第4話 信号

敵は海からやってくる。

 敵は不審船、テロリスト、海賊だけではない。大型船の暴動の鎮圧から邦人の救出、テロ制圧、魔物退治、怪物兵や船もどきの退治と多岐にわたる。相手にするテロリストや海賊も人間や普通のミュータントではなく怪物化していたり、そのテロリストが変身するタイプでドラゴンに変身したり、マシンミュータントだったりするのだ。普通の海上保安官では対処できないから自分達ミュータントがやるのだ。任務の中には時空の亀裂を発見して塞ぐのもあるからだ。

 「芥川隊長」

 隣りにいる女性が呼んだ。

 「何?」

 芥川は顔を上げた。

 「呼びかけに反応しない不審船にもうすぐ上陸します」

 女性の隊員は揺れるヘリの窓からのぞく。

 「そうか」

 うなづく芥川と呼ばれる女。

 でも自分は女でも男でもない。両性具有で女なんだけど男性的な体格で白色サイバネティックスーツに覆われている。胸当ては青色。戦う時はこれが鋼鉄化して鎧のようになる。

 私は芥川明。五十年前に赤ん坊の時に海で拾われた。拾ったのは海上保安庁の所属船である「もとぶ」巡視船のミュータントで更科竜太郎。と第五福竜丸。大田道雄。大田も巡視船のミュータントだった。拾われてしばらく更科の元にいたが知り合いの大砲のミュータントに預けられ芥川姓を名乗っている。

 さっき話しかけた女性隊員は氷見十六夜。先祖は代々鋼鉄肌で怪力。七〇年前の太平洋戦争では南方戦線で鋼鉄肌で銃弾をすべて跳ね返し、怪力で戦車やトラックをひっくり返した。そして終戦後は帰還している。彼女は海上保安庁の「スーパーガール」「女ハルク」というあだ名を持っている。彼女には兄がいる。兄は自衛隊にいて「ハルク」「飛べないスーパーマン」というあだ名がついていた。

 三人目は高津次郎。高レベルの魔術師で魔術師協会から出向している。彼自身も邪神ハンターで時空魔術もある程度体得している。先祖代々魔術師の家系である。

 四人目は朝比奈夏。豹の能力を持つ普通のミュータントであるが物体を通り抜ける能力も合わせ持っている。

 自分達は海保の特殊部隊SSTである。しかし、尖閣諸島の戦いの後は再編された。従来の任務にくわえて、時空の亀裂を塞ぐ事や怪物兵、船もどきとも戦う事もある。テロリストも先日の横浜事件のアフマドのようなネクロマンサーや変身するテロリストや海賊とも戦うのが任務に入っている。SST隊員のほとんどは異能力を持った普通のミュータントとマシンミュータントで人間はいても魔術師、邪神ハンター、魔物ハンターが顔をそろえている。普通の海上保安官では対処できないから自分達はいる。自分達の他にチームは各保安署にいて第十一チームまである。四人か五人が常駐。自衛隊も特殊部隊が再編されて第一〇部隊まであり駆けつけ警護やPKO、海賊対処、日本の領海、領空を守っている。

 ヘリは大型貨物船の上空を飛行する。

 ドアから芥川達は飛び降りた。四人は甲板に着地した。

 氷見はドアを力任せにこじ開けた。

 朝比奈は甲板を通り抜けて通路に着地。

 そこにテレポートする高津。

 赤外線画像とレーダー画像を視界の隅にチラッと見ながら芥川は片腕をアサルトライフルに変形させた。

 アサルトライフルはSSTや海の機動隊と呼ばれる特警隊が使う自動小銃だ。自衛隊も使用している。

 通路の奥から飛びかかる金属の芋虫。全長一メートルでメタリックに輝く。

 鋭い蹴りで蹴り落とす芥川。彼女は体と頭部を引きちぎった。

 ピキピキ・・・ミシミシ・・・

 芥川の胸当てが軋み音を立てて鋼鉄化して分厚くなる。腹部や背中、わき腹から金属の芽が伸びて硬質化して金属に変わる。耳は鋼鉄の耳宛に変化する。彼女は黒髪の長髪を結った。腕や二の腕は連接式の金属の触手に交わし手は鉤爪に変わった。

 続いてやってきたのは怪物兵である。暗褐色でフジツボだらけ。頭部はのっぺらぼう。沿岸警備隊チームも戦った相手だ。南シナ海で時空の門が出現。テロリストが呼び出したのが怪物兵と船もどきである。

 「氷見。行くよ」

 芥川は合図した。

 氷見はサバイバルナイフを二つ出した。

 芥川は両手を長剣に変えて、背中から連接式の金属の触手を出す。先端は槍状に変形。

 二人は駆けながらナイフや長剣、触手でなぎ払い、袈裟懸けに斬り捨てながら走った。

 怪物兵は持っていた銃を落とし次々に倒れていった。

 別の通路では高津は呪文を唱えながら掌底を向けた。虚空から青い炎が噴き出して駆け寄ってきた怪物兵を一瞬にして灰にした。

 四人は船内倉庫に飛び込んだ。

 そこには自衛隊の司令部のような設備が並んでいた。ホログラム投影装置には日本地図や領海、領域が示されている。

 「こちら第一チームの芥川」

 芥川は耳に内臓されている無線で呼んだ。

 「こちら「しきしま」どうした?」

 「敵船には司令部機能があります」

 芥川はモニターパッドを操作しながらアクセスする。背中から二対の金属の触手を出すと接続穴に接続する。彼女は画面のタッチパネルを手で操作して呼び出す。

 名簿が出てきて名前が出てくる。脅威度の順番に出てきたのは海保の巡視船「こうや」

「あそ」「やしま」「つるぎ」「かいもん」オルビス、リンガムである。葛城翔太は一番目にあり、二番目が第五福竜丸。三番目が巡視船「いなさ」である。十一番目は沿岸警備隊チームに所属するミュータントと時空研究所のメンバーである。

