Ⅱ-Ⅱ
「……でも、残念だわ」
「? 何がです?」
「貴方の活躍が見れなかったことよ。せっかく知り合ったんだから、この目に焼き付けておきたかったんだけど……」
「最初に見せたじゃないですか。あれではご不満だと?」
「ええ、それはもう。だって私、貴方のこと気に入っちゃったんだもの。愛した人が活躍する瞬間を記憶に収めておくのは、女の趣味よ?」
「――」
歩きながら、彼女は腕と腕を絡めてくる。
柔らかい女性の感覚はどこまでも魅力的で、理性のネジが少しずつ外れていく感触さえあった。父上もハーレム作ってたっけな、と煩悩塗れの感想も脳裏をよぎる。
順調に高まっていく緊張感。ブリセイスにもきっちりバレているようで、彼女は腕の力を強くしていた。
「ねえヒュロス君。私、優良物件よ? この辺りの事情には詳しいし、頭の回転だって他の女よりは早いわ。アキレウス様の補助も良くやっていたし」
「……そういえば、父上が戦場で獲得した女性の中では誰よりも優秀だったと」
「お陰で色々と忙しかったけどね。……今はヘパイストス様に仕えているけど、私は正直満足してないの。この集落は外に対して干渉することもないし」
「俺に外で戦って来い、って言ってます?」
「あら、そのつもりでしょう?」
二つ返事で頷くしかない問いだった。
予想通りの回答を受けて、ブリセイスは艶然とほほ笑んでくれる。潤んだ青い瞳は海のように深く、魅入ったら最後、決して離さない危うげな美しさを有していた。
「貴方が集落を出ていく時には、私も連れて行ってくれる? この身体も、心も、すべてヒュロス君に預けるわ。ふふ……」
「ちなみにヘルミオネが割り込んできたらどうします?」
「問題ないわ。押し倒せば、こっちのものよ」
とびっきり甘い声で、ブリセイスの瞳がこちらを射抜いてくる。
ちょっと本気で理性のタガが外れそうなので、俺は不自然に目を反らした。彼女はそれを見て微笑むだけ。なんだか、お姉さんが出来た気分だった。
俺達はそのままヘパイストスの家に赴く。が、本人の姿はなく、家の奥から金属を打つような音が響くだけ。
「お仕事中?」
「でしょうね。呼んだ方が良さそうだけど……邪魔するのも失礼だし、ここは私が聞くとしましょうか。あ、その蛇? はどうするの?」
「会話を盗み聞きされるのも困りますし……とりあえず外に置いておきましょうか。口を塞いだ状態で」
「ええ、それがいいわ」
肝心の本人から出ている反論を聞き流しながら、俺達はテキパキと処置を進めていく。
でも蛇は確か、皮膚に伝わる振動で音を感じるんだっけ? コイツについてはきちんと耳が生えているが。
まあ逃げないようにしておけば大丈夫だろう。元が人間なだけに、常識が通用しない場合もある筈。
『んー! んー!』
適当に縛りつけて、家の外へ吊るすことにした。
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