第5話 かのこ舞い(前編)

 朝晩の冷え込みが増してくると村はほんのり色づき始め、収穫の季節を知らせる。やがて紅葉した山から赤みが抜け、葉が落ちて柿の実が目に付くようになるとすぐ冬が来るのだと澪が教えてくれた。

 澪のいる山を訪れるとき、『あっという間に日が落ちるから早めに帰れ』という彼女の言葉を特に実感する。真夏と同じ時間で動こうとすると、夕間暮れには足下がよく見えない。いっそ雪でも降れば照り返しで明るくなるのにと思いながら下り坂を歩くのが、最近の聖だ。


 授業が終わって聖が鞄に教科書をしまっていると、手元にふっと陰が差した。顔を上げると、ショートボブの女子がやたら愛想のいい笑顔で立っている。

「大音くん、だよね?」

「はい、そうですけど」

 誰だったっけ、と聖は脳内のデータベースから情報を引っ張り出す。名札に走るラインは緑色だから、聖の一つ上の三年生だ。知り合いではないが、その顔には見覚えがある。

「はじめまして。三年のコセガワチグサです」

「小瀬川って、あっ、会長!」

「ただの『小瀬川』でいいよ。もう引退したから」

 今は新生徒会の役員選挙も終わり、二年生が主体になっている。元・生徒会長、小瀬川ちぐさはそう言って気さくそうに笑った。

 そういえば春に転校してきてすぐ行われた生徒総会で、女子の生徒会長なんてかっこいいな、と思ったものだった。しかし聖が一方的に知っているだけで、彼女と言葉を交わすのは初めてのことだ。どうして声を掛けられたのかはさっぱり分からない。

 よほど変な顔をしていたのか、ちぐさはすぐに本題を切り出した。

「そうそう、用事があって。突然だけど、大音くん、郷土芸能とか興味あるかな」

「郷土芸能?」

「この辺の男は大抵みんなやるんだけど、今度の秋祭り、神社で収穫祈願の踊りをするんだ。大音くんもよければやってみないかなと思って」

「はあ。でもどうして小瀬川先輩が人集めを?」

 ちぐさは眉をハの字にすると「実はうちのおじいちゃん、踊りの保存会の会長なの」ときまり悪そうに言った。

「最近、踊りやりたいって子が少なくて困ってるみたい。男の子の転校生がいるって言ったら、連れてこいって指令を受けちゃって。練習の見学だけでも、どうかな?」

 小学校も中学校も各学年一クラス。ただでさえ過疎が進み人口が減っている上に、練習が面倒だとか古臭くて嫌いだとか、後継者として育てたい年頃の若者たちはマイナス面ばかりを見て参加をやめるという。なるほど、踊りについては写真でしか見たことがない聖でさえもこの地域では貴重な担い手だろう。

 生まれ持ったカリスマ性――彼女がそれに気付いているのかいないのかはさておき――をいかんなく発揮して、ちぐさは手を合わせて「お願い!」と頼み込む。この人のお願いを断れる生徒が、全校に何人いるだろう。聖の心はあっけなくぐらっと傾いた。

 と、そこで唐突に男子生徒の声が聖の名を呼んだ。

「聖、よく考えた方がいいよ」

 突然の横槍に、ちぐさは目を吊り上げて声の方向を見る。そこにいたのは聖のクラスメイト、セータこと雲本誠太郎だった。彼は不審そうにちぐさと聖を見比べると、明らかに反対の立場にシフトした口調で続けた。

「週に何度も、しかも夜遅くまで拘束されることになるよ。保存会のオヤジたちは怖いし、練習きついし、獅子頭は重くて臭いし」

「ちょっと、誠太郎。人が誘ってるのにそんなこと言わないでよね」

 にらみ合う二人に挟まれて、聖は居心地の悪さに逃げ出したくなった。ご近所はみな家族といった雰囲気のある地域だから、学年が違っても友人同士という生徒たちは多い。遠慮のない物言いから、彼らが幼なじみなのだろうということは聞くまでもなかった。しかも、どうやら腐れ縁の。

