馬鹿と殿さまの狂詩曲(ラプソディ)
ももち ちくわ
桶狭間の章
第1話 -桶狭間の章 1- ひのもといちの馬鹿
初夏の匂いを含んだ空模様は、朝方から降り続けた大雨は、小雨へとうつり変わり、今やすっかり雨はあがっていた。
我が方の軍団は早朝から約20キロメートルを走りに走り、道中の砦で兵を吸収したものの、その数、いまだ2千余り。敵は総勢約3万で我が領土を進軍中。前日から放った、
敵本隊の数は5千弱。こちらは2千。敵は初戦で快勝し、大きく油断している。今、奇襲をしかければ2倍差といえどもなんとかなる、なるはずだ。勝機が見えてきた。行け!足よ、前にでるのです!
ひとりの若武者が軍団の先頭に立ち、右手を天高く掲げ、皆に号令をかける。
「前方に見えるは敵の本陣!皆の者、
旧暦1560年5月19日午後2時。歴史の神様がひとりの大馬鹿者に肩入れした瞬間である。その大馬鹿者こそ、かの有名な
時は遡り、2日前の5月17日。
「あー、これはもうむり無理かたつむり。俺も寝返っちゃおうかなぁ」
「むーり。ほんと、むーり。あっ!でも、ここから南には丸根砦あるし、もしかしたら、そっちに行ってくれる?むしろ行ってくれ!てかそもそも?さっさと白旗あげて降参しとけばよかったんだとおもいまーす!」
「あーあ、先代の
のきとは「退き」と書き、合戦場から撤退する際に
「でも、
一方、このとき、
「さて、交渉の余地なく、今川さんから攻め入られたわけですが。だれか、これどうにかならないですか?はい、そこ、
呼ばれた
「はっ!!こちらは総勢約4千!!敵は3万なので、一人当たり8人斬り殺せば勝てもうす!!!」
「はい、脳みそ筋肉に聞いた先生が馬鹿でした、すいません。あと、こんな狭いとこで槍を回すんじゃありません!」
「ではっ!我輩ひとりで3千人、引きつけるので、残りを一人当たり7人斬り殺せば勝てもうす!!!」
「微妙に計算は合ってるのが腹ただしいですね。というより、ひとりで3千人って無理でしょう!」
「
「きみ、本当にやりそうで怖いよ!」
人選を失敗したことを悔やみつつ、信長が次に指したのは
「次。村井の
次に呼ばれたのは、
「うっほん。では、
「はい、出た、模範的回答。籠城って言いそうな顔してますもんね」
村井は汗を手ぬぐいで拭きつつ、ええ、はいと答え
「援軍の見込みのない
「で、ですがじゃ。
「そこをなんとかしないといけないから、会議開いてるんでしょうが!」
ぐぬぬとまだ何か言いたげな
「じゃ、次は
30代半ばにして、信長親衛隊・
「精鋭部隊を引き連れ、山や森に隠れひそみ、そこから強襲を繰り返す。南蛮風に言えば、げりらというそうだ」
「なんか先生、この
「だめか?」
「というより、げりらはいいんですが、そうなると、
「あっ!駄目じゃないか!」
「そう、駄目なんですよお!」
ふぅと嘆息しながら信長は、廊下を見ると、そこには見知った20代入りたての美丈夫な若者がいた。なぜか、彼は障子を両手でかかえ、こちらから隠れてるつもりなのだろうか、障子の後ろから、ちらちらと
「はーい、そこ。自宅謹慎中なのに、こっそり今回の合戦で活躍するつもりの前田。
彼は、障子を横に投げ出し、元気に挙手をし、ハキハキと
「んー?こう、ババッ!ガッ!バシッと奇襲なんかどうでッス?」
「うーん、奇襲。奇襲ね。やっぱりそれしかないですかねえ」
「ガハハ!我輩が3千人引き受けますゆえ、ご心配ないかと!」
「脳みそ筋肉はおいといてですね。よっし、その案、採用です!そんな
信長は
「では、奇襲策を取るとしまして、具体的な経路を決めていきましょうか」
たたみ二畳に広げられた
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「
「丸根砦、
「
続き、
「しかしながら丸根砦救援には向かわず、
「で、あるか。
しかし、ここで織田軍には大きな問題がある。信長は右手を広げ、親指を内側に折り畳みながら
「こちらは昨年、尾張統一を成し遂げたばかりで全軍合わせて4千です」
今度は、左手のひとさし指と中指を立て
「それを丸根砦方面の防衛に2千、
信長は頭を起こし、まわりを一度、ぐるっと見回して
「奇襲に使えるのが1千から2千です。敵本隊が多くて5千だとしても、え?これ、無理試合臭がするんですが」
ぷろてぃん3杯目に突入した
「ひとりあたり4人斬り殺せば勝てもうす!!!」
信長は半ば、あきらめ顔で
「あー、最後は脳みそ筋肉試合敢行ですか、そうですか」
廊下にいる
「信長さま!一番槍は俺に任せてくださいッス!ガッガガガガッと道を開いてみせまッス!」
「いや、だから、
「信長さまのお役に立ちたくて、ズサッと参上しましたッス!」
「は、はぁ。まあとにかく付いてくるのは勝手ですが…」
「はいッス!」
「織田家の一大事とはいえ、こんな戦いで死なないように。きみにはまだまだ活躍してもらいますからね?」
「当然ッス!まだまだ死ぬ気はないッス!」
「
「問題は
信長は、ふむと言い
「
「それはまた厄介な位置でありますな。さすが海道一の弓取り」
「そうですね、いい場所を陣取りますね。さて、どうにかして油断を誘えないものでしょうか…」
