第32話 悪魔吊り⑦発覚

「チッ、次の五人も全員白かよ。だとすると処刑を決めるのが面倒臭いなぁ。あー、どうっすかなぁ……。あ、そこのお前でいいや。おい、全員そこにいる65番に入れろ」


「はっ!? おい、てめえ、ふざけんなよ!? なんでオレなんだ! 理由を言え! 理由を!?」


「理由? んなもん特にねえよ。とりあえず、白と確定してない奴らの中から適当に選んだだけだ。運がよければお前が悪魔ってこともあるだろう」


「て、てめえ! どこまでふざけてんだ!? おい! 皆もこんな奴の言うことに従うのか!? こいつに従っていてもオレらに未来はないぞ!? こんな無茶苦茶なやり方でこの先やっていけるわけないだろう! 聞いてんのか皆!?」


 あれから投票の三回目となり、残り時間は8時間となった。

 浦島の指示でまた新たに五人の参加者がボックスへと入ったが結果は全員白。

 現状誰が悪魔かハッキリしない状況で、浦島が次の投票先に選んだのはただ傍にいたという理由で選んだ男。

 無論、その男は激昴し、先ほどのように浦島に対する批判を述べる。

 何人かはそれに頷くような表情をするが、多くの者達は見て見ぬふり。

 それもそうだろう。ここで下手にあの男に賛同し、浦島に目をつけられれば、次の投票先に選ばれるのその人物達。

 全員それがわかっているからこそ、表立ってあの男の意見には賛成出来ない。

 しかし、すでにこの状況においてあの浦島のやり方に納得できていない者は多数存在するはず。

 それこそ、浦島が自分の仲間だと言っているグループの何人かも、浦島に対し懐疑的な視線を向けていた。


「……本当に妙ね」


 そんな状況の中、紅刃お嬢様の中に生まれたのは疑惑であった。


「なにが妙なんだ?」


 それは未だ騒ぎ続ける男に周りの連中が同調しないことではない。

 紅刃お嬢様はこの場にあって、ある不自然な点に違和感を抱いていた。


「普通、こういう状況下でああいうことをするのは最もタブーなはず。あの男もそれが分からないほどボンクラには見えないわ。なのにどうしてあんな真似を」


「どういうことだ?」


 紅刃お嬢様の呟きに疑問を表すリク。

 だが、そんな問答の暇もなく投票時間が残りわずかとなり、それぞれの参加者達が手に持っていた紙に何かしらの番号を書き、それをその場で破り捨てる。


「くそっ!!」


 先ほど浦島に指名された65番の男もありったけの呪詛を込めながら、手に持った紙を破り捨て、それを何度も踏みつける。

 無論その紙には浦島の番号が書かれているのだろうが――。


『はあい! それでは三時間目経過! 今回の投票の結果を発表しまーす! なんと今回の処刑者の数は――13人でーす!』


「なっ!?」


「嘘だろう!? そんなことありえるのか!?」


「どういうことだ!?」


 それは一時間前の投票と同じ、いやそれ以上の騒動が参加者達の間で起こる。

 このゲームにおける処刑者は投票において最も数の多い人物が選ばれる。

 その際、投票数が最も多い者が複数いれば、複数の死者が出る。

 が、そんなことは得てしてまれであり、仮に投票によって複数の死者が出るとしても、その数はせいぜい二人、多くても三、四人。

 だが、先ほどの11人死亡と、今回の13という数はあまりにもありえない。しかも、それが二回連続でだ。


『えーと、今回死ぬのは10番、11番、19番、21番、33番、38番、47番……っていちいち言うのも面倒だねー。とにかく13人死亡でーす! あ、勿論先ほど浦島君が指定した65番君も死亡でーす♪』