 聖を無視して、会話は続行している。

「しかもわざと嫌そうに言ったでしょ、今」

「ちぐさがそういう大事なことを隠してるからだよ」

「後からちゃんと話すつもりだったのに、あんたが邪魔したんでしょ」

「経験者の意見も聞かせてやろうと思ったんだけどなあ」

「え、セータも踊りやってるの?」

 これ幸い、渡りに船とばかり食いついた聖に、誠太郎はげんなりした表情でうめくように言った。

「いやいや、だけど。毎年こいつのじいちゃんに強制参加させられてるんだ」

「嫌ならやらなきゃいいじゃない。結局毎年出てるんだから、後からグチグチ文句言うのやめて」

「落ち着いてよ二人とも」

 結果的には聖が口を挟まなかった方が平和だったかもしれない。しかたなく、気が進まないながらも仲裁に入る。

「セータの言うことも確かに分かるけど、やってみたいです。前の学校じゃ出来なかったことだと思うから。せっかくの機会だし、よろしくお願いします」

 ちらりと自分の耳のことが頭をかすめた。知らない人がたくさん集まる場所に出向くと、余計なことを聞いてしまうのではないか。少しだけ抵抗はあったものの、とある下心が生まれ、聖はちぐさのお願いを聞くことにした。

「ほんと? 良かった、助かる。ありがとね」

 ちぐさは満面の笑みでぺこりと頭を下げた。あまり有り難がられると、『下心』のおかげで参加を決めた身としてはちょっと恐縮してしまう。

 ちぐさはあとで連絡先と練習日程を知らせると言って去って行った。別れ際に、誠太郎に向けて舌を出しながら。


「あ、澪さま。ご覧になってたんですか?」

 聖が振り返ると、微苦笑を浮かべた澪が立っていた。

「草を踏む音と、それに聖の匂いがしたのでな。いつもなら儂が出て行くまで黙って杉の下に腰掛けているはずなのに、今日は少々勝手が違うようじゃと、起きてきた次第。……恐らく、それは鹿踊り(ししおどり)じゃな?」

「分かります?」

「うむ、まあ、なんとかな」

 顔をしかめてうなずくと、澪は持って回った言い方で肯定した。

「大昔に見たことがあってな。記憶を呼び戻すのに時間がかかったが、覚えておるぞ」

「まだまだ下手なので、恥ずかしいんですけど」

 練習に出始めて二週間もすると、おおよその振り付けは覚えつつあった。ただ、覚えたのと踊れるのとは違う。頭で記憶するよりは身体で覚えた方がいいとアドバイスを受けたので、こうして復習をしているところだ。この山なら人が来ることはほとんどないし、こっそり練習するのにはもってこいだった。

 練習は一時中断して、聖はいつものように大杉の幹にもたれて座った。春には枯れていたかに見えたこの杉も、今では他の木と比べても遜色がないほどの緑で覆われている。それもきっと、隣に腰を下ろした山の神のご利益なのだろう。

「学校の友達に誘われて、祭に出ることになったんです」

「秘密の訓練というわけか」

「はい。まわりは何年も踊ってきた人ばかりなので、僕だけ遅れをとるわけにはいかないと思って」

「確かに、あまり得意ではなさそうじゃのう」

 遠慮がちにぽつりと呟いた澪のせりふ。歯切れ悪さの中にほんの一かけらだけこめられていた憐れみの色に気づき、少なからず自覚があった聖は顔を赤らめた。

 聖は決して運動が苦手なわけではないのだが、正直言ってダンスや体操に関しては全くと言っていいほどセンスがない。澪もコメントに困ったのだろうと同情すら覚えるほどに、だ。

