第17話 悪魔ごっこ⑧裏切り

「それで何があったの? 海」


 桃山を名乗る連中が引き払ったあとでお嬢様は死体の傍で震える海に話しかける。


「わ、わかんない……。私がここに来たらこの人がすでに死んでいて……」


 真っ青になりながら答える海に陸がすぐさま駆け寄り、寄り添う。

 海の体は先程から小さく震えており、明らかに恐怖した表情であった。

 仮にこれが嘘や演技だとしたのなら、大した役者であるが……はてさて、お嬢様の見解はいかに。


「……そう」


 ただ一言。震える海と、その傍に倒れた男を一瞥した。

 死体――倒れた男の年齢はおよそ二十代前半。これといった特徴はなく、死因も胸の刺し傷といった単純なもの。

 おそらくは誰かに襲われたか、その逆撃を受けたか。

 いずれにしろ。これは間違いなく他殺。

 ならば、このシェルターの中に少なくともこの男を殺した犯人がいるはず。

 それはお嬢様もカインもジャックも当然気づいていた。


「とりあえず、一旦ここから移動しないか? さっきの連中がまた戻ってきても面倒だし。というかシェルター内でも一人で行動するより団体で行動した方がいいだろう」


「……そうね。陸君、ここにアタシ達全員が使える部屋かなにかない?」


「それならその奥の通路にそれらしい部屋がある。というよりもこのシェルターにはそうした部屋がいくつもあった」


「了解。さすがは避難用のシェルターね。とりあえず、全員でそこへ移動しましょう」


「……うん」


 震える海を支えながら陸とそれを守るようにお嬢様達は移動していく。


◇  ◇  ◇


「で、まとめたいんだけど、海があそこに行った時には男がすでに死んでいた。それでいいのね?」


「……うん」


「陸君はその間、どうしてたの?」


「オレはこのシェルター内になにか使える道具がないか調べていた。あとは部屋だな。この部屋もその時に調べていた。その時、海とは別行動していて、で海の叫びが聞こえた」


「なるほどね……」


 二人から事情を聞き、納得するお嬢様。


「……考えられる可能性は二つ」


 そう言ってお嬢様は指を二本立てる。


「あの男はこのシェルター内に隠れたアタシ達を含む参加者の人間誰かに殺された」


 そのお嬢様の発言にビクリと震える海。

 それはそうだろう。自分達が避難したシェルターに殺人鬼が混じっていれば怖がらない人間はいない。と思ったけれど、お嬢様もその殺人鬼の一人なんだよなぁ。


「もうひとつ。あの男を殺したのは“人間ではない”」


「え、それってどういうこと?」


 お嬢様のその発言に疑問を浮かべる海。

 だが、そのほかのメンバーは即座に気づいたようだ。


「簡単よ。この避難用シェルターに“悪魔が潜んでいる可能性”がある」


「えっ!? で、でも、悪魔って言ったらあの外を徘徊している巨大な怪物じゃ……!?」


「いやいや、それは違うぜ。そちらの海嬢。このゲームのルール説明にもあっただろう『悪魔の姿は様々』って」


「あっ……!」


「そう、“人間の姿をした悪魔”がいても不思議ではないわ」


 お嬢様の発言に一同は一瞬、緊張の色を浮かべる。

 それはそうだ。もしも、それが事実であるのなら、殺人鬼が混じっている以上に事態は厄介なことになる。


「まあ、あくまでもこれは憶測よ。アタシとしては前者のほうがまだマシだけれど、最悪なのは……」 


 そう言ってお嬢様が何かを告げようとした時、この部屋の扉からノックの音がする。

 一瞬身構える一同。

 即座にお嬢様がカインに目配せを送り、それを受けたカインが静かに扉を開く。その先にいたのは――


「よお、さっきぶり。アンタらこんなところにいたんだな」


「アンタは……」


 そこにいたのは赤茶色の髪をした爽やかな青年。

 先ほど、桃山のグループとお嬢様達とが一触即発のムードになった際、それを止めた人物、金太と呼ばれた男であった。


「お、この部屋広いねー。ベッドも六つあるじゃん。へえー、やっぱシェルターっていうだけあっていろんな人数分の部屋があるんだなー」


「……なにか用?」


 あくまでも警戒を緩めず、目の前の男を睨みつけるお嬢様。

 そんなお嬢様の視線に対し、金太は「怖いなー、そんな顔しないでくれよー」と呟く。


「なあに、用ってのは単純だ。どうだい、お嬢ちゃん達。オレと手を組まないかい?」


「はあー? 何言ってんのよ、アンタ。すでにアンタはあの桃山って連中と組んでるんでしょう。なのになんでアタシ達がアンタと組まなきゃならないのよ」


「あー、悪い悪い。これはちょっとオレの言い方が悪かったなー。もうちょっと分かりやすく言うよ」


 そう言って金太は頭をかきながら、信じられないセリフを口にした。


「あの桃山って奴を殺すのにアンタらの力を貸してくれないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る