B-SIDE12「ゴム」

「ねー、テッシー、ゴム、どれがいー?」

「どれでもいいよ」

「これなんかどうかなー、イボつきー」

「どれでもいいって」

「これはどう? イチゴ味ー」

「だからどれでもいいって。――てゆうか! イチゴ味ってなんだよ! なんで味が必要なんだよ!」


 本州に上陸して、最初に店に立ち寄って物色してるのがそれって、どうなの?


 まあ……。ビッチとヤリチンのコンビとしては、重要事項だと思うけど。


 ピュアな男子高校生や、女子高校生だったら、真っ赤になってしまいそうな場所に、俺たちはいた。


 とある街道沿いの、とある本屋。

 ……というのは、たぶんカモフラージュで、実際はエログッズショップ。エロDVDとか、エロ本とか、アダルトグッズの数々を取り扱う、怪しげなツラ構えの怪しい店。店名のうしろに「書店」とついていたりする。


「テッシーも選ばないと決めないと、めー、だよー? さっきので最後だったんだからー。3日くらい、やれないよー?」


 え? なぜに3日?

 お、おう……、そ、そういうことか。


 じゃ、じゃあその3日、溜めておくっていうのは……?


 いやいや。待て待て待て。正気に返れ。

 場所が場所だけに、なんだか頭がそっちに向かっていってしまう。俺は正気に返ろうと、努力した。


「普通のは、ねーのかよ? 普通のでいいんだよ」


「あはははは。すごいよこれLLサイズだって。ビッグマグナムだって」


 ナナは箱を開けて取り出して破って、広げて眺めている。

 なにそのサイズ。……ペットボトル?


「アメリカだと、これ、普通サイズだってー」

「うそおっ!?」


 俺が、ガーンと大いなるショックを受けていると……。


「テッシー? しっかりしようよ? こんな店にフツーのなんて、あるわけないよ?」


 もっともなことをナナに言われ、俺はますますショックを受けた。


「テッシーこれすごいよ。誰でもLLサイズになれるアタッチメント! テッシーもこれでLLサイズだよ」


 俺はさらにショックを受けた。再起不能の一歩手前まで行った。


「もしおまえがどーしてもというのであれば……、つけてもいいけど……」

「? べつにいらないよ? ちょうどぴったりいいとこにあたるよ? テッシーの」


 ビッチのいつもの物言いに、救われている、俺って……。


「おーい。普通のねーなら……、出るぞ? コンビニとかに寄るぞー。って……、だからおまえ、いつまで見てんだよ」


 ナナはまだ店のなかを物色している。懐中電灯がわりのスマホはナナしか持っていない。俺はナナを待つしかない。


「あれー? なんか普通の、売ってるよー?」

「えっ? どれどれ?」


 俺がいそいそと近寄ると、ナナの示していたのは、「普通のゴム」ではなくて、べつの普通の――。


「なんでマッサージ器とかあるんだろ? これドンキで売ってるやつー。みたことあるー」


 それはいうなれば、100Vで動く「電マ」というアイテム。

 その筋においては聖剣エクスカリバーぐらいの意味を持つ、伝説級のアイテムだった。

 てか! ドンキで売ってんのか!


「こっちのちっちゃいの何? タマゴみたいなやつ。んと? パール……、ローター? なにこれ?」


 しらんのか。ビッチのくせに。ちょっと意外。

 ナナは電池を入れてスイッチをONにする。そのとたん、ブルブルブル――と、卵型のローターが超振動をはじめる。


「あっ……!? これなんだかわかった! あれでしょあれでしょ! あれでしょー! えっちなやつー!!」

「そりゃ。この店はえっちな店なんだから。置いてあるものは、すべてえっちなモノだろうな」

「これあれでしょあれでしょ、あれでしょ!! こっちのスイッチのとこ――テッシーが持って、鬼畜に責めてくる! あれでしょーっ!」

「なんで俺が登場してんだこのクソビッチ。あとなんで鬼畜なんだ。てめえがどんな願望持とうがビッチの自由だが、俺まで巻きこむな」

「したくないの?」


 真顔で言う。ぶーんと唸るローターが、その白くて細い指先にある。


「……いや。……まあ。……その。……なんだ」


 俺は言葉に詰まった。YESともNOとも言いがたい。……空気読め。


「あっ――! テッシーテッシー! みてみて! こっちのスゴいよ! これなんかモノスゴイよ! うぃんうぃん動くよ! うっわ、ヤバっ、めっちゃコレ激ヤバなんですけどー!」


 ナナの手にする新しいアイテムは……、まあ、いわゆるアレだ。

 電動お●んちんというやつだ。

 ういーんういーんと、くねくね、首を振りたくっている。あんなもん突っこまれたら、中であんなふうに動きまわるわけで……。


「ねー! ねー! ねー! これ! いくつか持っていっていーい? いいよねっ!?」

「な。な。な。……なんに使うんだよ」

「使いみちなんて、ひとつだよ?」


 ナナは真顔になって言う。

 そりゃそうだ。


「お。お。お。……おまえが自分で使うのかよ」

「テッシーが、あたしに使うんだよ?」


 ナナは真顔で言う。

 ビッチ。ぶれない。


「じゃ。じゃ。じゃ。その……、小さいほうと、大きいほうとを、ひとつずつまでな。あ。あ。あ。……あんま、荷物になるといけないからなっ」

「じゃあ。〝ピンクローター〟と〝パールバイブ〟――一個ずつねー」

「いちいち言うなーっ!」


 俺はナナの尻を、蹴りっく蹴りっく。


「ああテッシー、そゆことやりたいんだったらー、こーゆーのも、あるみたいだよー。……鞭?」

「置け! もどしとけ! ポイしなさい! ポイ!」

「テッシーなんかマジすごい超反応してるんですけどー……? べつにいいよ? キョーミ、あるよ?」

「ねえよ!」


 俺は全力で否定した。

 だがナナはそこのSMコーナーから離れない。


「こっちのこれ、なんだろ? ……ええと、鼻フック?」


 うむ。それは鼻フックというやつだな。


「こっちの穴開きの卓球の球みたいのは……、ボールギャグ?」


 うむ。それはボールギャグだな。


「これ、なんに使うやつ?」

「知らん。まったく知らん」

「おんなじコーナーにあるんだから。これぜったい、そっち系だよねー?」

「言ったはずだ。俺は知らんと」

「……使ってみる?」

「つかわない」


 もー! こいつ! 駄目!

 駄目ビッチだ!


 俺はナナの手を引いて店を出た。

 アダルトグッズに囲まれてたときには、平然としてキャーキャー騒いでいたくせに、手を握っていたら、なんだかおとなしくなって、しおらしくなって……。顔を赤くもしていて……。なんだかこっちまで無駄に赤くなってしまった。


 結局……。

 「小さいやつ」と「大きいやつ」だけはナナが手に持ったままだったので、持ってきてしまった。


 え? 使ったかって? どうだったかって?


 ……。

 ………。

 …………。

 ……………。


 そんなん。ヒミツだ。

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