 「なんで沢本隊長まで?」

 つぶやく芥川。

 沢本は海保の巡視船のマシンミュータントで構成されるチームのリーダーである。彼が融合する「やしま」は全長一三〇メートル。五二〇〇トン。指揮機能、拠点機能司令部を兼ねるから船橋構造物が大きく、「あきつしま」「しきしま」に次いで大きい。彼は沿岸警備隊チームの支援や援護で派遣される。チームの隊長はアレックスだが司令部的な役割で行くのだ。彼が留守の間は「あきつしま」が隊長をしている。

 朝比奈はUSBを刺し込み内部データをコピーする。

 そして暗号パターンが出てくる。何かの信号だろうか。そして隕石の軌道まで出てくる。

 「いったいなんだ?」

 高津と氷見は首をかしげる。

 「怪物兵にこれを理解できる知能があるのか?」

 朝比奈がうーんとうなる。

 「データは「しきしま」に転送した」

 背中の二対の触手を体内に格納する芥川。

 「コピー完了。バックアップもバッチリ」

 朝比奈は報告する。

 唐突に周囲を見回す芥川。

 どこからか信号が飛び交っている。

 「ミサイル警報」

 芥川はだしぬけに叫ぶ。

 「脱出だ。「しきしま」にテレポート」

 高津は呪文を唱えた。四人は青い光に包まれて消えた。

 大型貨物船はミサイルが着弾して大きな火柱が上がり木端微塵に吹き飛んだ。

 

 数日後。大阪湾

大阪湾に五隻の巡視船が湾内に入ってくる。

先頭を巡視船「やしま」次に「あそ」「こうや」「つるぎ」「かいもん」の順である。

「沢本隊長。特殊部隊SSTが再編されてというのを聞いたのですが本当ですか?」

三神は口を開いた。

「本当だ。SSTも不審船、海賊、テロ対策、尖閣諸島だけでなく時空の亀裂やこの間のアフマドの事件や怪物兵、船もどきにも対処して制圧、排除するためには普通のミュータントの力がいる。普通の海上保安官じゃ対処できない事が多くなったから戦うんだ」

沢本が説明する。

「自衛隊は駆けつけ警護や尖閣諸島、中東派遣から日本の領海、領空の防衛を担っているしテロ対策も臨検もやる。自衛隊にも特殊部隊があってこれも再編されているからね」

大浦が資料にアクセスする。

隊員は普通のミュータントが半数。異能力に目覚めたミュータントが半数。人間もいるが魔術師、邪神ハンター、魔物ハンターで構成されている。自衛隊の特殊部隊も第一〇部隊までありSSTも第十一チームまである。

「サブ・サンは中国政府内部にいて部下のバル・ジウは南シナ海。中国海警局はあきらめていない。東シナ海や南シナ海、インド洋、アフリカ沖まで海警船が出没している。本格的な戦いが始まるのね」

三島が心配そうな声で言う。

「それは日本だけじゃない。世界各国もそうだし沿岸警備隊もそうだ。海からやってくるものを水際で食い止めないと地球は滅亡になる。だから戦うんだ」

三神は何か決心したように言う。

敵はサブ・サンだけじゃなく時空の亀裂からやってくる別の時空侵略者の監視や排除も入っている。Tフォースの手が回らない事を自衛隊もやるし海保もやる。

「でもロマノフの宝事件に巻き込まれて葛城長官の息子に会わなきゃ、俺達はここにいないし、出会いもなかったよな」

思い出したように言う朝倉。

「そうしなければ俺も尖閣専従部隊に入ったり、自衛隊と一緒に戦う事はなかったし、沿岸警備隊チームにも入るとは思わなかった。何があるかわからないな」

沢本がつぶやく。

「岸和田海上防災基地だ」

朝倉が声を弾ませる。

五隻の巡視船は岸壁に着岸すると緑色の蛍光に包まれて元のミュータントに戻り上陸。官舎の中に入った。

彼らがいるのは第五管区海上保安部である。

第五管区海上保安本部とは、主に関西、四国地方の太平洋、ならびに滋賀県、大阪府、

兵庫県、奈良県、和歌山県、徳島県、高知県を管轄範囲とする、海上保安庁の管区海上保安本部の一つである。

一つの海上保安監部、六つの海上保安部、九つの海上保安署・分室、海上保安航空基地一カ所、海上交通センター一カ所を有する。

海の難所である潮岬沖及び高知県沖を航行する船舶の安全監視、大阪湾内の大阪港や神戸港における麻薬や拳銃などの密輸阻止、混雑海域である大阪湾内の交通整理、阪神工業地帯や関西国際空港等沿岸の災害防除に力を入れている。

三神達は訓練所に足を踏み入れた。

ここにはそれだけではなく特殊部隊SSTが常駐する基地がある。それが岸和田にある。

不審船、テロ対策、海賊の排除、邦人救出やオリンピック会場などの警備、空港の警備もする。やる事は自衛隊と似ている。尖閣諸島の戦いでは目立った活躍がなかったが最近になって再編され、異能力ミュータントやマシンミュータントで構成。高レベルの魔術師や邪神ハンター、魔物ハンターで占められる。普通の人間はいない。隊員の中には不老ではないけれど不死身の隊員も何人かおり、鋼鉄肌の隊員もいるのだ。それは自衛隊の特殊部隊にも言えている。時空の亀裂や時空侵略者の侵入、怪物兵、ゾンビ、船もどき、魔物退治に対処しなければ第三次世界大戦や第五の時空戦争が始まる。それを水際で防ぐために彼らはいるのだ。

