Ⅰ-Ⅳ
『では私は帰る。集落にいる捕虜から情報を得た際には連絡するのでな、少し待っていてくれ』
「つまり、オジサンには会うんですね?」
『会うわけなかろう! て、手紙のやり取りをするぐらいだ!』
ふんっ、と花を鳴らして、アテナは姿を消していく。
残された俺達はさっそく行動を開始した。バリオスに跨り、地面に立ったままのブリセイスへと手を伸ばす。
「さあお嬢さん、どうぞこちらに。軽い空の旅といきましょう」
「飛べるの? この子」
「もちろん。場所を選ばずに走るのが、コイツの特徴ですからね」
最大の能力を発揮できるのは海だが、視界にそんな場所は見当たらない。そもそも川さえあるかどうか。
ブリセイスは目を見開きながら、俺の手を取ってバリオスの背へ。
二人分の体重をものともせず、神馬は空に向かって飛び立った。
「っ――す、凄いのね!」
「翼を持ってる馬には劣るかもしれませんけどね! このまま雲の上まで上がって――」
「待って!」
地上を俯瞰しながら、ブリセイスは力強く静止を求めた。
何事かと思って視線を追ってみると、馬に乗って地上を走っている集団が二つ見つかる。両者の間には距離があり、あまり平穏な気配ではない。
追う者と追われる者。狩りの構図が、そこには存在していた。
しかも追っているのは、帝国兵と思わしき者達。ブリセイスに受けた説明通り、赤い衣装で全身を飾っている。
「……誰でしょうね、追われてるの」
「少なくとも私達の敵ではないでしょう。……どうする? 助けるか助けないか、私は貴方の考えに従うわよ」
「――じゃあ、助けますか」
逃げに徹している相手を追うなど、英雄の所業ではない。視界に収めるだけでも煩わしい。
罰するまでだ。
「行くぞバリオス!」
手綱を振るい、地上へ一気に急降下する。
さながら空からの鉄槌。気付いた帝国兵たちは一目散に逃げようとするが、神速に至ったバリオスを避けられる道理はなく。
「み、神子!?」
「うわあああぁぁぁ!?」
あえなく、轟音の波に消えていった。
巻き上がる土煙。戦場の流れは停止したも同然で、未だに帝国兵たちの困惑が聞こえてくる。
反面、逃避行の最中にあった誰かさんも驚いているようだった。……本当、誰なんだろう。後ろ姿を見るに男性ではありそうだが。
「さて、まだ戦えるヤツはいんのか?」
晴れていく視界の中。俺は使い慣れた得物を手に、バリオスから地面へと移った。
しかし立ち上がっている者達を中心に、戦意は少しも残っていない。我先にとこの場を離脱しようとする者ばかりである。
――面白みに欠けるが、これも必然。それだけ絶対的な力の差がある。
「無事かー?」
順調に離脱していく敵へ背を向けて、俺は助け出した男性へと声をかけた。
しかし直ぐに返答が来るわけではない。馬から降りて顔を向ける彼が、驚きのあまりに固まっていたからだ。
それは俺も同じこと。
「め、メラネオスさん!?」
「ヒュロス……!」
意外というか、まあ起こるべくして起こったというか。
色々と事情を抱えていそうな義父こそ、俺が助け出した男らしい。
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