 あまりにも理不尽なその宣言に番号を呼ばれた連中だけでなく、この場にいる全てのプライヤー達が騒ぎ出す。


「おい! ふざけんなよ! 悪魔! てめえ、やっぱり投票とか言いながらオレ達を適当に殺してるだろう!!」


「そうだ! なんで一回の投票で13人も殺されるんだ!? おかしいだろう!!」


「なにがゲームだ! ルールもない殺戮ショーだろうが!!」


 わめき散らすプレイヤー達。

 しかし、それを聞いていた大悪魔の一言は冷酷であった。


『いえいえ、ルール通りですよ。このゲームにおける反則は一切されてませんよー。勿論、私の気分で殺すとか冗談もほどほどにしてください。悪魔はゲームにおいては公平です。勿論インチキなんてしませんよー。私達悪魔はルールは絶対に破りません。まあ、あえて言うなら、あなた達がこのゲームの本質に気づいていない。それだけですよー』


「そ、それはどういう――」


『はーい。説明はここまでー。それじゃあ、レッツキリングタイム☆』


 大悪魔がそう宣言すると、その場にいた13人の体が次の瞬間、内部から破裂したように四散する。

 血と肉がその場に影のように残り、かつて人間だった面影を一切残さない。

 すぐ傍にいた人間が血だまりに変化すると同時に再びこの場に巻き起こるのは阿鼻叫喚の渦。

 耳をふさいでも聞こえてくる参加者達の恐怖と怯え、狂気の叫びがこの会場を埋め尽くす。


『はーい! それじゃあ、次の投票は一時間後ー! 次は何人死ぬのかなー☆ きゃは、楽しみ♪』


 そう言って完全にこの場を楽しむように大悪魔の声が途絶える。

 多くの参加者達は絶望に打ちひしがれ、ある者は怒りとも悲しみとも分からない狂気の叫びを上げ続け、ある者は扉の方へ向かい「ここから出せ!」と叫び続ける。


「さてと、それじゃあ次の五人を決めてボックスに入れるぞー」


 そんな中で平然とした様子のまま、この場の主導権を握る男がいた。

 言うまでもなく浦島である。

 つい先ほど彼が指定した番号の男が消え、更にはその彼を含む13人の人間が目の前で血だまりになって消えたというのに彼はまるで気にした様子もなく、まるで機械のように先ほどと同じ手順を繰り返そうとしている。

 この地獄に集まったプレイヤーの全てが異常者。

 そう大悪魔は言ったが、確かにこの状況下で平然と主導権を握り、他人の生殺与奪を繰り返すこの男は完全にイカれている。

 ひょっとしたらお嬢様以上の狂人かもしれないと悪魔の僕ですら感心した。


「待ちなさいよ」


 だが、そんな風にこの場における主導権を握ろうとした浦島に待ったをかける人物が現れる。

 無論言うまでもない紅刃お嬢様であった。


「なんだ、またお前か? 今度はどんなイチャモンだ?」


「別に大した問題じゃないわ。ただ、次のボックスに入るのはアンタを含めてそちら側のメンバー五人にしてもらえないかしら?」


「……なに?」


 お嬢様の提案に対し、初めて眉をひそめる浦島。

 そんな彼をお嬢様は楽しげに見つめる。


「というか考えてもみれば、この場における生殺与奪を握るリーダーが『悪魔』じゃないと確かめるのって、当然の選択じゃない? むしろ、真っ先に確認してからアンタに従うのが普通でしょう? 仮にアンタが悪魔だったらアタシ達は悪魔のアンタにいいように操られて共食いで全滅。それってこのゲームにおける最悪のケースの一つじゃないの?」