「更科教官」

三神が声をかけた。

「来たか。あの四人だ。普段は四人か五人のチームを組んでそれぞれの基地に配属になり奴らが送り込む怪物兵と戦う事になる」

更科教官の眼光が光る。

「あの芥川明という隊員はオルビスやアーランと種族は一緒ですか?」

三神が気づいた。

彼女の皮膚は白色のサイバネティックスーツに青色の胸当ての真ん中には五角形の模様がある。顔は肌色で黒髪の長髪を結っている。オルビスもリンガムもそうだが、小柄な男性に見える。身長は一六五センチ位。オルビスやリンガムも似たような体型で胸当てに模様があるのを見ているから本能的に思っただけだ。

「我々はそう思っている」

答える更科。

「海上保安庁も回収していたのですか?」

沢本が核心にせまる。

「五十年前、第五福竜丸は夢の島に捨てられる前は民間チームのリーダーだった。彼女は私と、死んだ大田と葛城茂長官が回収して、私は知り合いの大砲のミュータントに預けていたんだ。彼女は自分は大砲のミュータントだと思っているがね」

更科はどこか遠い目をする。

「でもウソはからならずバレる」

沢本が声を低める。

「あの四人と一緒に沿岸警備隊チームか特命チームに入る事になる。任務によっては彼女だけ君らのチームに入る場合もあるだろう。今日は顔合わせだ」

笑みを浮かべる更科。

更科は合図した。

四人の男女が気づいて駆け寄ってくる。

「君が三神と朝倉なんだ。会えてうれしいよ」

芥川は笑みを浮かべる。

声は女性の声で顔は幼さが残るが年齢は書類上は五〇歳となっていた。

「・・・よろしくお願いします」

戸惑う三神。

「君が歩く武器庫なんだ。携帯電話・・」

目を輝かせる朝倉。

大浦は朝倉の耳を引っ張った。

「痛ぇだろ」

目を吊り上げる朝倉。

「デートに誘ってどうするの」

注意する大浦。

ムッとする朝倉。

「高津さん朝比奈、氷見さんよろしくね」

三島があいさつする。

「こちらこそよろしくお願いします」

高津と朝比奈、氷見は声をそろえた。

「三神。手合わせしたいがいいか?」

芥川は聞いた。

「え?今?」

困惑する三神。

「許可する」

更科はうなづいた。

二人は円形状の白線の内側に入る。白線から外側は結界のバリアが張られる。魔術や能力を使っても外側にもれない仕組みだ。

芥川と三神は身構えた。二人は遠巻きににじり寄りそして同時に動いた。芥川の速射パンチをすべてよける三神。三神の回し蹴り。

受身を取る芥川。

芥川の鋭角的な蹴りやパンチをかわす三神。

再び同時に動いて同時に速射パンチを放つ。三神の蹴りを受け流す芥川。芥川は掌底を弾いた。三神はすんでの所でかわした。

三神の手が金属の鉤爪に変わり、腕や肩まで連接式の金属の触手に変形。背中から八対の金属の連接式の触手が飛び出す。

芥川は肩口からサブマシンガン。片腕は鉤爪でもう片方はサバイバルナイフである。背中から八対の金属の触手が飛び出す。二人とも先端は槍になっている。

三神と芥川が同時に動いた。鉤爪と背中の触手による速射突きを放つ。芥川の八対の触手の突きをかわす三神。芥川の肩口のサブマシンガンが火を噴き三神が動いた。それは沢本達も芥川にも見えなかった。気づいたら芥川の腹部や胸、背中に大きな傷が数十個も口を開けている。

 三神が着地して振り向く。

 「ぐはっ!!」

 芥川は口や傷口から青色の潤滑油を噴き出し、片ひざをついて胸や腹部を押さえる。

 「ぐふっ!!」

 三神は胸を押さえてよろけてひざをつく。胸にえぐれた傷口から緑色の潤滑油や機械油がしたたり落ちる。

 「そこまで!!」

 更科は声を荒げた。

 三神と芥川はホッとすると床に転がった。

 傷口がふさがっていく。

 「なかなかやるじゃないか」

 三神はホッとする。

 「君のスピードはすごいよ。韋駄天巡視船」

 笑みを浮かべる芥川。

 二人は身を起こし握手をする。

 「芥川。横浜に来いよ。仲間を紹介するよ」

 三神は笑みを浮かべる。

 「いいよ。案内して」

 芥川はうなづく。

 「なんかすごい仲良くなっているよ」

 朝倉がつぶやく。

 「そうね」

 大浦と三島がうなづく。

 「更科教官。芥川を横浜や新木場に連れて行っていいですか?」

 声を弾ませる三神。

 「許可する」

 うなづく更科。

 「よし決まった。飲みに行こう」

 いきなり割り込む朝倉。

 「まだ昼間だ。横浜に案内する」

 沢本は注意すると手招きした。


 その頃。横浜防災基地

 岸壁でしゃがみ耳を地面につける貝原。

 いろんな音は聞こえているが音を絞る事もできる。最近は宇宙からの音も聞こえる。しばらく耳を傾けていると規則正しい音が聞こえた。モールス信号だろうか?

