Ⅱ-Ⅱ
「ヒュロス君、私に協力してもらってもいいだろうか? 王都を奪還するには、君の力が必要不可欠。どうか――」
「最初からそのつもりですよ、お義父さん」
「助かる。……しかしだね、私をお義父さんと呼ぶのは止めてもらえないだろうか? 私と君は確かに義理の親子だが、それと同時に戦友でもある。昔の呼び方で構わないよ」
「……分かりました。じゃ、メラネオスさん、で」
「ああ」
協力の証だろう。彼は頷きながら、俺に手を差し出してきた。
拒む理由はなく、男性にしてはやや細い手を握り返す。
――もっとも、細いのは指や手だけに限った話ではない。メラネオスの全体的な体型自体、筋肉はあまりついていなかった。
反面、それは無駄を削ぎ落とした結果とも言える。戦士ではなく、狩人の肉体を持っているのだ、彼は。
見た目ほどの軟弱さなど、微塵も持ち合わせてはいない。悲観に屈しない強さがそこにはある。
だからこそメラネオスはトロイア戦争を戦い抜いた。今の外見年齢もその頃に近いし、味方としては文句なしに心強い。
「……しかし、本当に情けないところを見せてしまった。他言無用で頼むよヒュロス君に――おや、そこの美しい女性は……」
「お久しぶりですわ、メラネオス様。ブリセイスです」
「やはりアキレウスの……そうか、君もこの世界へ来ていたのか」
腕を組みつつ、何やらメラネオスは納得している。
内容がさっぱり分からない俺とブリセイスは、彼の反応に疑問を抱くだけだ。もしかすると帝国の内情や、ラダイモンが関わっていたりするんだろうか?
「あの、どうしたんです?」
「? ああ、大したことではない。トロイア戦争と同じような状態が少しずつ出来上がっている、と思っただけでね」
「と言うと?」
「そうだな……」
思案する仕草のまま、メラネオスは森の奥へと進んでいく。
彼が足を止めたのは、ちょうどいい広場を見つけた時だった。密集していた木々が運良く無くなって、一息つくには最適な空間が確保されている。
俺はバリオスから離れると、適当な木に
「話の続きだが……今、異世界アカイアではギリシャの英雄達が次々に召喚されている。帝国と王国、その二つが決着をつけるために」
「どこかで聞きそうな構図ですねえ。トロイア戦争とか関係なしに、そこら辺で見聞きするような話じゃないですか?」
「それは私も思う。……問題なのは、それぞれの国についている神でね。帝国にはまず太陽神・アポロン、そして月女神と戦神、美貌神の四柱がお力を授けている」
「……ちなみに、王国? の方は?」
「処女神・アテナの他、神王妃、海神の三柱だ。神王・ゼウスは様子見に徹している」
「――なるほど、それはそれは」
完全にトロイア戦争の再現だ。
もちろん、所々で差異はあるんだろう。が、神々の対立図については疑いの余地がない。
ひょっとしてこの辺りが荒野なのは、神々が暴れた結果だったりするんだろうか? 帝国についている戦神一人でも、これぐらいの状況は作れるだろう。
まあ彼、アテナには手も足も出せないのだが。
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