B-SIDE 08「畳と布団」

 畳の和室。

 そこに敷かれた一組の布団。

 ひさしぶりの布団の上で、俺はナナとセックスをしていた。


 布団の上という、あたりまえの場所で、ナナと普通にすることは、はじめてのことで――。

 いつもと違う慣れない感じに、いつもより早く、終わってしまった。


「早かったねー」


 ぽんぽん、と背中を叩かれる。

 くっそー。


 ゴムの始末をすると、ナナはごろんと俺の脇にきた。


「えへへ。腕まくらー」


 ナナは裸のまま、俺に身をすり寄せてくる。

 俺はいま賢者タイムに入っているから、スキンシップにも平然としていられる。

 擦り寄ってくる猫を抱きしめているようなものだ。


 くっつきあって感じる体温と体臭とは、ひたすら、心地よいだけだった。


「おまえ。くっつくの。好きだよな」

「くっついているだけでも、いーんだけどね。男のコって、ほら。……それだけだと困るでしょ?」


 ビッチなだけあって、


「バイクの旅って、いいよねー。くっつき放題」


 くっつかれる俺のほうは、溜まったもんじゃないんだがな。

 ま。夜になれば、毎晩、こうして発散できるわけで、そのぐらいは我慢していられるが。


 ナナはこれまで何人の男と、こうしてきたのだろう。

 そんな愚にも付かないことを考える。


 なぜそんなことを考えてしまうのか。

 そちらを考えはじめると、おかしな結論になってしまいそうなので、考えないようにしている。

 旅をはじめて最初のうちは、「お? ヤレんの? ラッキー」ぐらいに、考えていたわけだ。ナナのほうも、「ヤリまくれるー。ラッキー」ぐらいでいるのだろうし……。ビッチだから。


 そんなシンプルライフが、肌を重ねるごとに、ややこしくやってゆく。


 しばらく、ヤルのは……。やめておこうか?


 いいや……。だめだな。なにしろビッチだからな。

 セックス抜きとかにしたら、襲われるわ。

 俺。犯されるわ。

 だいたいこっちだって、一人でスルとか……。アホすぎる。


「ねー、テッシー」

「………」


 ナナは俺の胸板にほっぺたをすり寄せながら、甘えた声をだす。

 俺は答えない。

 ちょっと冷たいぐらいに放置する。いつものことだが。


「いまー、なに考えてるのかー……、あててみせよっかー?」


 俺はぎくりとした。

 だが声には出さずに――。


「言ってみろよ」

「あしたのごはん、なんにしよー?」

「ハズレだ。ぶぁか」


「ぶぁか? って、なに?」

「ばかの上位形」

「なによそれー、なんでー? なんでー? しどい」


「なんでヤッたあとに、メシのこととか考えるんだっつーの。ぶぁか」

「えー? あたしよく考えるけどなー? シテるときとかー?」


 俺は頭が痛くなった。

 ビッチだ。やっぱこいつはビッチだ。


「あっ。そうだ」

「あしたから。ナマでいいからねーっ?」

「………」

「うれしい?」

「………」


 俺は答えずにいた。

 ナナは間近からバカワンコの笑みを向けている。いいこと言ったー? 喜ぶー? とかいう期待のキラキラした目を向けている。


 やっぱ。ビッチだ。こいつ。ビッチだ。


「うれしくない?」

「いや、まあ……、その、なんだ……、まあ……、な」


 俺は鼻の頭をこりこりと掻いた。

 否定はしない。決して否定はしないが、肯定もしないでおく。


「だよねー! 男のコって、ナマ、好きだもんねー」


 カッチーン。


「……今日からにしよう」

「え? え? え? ちょ、ちょっ、ちょーっ!?」


 俺はビッチに襲いかかった。まず口を塞ぎ。それから――。

 ナナはそれほど抵抗をしなかった。

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