 貝原は岸壁に座ると海図を出した。彼は方向や信号の強さを書き込んでいく。

 「あれは何をやっているの?」

 夜庭は指をさした。

 「指をささない」

 注意する長島。

 「彼は音を聴いている。地図に何か書き込んでいるんだけどなんだろう?」

 稲垣は双眼鏡を出した。

 「たぶん信号だね。資料課の整理が終わるとあそこで音を聴いている」

 翔太は死者の羅針盤を出した。

 「彼は本当は一緒に行きたいけど怖いから行かない。当分は無理ね」

 椎野が鋭い指摘をする。

 「僕達が支援してもいいよ」

 オルビスが提案する。

 「本人がやる気にならないとダメね」

 重本がしれっと言う。

 「福竜丸。何を地図に書き込んでいるのか見てみるよ」

 翔太は忍び足で近づいた。

 岸壁にいる貝原は振り向いた。

 「よく聞こえている」

 「貝原さん。地図を描いているんだね」

 翔太が指摘する。

 視線を海にそらす貝原。

 駆け寄ってくる椎野達。

 「その点の間隔だとモールス信号ね」

 重本が気づいた。

 「米軍の信号でも聴いているの?普通の船は通信でやり取りするし、暗号や信号を使うのはここだと米軍とか自衛隊」

 長島が指摘する。

 「僕達が手伝おうか?民間船のネットワーク使うと速いよ」

 口をはさむ夜庭。

 「関係ないだろ」

 つっけんどうに言うと貝原は海に飛び込むと緑色の蛍光に包まれて巡視船「いなさ」に変身した。

 「東京湾から外海に出れないってしょうもないよね。トラウマがあるから」

 わざと言う重本。

 「黙れよ。ポンコツ」

 貝原は言い捨てると離岸して横浜港を出て行った。


彼らはマシンミュータント用の訓練所に足を踏み入れた。

「Tフォースの訓練所と似ているね」

オルビスが周囲を見回す。

海上保安官が要救助者を訓練するプールやロープ降下をする訓練がある場所よりも奥にある。そこは普通のミュータントやマシンミュータントが格闘訓練や魔術師やハンターの訓練する場所は地下にある。

そこにテレポートしてくる三神達。

「オルビスに似た人がいるのは本当なの?」

口を開く翔太。

「俺も驚いているんだ。まさかSSTにいて海上保安庁に所属していて更科教官や知り合いに保護されていたんだ」

三神は答えた。

「君がオルビス」

芥川はオルビスに近づいた。

「君は僕と同じ仲間だね」

声を低めるオルビス。

「わかるのか?」

朝倉が聞いた。

「わかるよ。茂は何も言わなかったから知らなかった」

オルビスは芥川の周りを品定めするように歩く。

「大田教官も何も言わなかったし、僕は邪神ハンターの訓練の後は陸上自衛隊に一〇年いて海上保安庁に入った。北海道の保安署に一〇年いて特殊部隊SSTに入って五年いる」

芥川は視線をそらす。

「芥川。僕と手合わせしてくれる?」

オルビスは誘う。

「いいよ」

芥川はうなづく。

「許可する」

更科が指示を出す。

「また戦うんだ」

氷見と朝比奈が驚く。

「これは興味深い」

高津は腕を組んだ。

芥川とオルビスは円形の白線の内側に入る。せつな周囲にバリアが張られる。

オルビスと芥川は遠巻きににじり寄る。

芥川の肩から腕まで連接式の金属の触手に変形。手は鉤爪に変わり、腹部、わき腹、背中から金属の芽が出て硬質化して鋼鉄の鎧に変わり、足はプロテクターが形成される。

オルビスも同様に体は銀色の鋼鉄の鎧に覆われる。

二人が同時に動いた。パッパッと動いた。壁を蹴り、地を蹴り、天井を蹴り、駆けながらパンチや蹴りを繰り出す。芥川もオルビスも蹴りやパンチを受け流し、かわした。

芥川の背中から八対の連接式の金属の触手が飛び出し。先端が槍に変わる。

オルビスも同様の触手を背中から十本飛び出す。先端はドリルである。

再び二人が同時に動いた。速射パンチや触手による速射突きを繰り出す二人。オルビスは片腕の金属ドリルを突き出した。

芥川はすんでの所でかわして飛び退く。

オルビスの鋭い蹴りを受け流す芥川。彼女の右パンチが入る。しかし何もなかったように立つ。

芥川は連続で殴った。

オルビスはにらむと彼女の腕をつかみ、背負い投げからの馬乗りになり一〇対の触手の先端を鉤爪に変えて胴体や手足と触手をつかみ押さえた。自由になった両腕で鉤爪を彼女の胸に突き立てた。

「君はまだ経験が浅いね。自衛隊と海保に保護されているけどそこにいるだけではダメだと思うよ」

冷静にオルビスは力を入れた。

「ぐうう・・・」

もがきのけぞる芥川。

ミシミシ・・・

金属の鎧が少し分厚くなりもっと固くなるのを芥川が感じた。彼女はオルビスを何度も殴った。

しかし首が一回転しただけでオルビスはにらんだ。

芥川はもがいた。胸やわき腹に鉤爪が深く食い込む。

「僕やアーランの種族は凶暴性や意志を示さなければ大人の仲間入りはできない」

オルビスはわき腹をつかむ二対の鉤爪を金属ドリルに変えてわき腹に突き刺した。

「ぐふっ!!」

口から青色の潤滑油を噴き出す芥川。

「更科教官。やめさせろ」

沢本と三神が詰め寄る。

「これはオルビスの種族の成人の儀式の一部だ。彼らは凶暴性や自分の意志を示さなければ大人としても仲間としても認められない」

冷静に答える更科。

「マジかよ」

つぶやく朝倉。

「世界にはいろんな仲間入りの儀式はあるけれど彼らの場合は厳しいよ」

翔太は冷静に見ながら分析する。

それは父や祖父からも聞いている。Tフォース本部にいるブレイン達もそうだ。オルビスの種族は二〇〇歳になるまでブラックホール内部で育てられる。そこで大人達に自分の意志や凶暴性を見せないと仲間入りもできない通過儀式である。

「すげえ・・・」

絶句する長島と夜庭。

黙ったままの稲垣と椎野、重本。

メキメキ!!ギシギシ!!