 お嬢様のその説明にそれを聞いていた周囲の者達が即座に頷く。


「そ、そうだ! その通りだ! お前が悪魔ならオレらはいいように利用されて殺されていただけじゃないか!」


「いや、現にさっきからの十人以上の死亡者も明らかにおかしい! あれは……お前の指示なんだろう!?」


「おいおい、そりゃ誤解だぜ。なんでオレがそんな複数の死人を出させ――」


「そっちの女の言うとおり、お前が悪魔ならやっても不思議じゃないだろう!」


「そうだ! オレらに指示するならまずはお前が悪魔じゃないと証明しろ!!」


 紅刃の指摘にそれまで浦島に対する不満を抱えていた全ての参加者達が爆発する。

 それはこれまでいいようにされていた自分達の『自称王』に対する唯一の反撃であり、気づくと浦島を囲むようにこの場にいる全ての参加者達が「証明しろ!」と連呼を続ける。

 やがて、そんな周りの雰囲気に流されたのかうんざりしたように浦島が頷く。


「あーあー、わかったよわかったよ。オレを含むこっちのグループの何人かが入ればいいんだろう。ったく、これだから雑魚共はうるさくてかなわねぇ」


 そう浦島が頷くと、周りの者達も納得したのかボックスまでの道を開ける。

 無論、ここで浦島が変な真似をするようなら即座に捕まえるような動きも見せていた。


「それじゃあ、ボックスに入るのはそうだな……。おい、雉姫、猿渡、犬崎。それに乙姫。てめえら付いてこい」


「……は?」


「ぼ、僕達?」


 浦島が指定したのはかつての桃山のグループの仲間である犬崎達であった。

 自分達が指名されたことに彼らも思わず間抜けな顔を向ける。


「ちょ、な、なんでオレ達なんだよ!」


「そ、そうよ! わ、私達はこの地獄に落ちてからアンタのグループに入っただけでそんなに深い関係じゃ……!?」


「だからだろうが。もしもオレのグループの中に悪魔が混ざってるなら後から入ったお前らが怪しい。ま、単に目に入ったらって理由もあるがそうガタガタ抜かすなよ。これで白ならお前らも投票からは外されるんだから別に問題ねぇだろう」


「そ、そりゃ、まあ……」


 浦島の言うとおり、ボックスで白の判定が出れば少なくともその人物達が投票先に指定されることはない。

 だが、もしもその時、同じボックスの中に黒と判定された者が一人でも混じっていた場合は話は別になる。

 無論、その可能性に犬崎も気づき怖気づいた様子を見せるが、それを見た浦島が彼らの後ろに立つ大柄の男に命じる。


「おい、デク。そいつらをさっさとボックスに移動させる」


「うぅー……」


「ひっ!? ま、待てよ! じ、自分達で行けるよ!」


 デクと呼ばれた大男が犬崎達の首根っこを捕まえようとすると、それに慌てたように犬崎達はボックスへと移動する。

 その後、三人がボックスの中に入るのを確認すると浦島は隣に立つ乙姫にも声をかける。


「おら、てめえもだ。さっさと行けよ、乙姫」


「……う、うん……わ、わかった……ご、ごめんなさい、浦島ちゃん……」


 そう言って意味もなく謝罪しながら乙姫と呼ばれた少女もボックスに入る。

 先ほど浦島によって顔を殴られたためか、まるで怯え切った様子で彼に従う乙姫。

 そうして、四人が入るのを確認すると満を持したように浦島もボックスに入る。


 五人がボックスに入ると、それを固唾を飲んで見守る参加者達。

 彼らの多くが中に入った浦島達の中に悪魔がいることを望んでいる。なぜなら、それが証明された瞬間、彼らはこれまでの浦島の仕打ちから一気に彼に悪魔であるという疑いをかけて投票による正当な処刑を望んでいるからだ。

 仮にその悪魔が浦島であろうとなかろうと彼らは全員、確実に浦島へ票を入れるだろう。


 そうして、参加者の多くがそうした歪んだ望みをかけ、ボックスを睨みつけるとその願いは予想外の結果として現れた。

 ボックスの上に現れる数字。そこにはこの場に集った参加者達が待ち望んだ、いや、それ以上の数字が示された。


 すなわち――『人間:3』『人外:2』。

 このゲームに隠れ潜んだ残る人外の正体がここに提示されたのである。

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