの重要性を持つだろう。でもそれだけだ。文化大革命は精神革命で共産主義の限界を乗り越えようとした、なんて狂った左翼の教授連は言っていたが、それは間違いだ。徹頭徹尾、文革は毛沢東の権力闘争の手段でしかなかった。


「次はお前だ、ポルポト」

「……俺は悪くない」

「驚きだな、ポルポトよ。よもや、そのような言葉がお前の口から出るとは思わなかったぞ。レーニンやスターリン、そして毛沢東はお前のしでかしたことと比べれば、まだ理解できる。だが、お前はそうではない。お前がしたことは全く、理解の範疇を超えている」

「俺は……俺はこの世の楽園を……」

「もう良い。黙れ。黙るんだ。お前の楽園はどこにも存在しない。私の前から失せろ」


結局、共産主義はレーニン主義の登場で大きく変質してしまったというのが正しい理解だろう。私の経済理論とレーニンの政治理論の結合。それが現実的な形として表れたのがソヴィエトという失敗国家なのだ。

そして、中華人民共和国も、民主カンボジアも、ソヴィエトの後継者でしかない。だから、カール・マルクスと聞くと、ソヴィエトや中国、或いはカンボジアを直ぐに思い浮かべるのは間違いなのだ。それらの国は、相当程度私の理論からは離れてしまっている。


「随分と、思い切りが良いな、カール・マルクス」

「ふんっ。資本主義の犬が。関わってくるなと言ったが……。まぁ、重要な奴らは粛清したからいいか。実は、マルクス主義は主にレーニンのせいでな政治的に大きな歪みを内包してしまってね。方便や建前が理論に織り込まれると、その理論は大きな歪みを生む。そして、歪みはさらなる歪みを生む。斯くて共産主義は遂にカンボジアでの大虐殺に至った。だから、ターニャ・デグレチャフ君。断っておくが、彼らと私は別物だ。それを忘れるなよ」

「しかし、レーニンにその責を負わせるのは、あまりにも単純化した見方だろう。お前の理論の中に、既に虐殺への萌芽があったのではないか。そう、全体主義の萌芽だ」

「……否定はせん。私の理論は独裁と虐殺を招き寄せてしまうような論理構成だったのは否めない事実だ」

「そもそも、計画経済なんていうものを、地上の国家に導入しようとしたのが間違いだったのではないか。計画経済なんぞ、彼岸の国でしか実現できない。まさにこの世に存在しない場所ユートピアだ」

「だからといって、資本主義が絶対的に安定したシステムであるとは言えまい?」

「いや、資本主義は効率性と自由を最大限に増進する自立した安定的なシステムだ。国家の介入なんぞ殆どいらない。市場だけで十分世界は廻る」

「では、資本主義そのものが、正に市場の効率性と自由によって崩壊するとしたら、どうする?」

「そんなことありえるか。市場はそれ自身で成り立つとまでは言わないが、市場が自身の首を締めるわけがなかろう」


私の理論の根幹を知らないのか?それとも、これは誘いか?真意が見えない。経歴からして奴は日本で享受し得る最高峰の高等教育を受けているはず。確かに、私の理論を研究する学者は少なくなった。でもだからといって、決してゼロというわけではない。奴の出身大学にも、一人二人は私を批判的に解釈するマトモな教授がいたはずだ。といっても、日本の大学は文系に限って言えば、院はまだしも学部は就職予備校でしかないからな。もしかしたら私の理論をそこまでやらなかった可能性がある。もしくは、教授が悲しいことに私の理論を完全に無視したか、だ。


教授連め。昔は私のことを神と崇め奉って『資本論』を耽読していた癖に、時流に合わないと見るやすぐに捨てよってからに……。私の理論を採用するかどうかは別にして、私の理論を知らずして経済学を学んだなどとは思わないで欲しいものだ。


「ふんっ。じゃあ、説明してやろう。これから見せるは、資本主義が自らの手で崩壊する様だ。収奪者が収奪されるその姿を見せてやろう」

「やれるものなら、やってみせろ。資本主義がそのような愚かしい真似をするわけがない」




☆☆☆☆☆☆☆

・コメンタリー

 ごめんね、マルクス。君をどうしても男の娘にしたかったんだ(異常性癖)。なんでもかんでも女体化される現代。きっと偉人たちは草陰で泣いていることでしょう。

 さて、普通はカール・マルクスの理論を紹介するとしたら、哲学→経済理論→政治理論といった順番でやるのがセオリーだと思いますが、話の都合上私は逆からやります。

 ところで、デグ様ってどこ学部出身なんでしょうね?ていうかカルロ・ゼン氏がどこ学部卒なのかもすごく気になりますね。でも、カルロ・ゼン氏はロールズの正義論や自由主義論とかに通暁しているみたいなので、もしかしたら法学部、それも政治学系統な気がしますね(偏見)。デグ様は、一応は経済学部か経営学部出身な気がしますね。デグ様は本人の合理的性格からして、単位は最小限の、しかも簡単な奴を取っていることでしょうな。


Tips:

『マルクスの悪筆は世界レベル』……マルクスはすんごい悪筆。エンゲルスが頑張って解読しようとしたけど、そのせいでエンゲルスは眼を悪くしてしまった。書いた本人のマルクスでさえ、時々読めないことがあったという。どうしろというのか。


『ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ』……レーニンの本名。ソヴィエト建国の父と言っても過言ではない。ポリシェビキの理論的指導者であり、第一次世界大戦中はスイスに亡命していた。しかし、ロシア革命が起きるとドイツの手引きによりロシアに舞い戻り、ソヴィエトを作り上げる。まさに世界最悪の文化爆弾である。

 論文を幾つか執筆しており、その中でも重要なのは『帝国主義論』と『国家と革命』だろう。『帝国主義論』は資本主義の発展が不回避的に帝国主義に行き着いて、結局世界は大戦争に至るというのを一応それらしく論証した本。第一次世界大戦の開戦原因の論争で、重大な影響力を保持し続けた。『国家と革命』は、その後のすべての社会主義国の理論的モデルとなったと評価してもあながち間違いとも言えないだろう。プロレタリア独裁を正当化した本である。まぁ、一応プロレタリア独裁は過渡的な制度とは書いてはいる。でも、実際は独裁から抜け出せなかったね。


『スターリン』……ヒトラーの宿敵。ソヴィエトの基礎を確立し、世界に冠たる社会主義国としたのは功績として認められるだろう。その裏にどれだけの人間が死んだかは気にしなければ、ロシアを近代化させたということで悪くはない人である。晩年のレーニンと対立したが、事務方を握ったスターリンはレーニンが病気で死んだこともあって、なんとか生き長らえた。まぁ、レーニンもレーニンだし、スターリンもスターリンなので、どっちにしろソヴィエトの未来は血濡れていたのは確かである。世界革命論から一国社会主義論へと路線を変更した。ここにおいて、革命を全世界に輸出するということは、表立ってはあんまり出来なくなった。「資本主義国と仲良くするとか論外」だったのが、「一旦は仲良くしましょうや」みたいなスタンスにソヴィエトの方針が変更された。仕方ないね、その時はそんなにソヴィエト強くなかったもんね。因みに、『マルクス・レーニン主義』を定式化したのも彼である。


『毛沢東』……誇張抜きで20世紀を代表する戦略家の一人。軍事的才能はレーニンとかスターリンとかの比ではない。ただし内政はその二人以上にボロボロである。大躍進政策で酷いミスをやらかした。農業の集団化とかいう失敗を約束された政策を実施し、多くの餓死者を出した。その責任で一旦は表舞台から身を引くことになるが、文化大革命でまた権力の座に返り咲く。若者を先導して国内にテロルを撒き散らすという破天荒なクーデターで実権を奪い返す。一応、文化大革命の名目は行き詰った共産主義を精神革命によって乗り越えるとかいうもっともらしいものであったが、今となっては単なる権力闘争の一環でしかなかったことが白日のもとにされされている。

 因みに、当時は左翼の教授の中には文化大革命は精神革命であったと評価するものがガチでいた。もう昔の話だけど。朝鮮戦争とかも、本当は北朝鮮から仕掛けたのに、韓国から仕掛けたというふうに日本の学術界は信じてたりした時期もあった。ソヴィエトの崩壊で秘密文書が公開されて、北朝鮮から仕掛けたことが確定してからは流石にそんなことを言う人はいなくなったけども。日本の学術界毒されスギィ!!でも、最近はそんな左翼の先生も殆ど死滅してしまったので、今後そういうことはもう無いでしょう。


『ポル・ポト』……洒落にならない男。共産主義の落とし子と判断すべきかすら怪しい。もう共産主義とかいう範疇を超えている。反近代・反文明という括りで見たほうが良いぐらいの人物。知識人を一掃し、本当の意味での平等をこの世に実現しようとした。きっと、マルクスが見たら狂人と判断するだろう。一応、マルクス主義そのものは近代の進歩史観を引き継いではいるので、ポル・ポトみたいな反近代的思考には普通は至らない。マルクス主義を哲学的に発展させたフランクフルト学派とかは近代に批判的ではあるけど、反文明というわけではない。マルクス主義の系譜で言えばある意味規格外の人物。レーニン主義の行き着いた先がこれであるとは悲しいなぁ。


『マルクス・レーニン主義』……マルクスは生産関係下部構造によって、あらゆる制度や文化、技術、つまりは上部構造が生まれると考えていた。なので、マルクスはまず最初に下部構造を明らかにしてから上部構造を明らかにしようと考えていたらしい。でも、『資本論』すら四巻中一巻しか仕上げることができずに寿命を迎えてしまった(残り三巻は遺稿をエンゲルスが纏めて出版した)。だから、マルクスは経済理論を語ったが、政治理論を語ったわけではない。政治に本格的に触れているのは、僅かに『フランスにおける階級闘争』、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』、『フランスにおける内乱』の三部作ぐらいしかない。でも、それらは理論というよりも時事論評みたいなもので、マルクスの政治理論を示したわけではない。結局、マルクスは政治についての全体像を示してない。その後を継いだのがレーニンというわけになる。

 マルクスが果たしてレーニンの主張に賛成したか、反対したかは想像にまかせるしか無いが、まぁ、きっと反対はしたような気がしなくもない。一つ、確実に言えるのは、ソ連型の社会主義体制、つまり資産の公平な分配のシステムにはマルクスは反対していたということだけである。でも、ああせざるを得ないよね、とか思わなくもない。

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