「ぐっ!!うう・・・」

荒い呼吸に激しく上下する胸が芥川の目に入ってくる。鋼鉄の分厚い鎧なのにゴムのようにへこみシワシワになっている。鉤爪につかまれている体は何かが這い回るように盛り上がる。もがき体をよじるたびに深いシワシワが入った。

こんなの嫌!!私はゴムの機械じゃない。

「僕の種族の血が濃いね」

冷静に見下ろすオルビス。

鋭い視線でにらむ芥川。オルビスの鉤爪が食い込み深くへこみ、シワシワになっているのが嫌でも見えた。彼女の肩口からサブマシンガンが飛び出した。ズン!と突き上げるような痛みにのけぞった。金属のドリルがコア周辺部の機器に接続。ケーブルがいくつも飛び出して循環装置や神経ケーブルに接続した。

目を剥く芥川。

どこかで心臓音や血管が逆流するような耳障りな音が芥川の耳に響いた。胴体が軋み、歪むのが嫌でも視界に入ってくる。

「凶暴性や意志を示してみて。僕は彼らのサポートがあってそれが出来た」

オルビスは鉤爪に力を入れた。

「ぐうぅ!!」

のけぞる芥川。

やばい・・・意識が・・・


自分は更科の知り合いの芥川家で三〇年住んでいた。芥川家は先祖代々大砲のミュータントであった。日露戦争や第一次世界大戦、太平洋戦争にも従軍。敵を迎撃した。父親や兄は自衛隊の戦車や一五五ミリりゅう弾砲と融合している。そしてTフォースの邪神ハンターや魔物ハンターとしても派遣されて魔物を退治している。自分も陸上自衛隊に入隊。そこで芥川家を初めて離れ、北海道の千歳駐屯地に一〇年勤務した。そして更科教官に呼ばれ海上保安庁に入隊。海上保安学校を出た後は北海道の保安署に勤務になり巡視船「えりも」に配属。五年前にSSTに入隊した。そこでロマノフの宝事件や尖閣諸島の戦いが起こり、自分達は後方支援隊として自衛隊と一緒に支援をしていた。

唐突に場面が変わった。

北海道の保安署に更科教官がやってきている。自分を海で拾ってくれた恩人だ。

訓練所で遠巻きににじり寄る更科と芥川。

芥川の蹴りやパンチをかわす更科。

更科は芥川の速射パンチをすべて受け止め鋭い蹴りを入れた。

バリアの壁にたたきつけられる芥川。

更科がジャンプして芥川の腕をつかみ地面にねじ伏せた。

「まだまだ鍛錬が足りんな。それではテロリストやミュータントには勝てないぞ」

更科は言い聞かせると彼女を放した。

「訓練は終了だが後で食堂に来い」

更科は言った。

訓練を終えて食堂に来ると更科は珈琲を持ってきた。

「芥川。おまえもいずれTフォースの特命チームに入る事になるだろう。それまでは海上保安官として勤務する事になる」

更科は口を開いた。

「Tフォースにはオルビスがいますね」

芥川は声を低める。

「基本的におまえとオルビスは同じ種族だ。いずれは会う時は来る」

更科は答える。

黙ってしまう芥川。

「だがな。あっさりねじ伏せられるようではSSTには入隊できないぞ。我々はただ要救助者を救助するだけでなくテロリスト、ゲリラ、海賊の取締り、不審船に取締りもする。テロリストの中には雇われた魔術師やハンターがいる。海賊もそうだ。不審船の中にはマシンミュータントもいる。それを入れてしまうという事は犯罪だけでなく魔物を国内に入れてしまう事を意味する。魔物や邪神の眷属を入れて国家を脅かす輩は星の数ほどいる。それを水際で食い止めるのが海上保安官だ。我々があきらめるという選択肢をするという事はどういう時かわかるか?」

更科は声を低めた。

「どういう時ですか?」

身を乗り出す芥川。

「それはあらゆる命を見捨てる時だ。敵と戦うだけでなく要救助者の救助も含まれる。敵は船のミュータントだけでなく不審船に乗り込む航空機のミュータントもいる。危険と隣り合わせだ。だがどんな危機にあっても絶対にあきらめるな。あきらめなければ仲間は見捨てず助けてくれる。命はつなげる物だ。しかし、オルビスの種族にはそれがない。大昔、サブ・サンとの戦いに負けて仲間はちりじりになり流浪生活になった。あきらめない限りあらゆる命は続いていく。そしてチャンスだって来るだろうし、自分の種族の国家再建をする事も可能だろう。あきらめない強さを持て、死に対して抵抗しろ」

更科は語気を強めた。

芥川は深くうなづいた。


そうだ。私にはやらなければいけない事はたくさんある。周囲の人達のサポートやつながりがあるからここにいる。

目をクワッと見開く芥川。

私は戦うために来た!!