 しかし経験者に囲まれていると、初めてだから、苦手だからという言い訳は飲み込まざるを得なかった。特に誠太郎は群を抜いて上手い。その上、部活があるにも関わらず毎回時間通りに練習場所の公民館に現れ、真面目に舞っているので大人からも子供からも信頼が篤かった。ちぐさとあれだけ派手にやり合っていたのだから、てっきりやる気がないのだとばかり思っていただけに、聖には意外だった。

「お主は、生真面目じゃのう」

「特訓でもしないとついていけないだけですよ。……僕の友だちがすごいんです。同じ歳なのに保存会のエースで。ただ――」

「えーす、とは何じゃ?」

「あ、ええと。主力というか、いちばん上手というか、そんな感じですね」

「ふうん」

 澪は満足そうににやりと頬を緩めた。出会ってから、聖はかなりの数のカタカナ言葉を澪に教えたが、近頃は新しい単語を覚えるたびにこうして含み笑いをするのが癖になっている。そんなに楽しいのなら今度は国語辞典でも持ってこようか、でも彼女は字が読めるんだったっけ、などと聖が思案していると、澪の声がした。

「ただ、何じゃ?」

 聖の話を遮ったのを申し訳なく思ったのか、続きを催促する。考え事をしていて何のことだったかすっかり忘れてしまっていた聖だったが、そういえば誠太郎のことだったとやっと思い出した。

「そうでした。僕の友だちが上手いんです。ただ、踊りを教えてくれている方のお孫さんともめるのが日課みたいで。彼女もすごくいい人なのに、なんであんなに仲が悪いのか不思議です」

 ため息をつきながら、聖は肩を落とす。

 練習が終わってからはメンバー全員で夕食を取るのが決まりだった。差し入れ担当は踊り手の奥さんや娘さんたちで、当然ちぐさも毎回顔を出している。そのつど誠太郎との口げんかが始まり、聖はいつも間に入っていた。周りのみんなは毎年のことなので慣れているのか、笑いをこらえながらことの成り行きを見守っている。むしろ、仲裁役を務める聖も含め、トリオで名物になっている感があるほどだ。

「痴話げんかは鹿も食わぬと人間はよく言うではないか。放っておけ」

 目を丸くした聖に、「儂がこんなことを言うのは、おかしいか」と膨れっ面で言う。びっくりしたのは、鹿うんぬんという澪の珍しい冗談にだけではない。聖には誠太郎とちぐさの言い合いが痴話げんかだという発想自体がなかったので、澪のせりふに完全に意表を突かれた形になったのだ。

「いえ、冗談に驚いたんじゃないです。あの二人が実は『ケンカするほど仲がいい』っていうのが想像できなくて」

「お主はそれで良い」

 前にも同じことを言われたような気がする。子供扱いに抗議しようと思って隣を見ると、やけに大人びた表情の澪の視線に出会った。正確なところは聞いたことがないが澪が年上なのには違いない。今だって、わざわざ聖の年齢に合わせて化けてくれているのだろう。ただ、中身が何であれ目の前の少女に物憂げな顔をされると何も言えなくなってしまう。

 聖が黙っていると、澪が静かに口を開いた。

「踊りの腕はともかく、改めて見るとなかなかいいものじゃの」

「昔はお嫌いだったんですか?」

「獅子頭を見ると、どうも嫌なことばかりを思い出してな。なるべくなら考えないようにしていた頃もあったのう」

 一瞬沈んだ表情を見せたものの、いったいどうしてと聖が聞き返す前に、澪は大昔の話だとさらりと流してしまった。そして、「お主の踊り、ぜひ見たいものじゃな」と半眼になってこちらを見る。その顔から察するに、どうやら楽しみ半分、冷やかし半分といったところらしい。

「上手くなったら発表会しますね」

「おう、楽しみにしておるぞ」

 そう言うと、澪は再びにやりと笑った。完全にからかわれている。

 そもそも聖は、『神に奉納する踊りならぜひ澪の前で舞いたい』という思いで踊り手に志願したのだ。さすがに少し悔しくなって、聖は絶対に上手くなって驚かせてやろうと心に決めた。


