第9話 風香の元カレ

亜希子が体操着のズボンを上にあげ、履く。付いていた埃を取る。歩と風香は体操着の上を直している。色々とすっきりとした3人。息ぴったりにため息をつく。



「でー…さ。ここにずっと居れば男子たちにバレる心配ないって事だよね。この部屋知ってるのって風香ちゃんだけ?」窓側の壁に寄りかかる3人。亜希子が風香にそう聞いた。部屋は外から入ってきた光に埃が反射してキラキラとしている。なんか幻想的。埃なのに。



「いや…1人だけ知ってる人がいるの」


「女子?男子?」


「……男子」深刻そうに言う風香。それを聞いた2人が困惑した顔になる。


「え、そ、それってもしかして…その人がここに来るかもって事?」歩が不安そうに風香に聞く。風香も深刻そうな顔をしている。


「そういうこと…だね。その人がこの部屋の事、思いつかないといいけど…」不安そう風香が言った。



「風香ちゃん。その人の名前…わかる?」亜希子が風香に聞く。静かな空間が、部屋に広がっている。3人の呼吸以外ほぼ何も聞こえない。




「うん…良樹よしきって言うの。私の元カレ。そいつもここで一緒に授業サボってたりしてたの」風香が2人を見てそう言った。


「で、この部屋で《自主規制》してたと…」2人が納得した表情でそう言い、頷く。風香の顔をがみるみる赤くなる。していたんだな、と2人はまた納得した。風香は実は《自主規制》なのではないかと2人は思っていた。





「あと…良樹の秘密、私知ってるんだよね。言わないけ……」



「言って」


「隠し事は無しって決めてたじゃん」


風香が言い終わる前に2人がそう聞いた。風香が驚く。驚くべき反応速度だった。風香を見ている2人の瞳はキラキラとしている。




「わ、わかったよ…その秘密はね……」


風香が2人を集め小さな輪を作る。そして良樹の秘密事を話す。話を聞いている2人の顔が驚きに変わっていく。そして叫ぶ。





「「えぇーー⁉︎ひ、ひ、人殺しー⁉︎」」



「ちょっと!静かに!叫ばないの!バレちゃうでしょ⁉︎」風香が焦って2人の口を押さえる。



風香の手が2人の口から離れる。離れた後も亜希子と歩の表情は驚きの顔のままだ。そして少しだけ恐怖心も感じられる。









良樹は中学時代に同級生の男子1人を殺した。理由はムカついた、と言う理由だけ。その当時付き合っていた風香と良樹の仲間達は学校近くの廃倉庫に呼ばれ、そして風香を除く人たちでその男子を集団でリンチしたのだった。風香はその時の光景を今でも覚えている。殴る音、良樹の仲間達の笑い声、その男子の泣く声、鮮明に覚えている。何度も何度もその男子が泣きながら、殴られながら謝るが良樹と良樹の仲間は殴る蹴るをやめない。廃倉庫内は悲惨な状態だった。その後、その男子の死体を見つからないように山に運び埋め、証拠を消した。男子が殺されたという事実は風香と良樹、その友人達しか知らない。その男子は今もまだ行方不明となっている。殺した犯人がこの学校にいる事は風香や数人しか知らない。誰かに言ってしまったら自分の命も危ない。






「そ、そうなんだ…詳しくは聞かないようにするね…ごめん、風香ちゃん」と謝る亜希子。悪いことを聞いてしまい思い出させてしまったかと思ったが、風香は笑顔で返事を返す。



「ううん、大丈夫だよ。とりあえず良樹には気をつけてね」



風香がそう言う。笑顔だったが少しだけ不安、そして恐怖感に怯えているようだった。なぜか亜希子にはそれがわかる。






2人は話を変え、恋バナに切り替えた。




笑顔で恋バナをする3人。

話は盛り上がっている。好きな人の話だったりその人と勝手にデート計画やお泊まり計画を立てていた。まだその恋は実っていないのに3人の妄想は膨らむ。










その頃、昇降口の前を歩く純也と啓太は昇降口から出て来る良樹とバッタリと会う。そして少し会話をし3人で行動を始めたのだった。






校舎内に12時を知らせる鐘が鳴る。

鬼ごっこ開始から3時間が経過した。


鬼ごっこ終了まで、後、5時間。





女子生徒、残り 198人。


200人を切ってしまった。

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