芥川は体に力を入れた。そしてもがいた。

オルビスが力を入れた。

「私はチームに入るんだ!!」

芥川の背中や胸、腹部、わき腹、膝や腕から金属のドリルが飛び出し、オルビスの触手や腕を引きちぎった。

「すごい・・・」

絶句する翔太達。

跳ね起きる芥川。

オルビスはバリアにたたきつけられ地面に落ちた。しかし彼の腕はすぐ生えて損傷もふさがっていく。彼は口からしたたる青い潤滑油をぬぐった。

オルビスはよろけ片ひざをついた。

芥川もフラッとよろける。出ていた金属ドリルが体内に軋み音を立てて格納され、分厚い鎧が解けて細身の体に戻っていく。

「芥川。僕と一緒に手伝って」

荒い息で声をかけるオルビス。

「わかった。手伝うよ」

芥川は笑みを浮かべた。

二人はよろけあおむけに倒れた。


その頃、都内。

雑居ビルにある事務所のドアが乱暴に開いて警官と刑事達が足を踏み入れた。

無線機やパソコンが何台も並ぶ二十畳ほどの部屋にいる男女は振り向く。

「警視庁です。ガサ入れだ」

スキンヘッドの刑事は逮捕状を見せた。

いきなり逃げ出す男女。しゃべってわめいている言葉は中国語である。

「羽生さん逃がさないで」

「エリック。禿げの中国人がそっちに逃げた。裏口から逃がすな」

「逃がすか。田代、和泉。魔術でもなんでもいいから足止めしろ」

小太りの男の後ろ襟をつかむ羽生。

 「もちろんそうするわ。トラクタ」

 和泉は呪文を唱えた。この呪文は物体を引き寄せられる魔術である。力ある言葉に応えて窓から身を乗り出した五人のミュータントは部屋内に落ちた。

 警官達に取り押さえられる五人。

 「リンガム。そこのパソコンをハッキング」

 羽生は小太りの男をねじ伏せながら指示を出した。

 「了解」

 リンガムは背中から一〇対の連接式の金属の触手を出して壁に並ぶ大型コンピュータの接続口に刺し込み、手首から細いケーブルを出してパソコンに接続。データにアクセスする。彼女は左手からUSBを出してデータをコピーする。

 田代はヒゲが生えた男の腕をつかみ上げ、大外狩りで転ばせ、地面にねじ伏せる。

 「隣り部屋も逃がすな」

 スキンヘッドの刑事は叫びながら部下の刑事と警官を連れてこの部屋と扉でつながる部屋に飛び込む。

 部屋にいた一〇人の中国人の男女は逃げ出した。玄関を開けると警官達がいた。

 日本語と中国語の叫び声とわめき声がしばらくひびいていたがやがて静かになった。

 規制線が警官達によって張られている。

 部屋内でリンガムはパソコンを立ち上げる。

 「これは?」

 羽生と田代はのぞきこむ。

 「信号よ。暗号化されている。暗号は分岐しているけど大元は中国の海南島。それを別の電波がハッキングしている。暗号通信を傍受しているのは在日米軍とアメリカ沿岸警備隊よ。彼らはなぜか横浜防災基地にいる巡視船「しきしま」のデータに侵入を試みている」

 リンガムは分析しながら指摘する。

 画面に「しきしま」が映し出される。

 「海保の巡視船をハッキングしてどうするんだ?」

 首をかしげる羽生達。

 「私達は違法な魔術アイテムや古代遺物がある情報で来たのよ」

 和泉は肩をすくませる。

 「なんで情報がハッキング?」

 ため息をつくエリック。

 「信号は自衛隊にも入り込もうとして失敗したみたい。だから入りやすい海保にした」

 リンガムはキーボードを操作する。

 「ただの中国人ブローカーのアジトじゃなさそうね」

 田代が書類を見ながら言う。

 「拠点機能、司令部機能を持つ巡視船をバラバラにしろってなんだろう?」

 リンガムは首をかしげる。

 羽生達も画面をのぞいた。

 「なんだ?数字の羅列と記号にラジオ」

 考え込む羽生。

 「沢本さん達に知らせた方がいいわね」

 田代は言った。


 同時刻。横浜防災基地

 医務室に横になっているオルビスと芥川を翔太達は見下ろした。

 「こうしてみると幼さを残した顔をしている。娘と息子にそっくりだ」

 高津はまじまじ見つめる。

 翔太はマシンミュータント用の医療ベットに横たわる芥川の胸を触った。それはなんともいえない肌触りでゴムのように深くへこみシワシワになる。両脇のわき腹にオルビスに刺された傷口は塞がっただけで治っていない。

 両腕、二の腕は連接式の金属の触手になったまま手は金属の鉤爪のままだ。翔太はその腕を触った。二の腕もゴムのような肌触りで深くへこんだ。

「僕は彼女を拾ったみたいなんだけど記憶が欠落している」

 重本は視線をそらした。

 スクリューとエンジンを引き抜かれ船内を大きく損傷して夢の島に捨てられた。茂長官達は何度も電子脳を修理し、エンジンも修理してくれてなんとか生活ができるようになったが捨てられた前後の記憶は欠落して戻らなくなった。

 「君が夢の島に捨てられているのを一般投書で私も大田も茂長官も始めて知った。行ったらボランティア達が彼女を引き上げようとしていた。だから私と大田で半分沈んでいた福竜丸を仮設の岸壁に引き上げた。蘇生させたのは氷川丸達だ。私と大田、長官、氷川丸は相談して芥川を知り合いに預けた」

 重い口を開く更科。

 「そうだったんだ」

 重本はつぶやく。

 「その時の情報は破棄したんだ。残っていない」

 更科は首を振る。

 「でも状況が変わったとか?」

 翔太が核心にせまる。

 「そう言える。Tフォースもそうだが海上保安庁や自衛隊もオルビスの種族は保護するようにしている。彼らは大昔、サブ・サンとの戦争に負けて故郷は奴らに取られ、流浪生活になった。途方に暮れて逃亡生活する彼らに三十一世紀の未来人が出会い、他の種族との共存、協力をする事を選んだ。彼らの習慣や環境には仲間を助ける事や命をつなげるという概念はなかったと思われる。オルビスやリンガムを見て思うね」

 更科は気づいた事を指摘する。

 「それは俺も思うよ。彼らは戦う事に関してはすごい進化を見せる。尖閣諸島の戦いで見て思った」

 三神はうなづく。

 「なんで狙われるのかもわかる。彼らはある意味、宇宙最強の生命体だ。邪神とも対等に戦える。記録ではアメリカで先住民達や葛城初代長官と一緒に邪神の眷属の討伐をして眷族と対等に戦った」