 祭まで半月を切り、いよいよ本番どおりに衣装を付けての練習が始まった。

 その初日、いつもなら練習終了後に来るはずのちぐさもなぜか開始時間に合わせて現れていた。彼女は聖を見つけると、大きな風呂敷包みを抱えて近寄ってきた。

「大音くん、調子どう?」

「ぼちぼちですね」

 俯いて苦笑すると、ちぐさは聖の耳元で囁いた。

「オヤジたちに怒られても負けないでね。本番までに何とかなればいいんだから。……もし嫌な思いしてたり、やめたくなったりしたら私に言って」

「大丈夫ですよ。下手ですけどやる気はありますから」

 自分が誘った手前というよりは、心から聖の心配をしているといった様子だった。心遣いが嬉しくて聖が笑顔で答えると、彼女は「それなら、誘って良かったな」と言って荷物を床に置いた。ガサっと、大きさのわりには軽そうな音がする。

「今日はこれを配りに来たの。衣装と頭は数がないから交代で着るんだけど、足下だけは履き慣れたものを使えるようにって。私は子供の分担当。……はいはい、みんな並んで!」

 言いながら解かれた包みの中身は、ビニール袋に入ったままの真新しい足袋とわらじだった。足袋は市販品だが、わらじは恐らく手作りだ。足のサイズを告げるのと引き替えに手渡され、今日からこれを使い込んでいくんだと考えるとちょっとわくわくする。

「もらった人は、あっちに行ってね。おじさんたちがわらじの履き方教えてくれて、衣装着せてくれるから」

 指さされた方向では、保存会長、つまりちぐさの祖父が手招きをして待っている。

 元生徒会長らしい見事な仕切りに従って移動した先には獅子頭と衣装、小道具が並べられていた。

 初めて踊り装束を目の当たりにした聖は思わず顔を背けた。鹿を模した衣装だと前もって知っていたのに、そんな簡単なことにも気付かなかったなんて。

 もう一度、視線を戻す。

 背中からまっすぐに天へと伸びるであろう、御幣にも似た二本の真っ白いササラがまず目を引いた。異形の頭は獅子、あるいは麒麟のようにしか見えないが、一対の見事な枝角が取り付けられているので鹿に似せたものだと分かる。何よりも聖の心に突き刺さったのはその角だった。

「小瀬川さん。これって本物の角ではないですよね?」

「これは木を削って作ったやつだよ。昔は、鹿から取った角を使ってたもんだ。一説には、狩った鹿を供養する踊りとも言われとるからなあ。ありがたく舞わんとねえ」

 ちぐさの祖父はそう言って獅子頭に向かって手を合わせた。彼も若い頃は猟銃と罠を担いで山を歩いていたという話を、聖は小耳に挟んでいた。猟師時代のことを思い出したのかもしれない。

 澪が鹿踊を好まなかった理由は、おそらくこれだろう。いくら人間が鹿の祟りを鎮め、畏敬の念を表すためとはいえ、命を落とした仲間たちの変わり果てた姿を見せつけられなければならないのだから。しかし、澪はそれでも自分の踊りを見たいと言ってくれたのだ。嬉しさももちろんあるが、それよりも何が何でも上手に踊らなくてはという熱意が湧いてくる。

 聖も、ちぐさの祖父にならって静かに手を合わせながら公演の成功を誓う。しかしその黙祷は長くは続かず、ちぐさの声で破られることになった。

「また来たのか、ってどういうことなの」

「ほんとのことじゃないか」

「だって私、用事があって来てるんだよ」

「間違ってないだろ? 正直に言っただけ」

 それに答えるのは誠太郎だ。いつものケンカがまた始まったのだ、と聖が頭を抱えながら仲裁に入ろうとすると、ちぐさの祖父は「やめとけやめとけ。巻き込まれる」と歯が何本か抜けた口を開けて笑った。

