第4話 決闘と創現武装

――煌華学園 グラウンド――



「校則第8条、『生徒同士の揉め事は当人同士の和解、職員の仲介、或いは第9条に示す決闘試合によって解決するものとする』。


 これを適用するってことでいいんだな?」


 校則第9条には、『決闘試合に於いては、どちらかが戦意喪失・棄権または戦闘続行不可と審判が判断するまで続けるものとする。またこれは何人なんぴとにも侵されない。』と書かれている。


「あぁ、その通りだ。」


 試合は殴り合いなどではなく、《創現武装》を用いて行われるが、俺はグラウンド脇にあった倉庫から練習用の剣型の《創現武装》を拝借していた。


「テメェ自分の《創現武装》はどうした?」


「本来なら学園の倉庫に登録するんだよな?


 実はまだ寮の部屋に置いたままなんだよね。だから共用のこれを使うつもりだよ。」


「ふん、舐めやがって。俺は自分のを使うからな。」


 男子生徒は生徒手帳を操作し、自分の《創現武装》を召喚した。


 男子生徒の正面に召喚されたそれは、身の丈ほどの大斧だった。対して俺は練習用の剣。傍から見れば既に勝敗は見えたようなものだ。


 野次馬が集まってくる中、ユリが心配そうに見守っているのが見えた。俺は親指を立ててみせると相手に向き合う。


「それじゃ、始めようか。


 煌華学園1年武術A組 坂宮涼也」


「煌華学園1年武術A組 ベルハルト・レデリュー」


「「ここに校則第9条の規約にのっとり、決闘試合を始める!」」


 宣言するとどこからかドローンが飛んできた。試合の審判だけでなく、当人達の治癒能力を高めたり、万が一の時にはシールドを展開し、強制的に試合を終わらせることができる権限を持っているらしい。


『確認しました。それでは試合を開始します。』


 音声とともにドローンのスピーカーからブザーが鳴り響いた。試合開始だ。


「後悔すんなよクソ野郎!」


 ベルハルトは大斧を軽々と肩に担ぐと突っ込んで来た。見た目に反し足は速いようだ。それにかなりの威圧感を放っている。


 並大抵の人ならこんな筋肉質な相手が迫ってきた場合、とっくに逃げ出しているだろう。


 並大抵の人なら、な。


「足元には気をつけた方がいいよ?」


「あん? どういう―――」


 聞き返し終える前にベルハルトは日光で輝く地面で足を滑らせ、派手に背中を打ちつけた。


「クソ! どうなってやがる!」


「見た通り、地面を凍らせただけだよ。」


「なっ……小賢しい真似を。」


 ベルハルトは斧を振り上げ地面に叩きつけ、地面に張られた氷のほとんどを砕いた。なるほど、大した力だな。


 でも―――


「俺の勝ちだね。」


「なっ―――」


 ベルハルトが氷を砕くのに意識を逸らした刹那、俺は彼の懐へと一気に間合いを詰めた。


「氷に沈め!」


 そう言って斬り上げると同時に、足元から彼を氷漬けにした。一般人なら命の危険が伴うが、これくらいで《超越者エクシード》は死なない。


 ベルハルトは驚愕の表情を浮かべたまま、氷像と化した。反撃してくる様子は……ない。


『ベルハルト・レデリューの戦意喪失を確認


 勝者、1年武術A組坂宮涼也』


 試合は終わった。そのままにしておくわけにもいかないのでベルハルトの凍結を解いた。倒れかかったベルハルトを仲間が支える。


「おいまじかよ。」

「一振りで……終わらせたのか?」

「ていうかあいつ、学校の備品であんな力が出せるのか?」


 見物人たちがざわつく中、俺はユリの方へ歩いて行く。彼女もこの試合があまりにも早く終わったことに対して、唖然としている様子だ。


「リョーヤ……あなたの予想校内ランク、何位なの?」


 予想校内ランク? そういえば生徒手帳に校内ランクの欄があったな。

 

 俺は生徒手帳を取り出して確認した。……えっと、ん? ちょっと待て?


「……なんか、10位以内って出てるんだけど……?」


 一瞬の沈黙の後、その場にいた全員が一斉に声を上げた。


「「「……えええええええ!?」」」


 いや、俺も言いたいよ。


 えええええええ!?




――煌華学園 食堂――



 俺達の噂はたった数時間で、あっという間に校内に広がった。しかもいつの間にか動画を撮られていたらしく、学内ネットワークにその様子が流出した。


 食堂に来ても、あちこちからずっと視線を感じる。これはしばらく続きそうだ。俺は食事の手を止めて尋ねてみた。


「なぁユリ、そんなにすごい事なのか?


 その……練習用の《創現武装》を使いこなすってのは。」


 話題になっているのは、もちろん予想校内ランクの件もそうだが、大半は備品でちゃんと能力を使いこなしたことの方が割合としては大きいらしい。


「もちろん、凄いなんてもんじゃないわよ?


 そもそも《創現武装》は、《超越者エクシード》がその能力を発揮した時に初めて創り出すことの出来る、オリジナルの武器なのは知ってるのよね?」


「もちろん、俺にもあるからね。それくらいは知ってるよ?」


「だから、他人の《創現武装》や練習用のだと体術や剣術を磨くのには使えるけど、自身の能力を行使するのには向いてないのよ!」


 つまりこういう事だ。


 《超越者エクシード》は、その能力が初めて発現した時に自分のイメージする、最も戦いやすく強力な武器を生成することができる。


 そしてそれは一度生成すれば壊れても1日放置すれば元通りに戻り、肉体の成長に合わせて最適な重さや大きさに変化する。


 つまり、自身の一部と言っても過言ではないのだ。


 それなのに、能力に目覚めて間もない1年生が能力を自在に行使しただけでなく、自分のではない《創現武装》を用いることは至難の業である。という事だ。


「それに―――」


 ユリが周りを見渡した。やはり人目が気になるのだろうか。


「あの決闘試合を見た女子たちがさっきからジロジロ見てるの気づくでしょ?」


「え? そうなのか?」


 確かに見渡すと、目が合うのはほとんど女子だ。たまに凄く怖い目で睨んでくる男子もいるがスルーしよう。


「んまぁ、確かに。」


「なんか、イヤ。」


 よく分からないが頬を膨らませてそっぽを向いた。何? かなり可愛いんだけど!?


「ま、まぁ、いいじゃないか。そのうちこの熱も収まるさ。」


「……そうね。」


 すると食堂のスピーカーから生徒の呼び出しのチャイムが鳴った。


『1年武術A組の坂宮涼也さん、至急職員室までお越しください。繰り返します―――』


 食堂中の視線が一斉に俺に注がれる。俺はこの後自分に起こる出来事について、嫌な予感しかしなかった。

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