 沢本はタブレットPCを見せた。

 資料に邪神の眷属と魔物の討伐を成功させた明治時代の新聞記事がある。

 「隊長がマシンミュータントでない事は気づいていた。でも彼女は彼女で、チームメンバーよ」

 黙っていた氷見が口を開く。

 「彼女が両性具有で男性的な体はもしやオルビスとリンガムと同じ種族ではないかと思ったけど疑問は晴れた」

 朝比奈はうなづく。

 「オルビスと彼女はサブ・サンや他の時空侵略者を追い返す鍵になるわ」

 大浦が口をはさむ。

 「彼らは科学的に造り出す時空フィールドでも生存できて宇宙でも活動できる。宇宙生命体なのだからそうよね」

 三島はオルビスの顔をのぞきこむ。

 「・・・ここは?」

 芥川が目を覚ました。

 「医務室だよ。君はオルビスと戦って倒れたんだ」

 三神は答えた。

 「そうか。でも彼は私を仲間に入れてくれた。だから一緒に戦いたい」

 思わず起き上げる芥川。

 「ぐっ!!」

 胸を押さえる芥川。鋭い痛みが全身を襲い思わず身をよじった。皮革のようなゴムのような肌触り。強く引っかかれてもへこみシワシワになる。ゴムみたいになると呼吸の度に胸が上下してその度にシワシワになる。両腕が連接式の金属の触手に変わったまま、鉤爪でいくら引っかいても傷つかず、何かが這い回るように歪み盛り上がりへこむ。それだけでなく鋭い痛みが走りしばらく消えないのだ。

 「この体・・・嫌・・・」

 つぶやく芥川。

 自分はこの体にも悩んできた。制御装置を胸や背中に装着して生活していた。嫌だった。体は軋み、歪むたびに痛みを感じる。

 「芥川。痛みはすぐに収まる」

 更科は冷静に言う。

 「芥川さん。オルビスは君を仲間と認めた。友達になろう」

 翔太が口をはさむ。

 「君が翔太ね」

 身を起こす芥川。

 「大丈夫だよ」

 翔太は芥川を抱き寄せた。

 ドキッとする芥川。

 ため息をもらす高津、朝倉。

 芥川は顔を赤らめる。

 でもなんてあったかいのだろう。自分にはもともとないものだ。心臓の鼓動に体温。人工皮膚やセンサーを通じて感じる。これまでの痛みも違和感も消えていく。

 「君はマシンじゃない。友達になろう」

 芥川から離れる翔太。

 「いいの?君は人間と一緒に生活した方がいいよ」

 芥川はうつむいた。

 「それは福竜丸や沢本さん達から言われたし、佐久間さんからも同じような事を聞いている。オルビスやリンガムを自分が小さい時から見ているし、苦労するおじいさんや父さんを見てきている。同じ地球に住んでいるのだから一緒に生活するのは当たり前だよ」

 当然のように言う翔太。

 「変わってるね」

 感心する芥川。

 「翔太」

 目を覚ますオルビス。

 「オルビス。仲間が増えてよかったね」

 笑みを浮かべる翔太。

 オルビスはうなづいた。

 「芥川、高津、氷見、朝比奈の四名は横浜防災基地の所属になる。第三チームはここから要請があれば出動する」

 更科は真顔になる。

 「はい」

 四人はうなづいた。


 翔太と芥川は岸壁の隅に座った。

 芥川は保安官が着る作業服を着用している。

 「君は人間と変わらないよ」

 翔太は彼女の横顔を見ながら言う。

 「そう?」

 まんざらでもない芥川。

 翔太はお茶を彼女に渡した。

 ペットボトルのお茶を飲む二人。

 三神が翔太の隣りに座った。

 「翔太。ここから先は戦いは厳しくなると思う。海保や自衛隊も政府も警戒している。中国政府といるサブ・サンは何かしかけるだろうし、アメリカ沿岸警備隊と米軍と一緒にいるジョコンダもおとなしくしていない。君や椎野さん、稲垣さんやロイヤルウイングや清龍丸を巻き込む事になる」

 三神は海を見ながら口を開く。

 「わかってる。ジョコンダは危険だし、サブ・サン以上に性質が悪い。中国海警局は米軍が参戦しなければやりたい放題だ。周辺国と揉めている南シナ海に基地を三つ完成させた。その中にはカメレオンの基地もあるかもしれない。現実にこの間は横浜の事件で卵を積んだコンテナ船を送り込んできた。ほっとくとカメレオンの巣穴が出来てしまう。誰かがやらないと人間だけでなくミュータントもマシンミュータントも滅亡する」

 翔太は重い口を開く。

 「私もそれは感じる。SSTは再編されたのはそのためだ。でも私は155ミリりゅう弾砲と融合したけどそれだと勝てない。敵は海からやってくる。船のミュータントだらけで私は簡単にねじ伏せられてしまう。敵は海警船や巡視船を使ってまた悪巧みをしている。それを止めたい」

 芥川は何か決心したように言う。

 「一緒に止めよう。人間が本来はなんとかしないといけないのにジョコンダみたいな人間もいる。どっかの次期大統領はミュータント隔離法案を出そうとしているし、時空侵略者を利用したい人間もいる。エゴの塊だし自分勝手だ。僕はマシンミュータントや普通のミュータントの架け橋になりたいだけだ」

 翔太はお茶を飲んだ。

 「翔太。君は俺達が怖くないのか?」

 三神は聞いた。

 「怖くないよ。小さい時からオルビスといるし、自分の周りにはマシンミュータントは普通にいたし、普通のミュータントも周りにいた。曽祖父達は苦労している。僕や姉さんはそれを見てきている」

 フッと笑う翔太。

 自分は父や祖父達の背中を見て育った。

 「それに三神さんも芥川さんの力は航路を迷っているミュータントを道案内したり不審船のミュータントやテロリストと戦うためにある。機械じゃない。沢本さんやアニータさんの力は誰かの役に立っているんだ。役に立たない人なんていない」