「あ、あの!お、お酒。丸根砦が落ちれば、今川は、戦勝気分で、う、浮かれる、はず。そ、そこでお酒を振る舞うの、です。の、農民に化けて」
下座からたどたどしく進言するのは、成年にしては背が小さく、顔はひとというよりは猿と言ったほうが似つかわしい。そんな彼は続けて
「今の季節は、梅雨時、です。雨が降りやすいから、丘の上からといっても、視界が悪い、はず。油断しているところを、つけばきっと成功するはず、です!」
信長は、はっと息をのみ込み
「ほう、お酒ですか、なるほど。きみ、すばらしい案ではないですか。名は確か…」
「ひ、ひでよし。
「うむ。ひでよしくんですか。よくぞ進言してくれました。これで腹は決まりました。すたんぷ3個進呈です!」
「あ、ありがとうございます!」
秀吉は平伏姿勢で集印帳をふところから取り出した。信長は秀吉に近づき、そこに
信長は印を押した後、上座に振り向き
「では、皆の者!丸根砦が攻められし時、
そして自分の席へ戻りながら
「そこから
一同は、おおっと声をあげ、出立の準備へと向かうことになったのである。
明けて18日。
さらに19日未明、ついに丸根砦、
19日午前7時ごろ、雨降り注ぐ中、
「はーい。織田家の兵士諸君。おはようございまーす!家族や恋人との別れは済ませたかな?」
縁起でもねぇーー!!と兵士たちの罵声を浴びつつ、信長はさらに続ける
「ここに集まってもらった兵隊の皆様がた。きみたちは本来、3男、4男坊なので部屋住みで一生過ごす予定でした!」
ここで言う部屋住みとは、家の跡取りにはほぼ成れない3男坊以下で、嫁ももらえず、食い扶持だけもらって生活するものたちだ。
「もらったお給金で食べるご飯はおいしいかい?じゃあ、もっと、たーんと食べれるように槍働きしないとね!」
この時代では、兵隊は基本、給与なしである。給与の代わりに敵国での略奪を許可していたりする。織田家は全国で唯一、下級兵士にまで給金を払っている。
「きみたちは強い!なんたって、年がら年中、訓練してきたんだもんね!」
織田信長以外の大名家では、専属軍隊はなく、普段は農民をやっているものたちに武装させただけであった。
「怖かったら逃げ出したってもいい。でもね?」
カネで集められた兵だったため、実際、逃亡は多かったらしい。
「この戦、勝ったら、モテ期くるよ?モ・テ・期」
本来なら一生部屋住みで、女性に縁がないものたちである。みなの心が震えたのは至極、当然だったのかもしれない。
「カネ、女、出世。なんでもいい。叶えたい夢があるなら、ワシについてきなさい!」
俺、この戦がおわったら、あの娘に告白するんだと言った伏線構築したりする者も出始める。
「さあ、出発進行!この
おおおおの叫び声とともに、総勢1千名の地響きが
19日午前10時ごろ、信長本隊は
さらには未明より攻撃されていた丸根砦と
信長は開口一番
「はーい、のぶもりもり、元気だったぁ?寝返りしようとか考えてなかったよねぇ?」
「むーり無理むりかたつむりって思ってませんでしたよぉ。
「本当ですか?そこまで信じられてるとは、びっくりです」
本当ほんとと、
「で、
しかし、信長はあっけらかんとした口調でこう告げる。
「あー、それはですね。ここからまっすぐ一気に義元本隊に突撃します。ね、簡単でしょ?」
ははは、と
「え?冗談でしょ?」
「はい。本気です。ここの兵隊たち、徴収です。全軍突撃です」
またまたあと
「
「全員、槍を持てぇ!勝利の時は近い!」
やってきたのは援軍ではなく、まさかの地獄への片道切符を手に持った馬鹿たちだったことにようやく気付いた
「帰る!おうち帰る!もうやだ!死んじゃう!むーり無理むりかたつむりぃぃ!」
「のぶもりもり、つれないなー。親父に仕えてたころから、きみなら出来ると信じて重用してきてるのに」
「とは言っても、今川義元相手に、真正面からでしょお!」
「
「あのひとは頭おかしいから。そもそもヒト科ヒト属にいれないでください!」
「ひどい!のぶもりもり、ひどい!彼だって生き物なんでよ!先生、かなしい!」
つられて、兵たちも、のぶもりもりひどいーと煽りだしたのであった。ああ、もうと
「わかりました、
ははっと信長は笑い
「そんな心配はいりません。先生、勝って帰るつもりですからねー」
「そうッス!信長親衛隊がついてまッスから!」
ひょっこり草むらから頭を出した
「しょ、勝機はあります。丸根、
「
そうですねと信長が返答する。そして全軍に聞こえる大きな声で
「これより先、狙うは
一呼吸置き、信長はさらに続ける。
「義元の
おいおい冗談だろと
だが今回はそれを禁じさせ、しかしながら義元本人の首に向こう10年は働かずに食っていける破格の賞金をつけた。しかも将来安心の就職先も用意している。兵士たちは
馬鹿と天才は紙一重とは
「んー、先生、さらにおまけ付けちゃおう!この戦いが終わりましたら、町娘、村娘とのですね、はい、合同飲み会からの~」
まだ続く信長の口上に、兵士一同は、静まり返り、聞き耳を立てた。
「合同婚姻会。略して、
おおおおおおおっ!と、兵士たちは声をあげる。
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