「でも」

「誠太郎とちぐさは生まれたときからああなんだよ。でも、口をきかなくなるほどのもめ事にはなったことはねえな。みんなそれを知ってるから止めねえんだ」

 彼はそう言うが、二人の様子がどうもおかしい。喧噪の中、とぎれとぎれに聞こえる彼らの語気が、いつもと違って荒いのだ。

「そんな言い方、しなくてもいいじゃない」

「俺はせいせいするよ」

「もういい!」

 言い捨てると、ちぐさは半ば駆け足になりながら部屋から出て行った。

『……なんで、こうなっちゃうんだろう』

 ひどく悲しげで、こちらまで気分が沈みそうな声だった。見回したが、誰も反応していないということは聖だけが拾った呟きだったのだろうか。

 いったい何があったのかと視線を部屋の中へとやると、誠太郎と目が合った。彼は聖に気付くと慌てたように向きを変え、わらじと足袋を抱えて練習へと戻っていった。


 それ以来ちぐさは練習に顔を出さなくなり、『口をきかなくなるほどのもめ事』が起こったらしいと、聖もようやく察した。彼女と聖とは学校では何度か顔を合わせたし、普通に会話もしたが、隣にいた誠太郎のことはわざと無視をしているように見えた。誠太郎も誠太郎で、ちぐさを見かけても避けて通るわけでもなく、かといって以前のようにケンカをするわけでもなく、まるで、前から知り合いではなかったかのように無言ですれ違っていた。

 聖が出て行って口げんかを止めていたのはほんの数日前だったはずなのに、今はそのころが懐かしい。澪の言うように、ケンカしているうちが華だったのだろうか。もう、二人の仲は修復不可能にまで悪化しているのだろうか。

 その日、聖は思い切って部活へと急ぐ誠太郎を呼び止めた。

「セータ、先輩と何かあったの?」

「何もないよ」

「先輩、練習の差し入れにも来なくなったし、最近あまり元気なさそうだから」

「あんなやつのことなんか、知らない」

 素っ気ない顔で、誠太郎はしらっと答えた。

 そういう誠太郎も、ちぐさが出て行った日を境に練習量が目に見えて減っていた。練習を休むこと自体はほとんどなかったが、ほぼ毎回遅れてくる。それでも相変わらず踊りは上手く、聖も細かい振り付けを教えてもらうことは多かった。

「でも、セータとケンカしてからでしょ。先輩が来なくなったのは」

「別に。……あんまり踊りのこととか祭のこととかうるさく言うから、いなくなるくせに、って言っただけ」

「どういうこと?」

「あいつ、今年受験だろ? トップ校狙える成績なんだ。だから」

 ある程度成績がいい生徒は近くの高校ではなく、街の進学校に行くためにここを出て行く。それはよくあることで、ちぐさも当然そうだろうと校内では噂になっていた。だからといって、誠太郎の言いぐさは仲が良くないとはいえ幼なじみに対してあんまりなものだ。

「それは、ちょっとひどいよ」

 さんざん迷って、聖は友人に意見することにした。

「僕、引っ越してきたから幼なじみがいないんだ。二人がうらやましくてずっと見てたから、仲直りして欲しいなと思って」

「もともと腐れ縁なんだ。仲直りするほどの仲もないんだよ。それが切れるだけ。どうせ春には切れるんだから、早まっただけだよ」

「でも――」

「そう言ってくれる聖には悪いけど、さ」

 誠太郎は聖の言葉を遮って答えると、教室を出て行った。

 生まれたときから一緒だったという二人の片方が欠けても、誠太郎は平気だと言った。しかし、あまりにも長く一緒にいすぎると感覚が麻痺することもあるのではないだろうか。現に、本人は気付いていないだろうが、あの日ちぐさの背中を見ていた誠太郎は気が気でないといった表情だったのだ。

 聖はちぐさの寂しげな呟きを聞いている。当たり前のことが当たり前ではなくなるのを誰よりも早く感じ取っていたのは彼女かもしれないと、聖は思った。

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