 翔太ははっきり言う。

 「高校生にしてはいい事言う」

 不意に声がして振り向く三人。

 「沢本さん」

 驚く翔太。

 「隊長」

 三神と芥川は声をそろえる。

 「警視庁から羽生さん達が来ている。重要な話があるらしい。会議室に来い」

 沢本は手招きした。


 同時刻。東京湾。

 巡視船「いなさ」は周囲を見回した。船橋構造物から八つの集音装置を出しながら貝原は耳を済ませる。

 東京湾は一日に六〇〇隻の船舶が航行する。いろんな船舶や港の電波や通信が飛び交う。

雑音には慣れている。その中で変わった信号が出ている。出ているのは在日米軍横須賀基地だ。

 貝原は横須賀基地に船首を向ける。米軍基地に空母「サラトガ」強襲艦「エセックス」が停泊している。この二隻がクリスとアイリスという米兵が変身しているのは知っている。あの金魚のウンコの沿岸戦闘艦の二隻が見当たらない。

 「やあひさしぶりだね」

 不意に呼ばれて船体ごとその方向へ向ける貝原。

 そこに沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」とアメリカ沿岸警備隊の大型巡視船

「ベア」「ホーク」がいた。レジーとレイスが沿岸戦闘艦で「ベア」がカプリカ。「ホーク」がニコラスなのは知っている。

 「巡視船「いなさ」電波や信号に気づいているんでしょ」

 カプリカは単刀直入に聞いた。

 「船名で呼ばれるのは嫌いだろ」

 わざと言うニコラス。

 歯切りする貝原。

 「なんか言ってみろよ」

 からかうレジーとレイス。

 「黙れよ。ポンコツ」

 声を低める貝原。

 「トラウマ抱えて東京湾から出られないクセに。仲間はずれのなさけない船」

 カプリカが見下す。

 貝原は機関砲を向けた。

 「何もしていないのに撃つのか?」

 声を低めるニコラス。

 「撃つさ。怪しい電波をしかも横浜基地に発信しているってバラす」

 一〇対の鎖を出す貝原。

 「俺達の作戦を邪魔するな!!」

 一〇対の鎖を出すカプリカ達。

 「何が作戦だよ。この間の横浜事件で僕に罪をなすりつけようとした。おまえなんかバラバラにして捨ててやる」

 貝原はカプリカを錨で指さした。

 四隻の船橋の二つの光が吊り上った。

 レジーとレイスは鎖を伸ばした。

 貝原は間隙を縫うように駆け出し、機関砲で艦橋を撃ち、エンジン部を連射。

 「ぐあっ!!」

 のけぞるレイスとレジー。

 貝原はエンジン部品を引っこ抜いた。

 カプリカの体当たり。

 すんでのところでかわす貝原。船橋構造物から出ている拡声器から音波を発射。それはバブルリングのように飛び出しカプリカが変身する巡視船に命中。

 「ぐああああ!!」

 カプリカは耳をふさぐしぐさをした。電子脳から火花が散り、聴音装置がショートして火花が散った。

 レジーとレイスが弾き飛ばされ突堤防波堤に激突した。

 「捕まえてバラバラだ」

 ニコラスは船首砲を撃った。

 ジグザグに航行してかわして逃げる貝原。

 「横浜港に行かせるな!!」

 カプリカは耳をふさぐしぐさをしながら叫んだ。


 同時刻。横浜防災基地。

 会議室に入ってくる三神、翔太、芥川。

 そこに羽生、田代、エリック、和泉、リンガムがいる。

 「何か進展があったのですか?」

 翔太が聞いた。

 うなづくエリック。

 「警視庁は捜査一課と二課と一緒にオレオレ詐欺グループの内偵をしていた。そこにマトリと横浜税関、東京税関がニトロドラックを取引している組織を捜していて我々と合流した。そのブローカーは中国人グループで摘発した。証拠品にニトロドラックはあったし名簿業者からの名簿リストや電話は回収した。そこにはデカイコンピュータがあって何台もパソコンがあった」

 部屋の写真を見せる羽生。

 「スーパーコンピュータって奴?」

 長島と夜庭が指摘した。

 「この形状からするとそうですね」

 稲垣はアマチュア無線機を出した。

 「なんでそんなものを詐欺グループが持っている?」

 沢本が怪しむ。

 「今は捜査中。でもこれだけは言える。ただの詐欺グループでもなくブローカーでもないのよ」

 田代がはっきり言う。

 リンガムはタブレットPCをモニターにつないだ。画面に分割されて記号の羅列や信号パターン。日本地図と領海と領空が出る。横浜港に赤丸がついている。

 「なんだこれ?」

 朝倉が首をかしげる。

 「そこには脅威度リストというのがあって沢本達の名前がリストアップされている」

 リンガムはキーボードを操作する。画面に沢本達だけでなくアニータや佐久間、レベッカ達の名前が載っている。

 「一番のトップは翔太。ついで三神、沢本の順番になっている。貝原も入っている」

 リンガムは指摘する。

 「やったのはきっと中国海警局だ」

 黙っていた芥川は口を開いた。

 「え?」

 「私達はSSTの任務で大型の不審船の制圧に行った。そこには怪物兵だらけで金属の芋虫もいた」

 芥川は掌底を上に向けてホログラム映像を出した。

 「すげえな・・・」

 感心する羽生とエリック。

 「司令室は空っぽ。怪物兵が操作していると思われ、そこには脅威度、破壊すべき船舶と艦船、人物名簿があった」

 名簿リストのトップは翔太とオルビス、リンガム。アーラン。そして巡視船「やしま」「こうや」イージス艦「あしがら」やアニータ、ルース、ミンシン、トム、グエンの順番。海上保安庁長官の名前や葛城長官の名前もあるし、尖閣専従部隊のミュータントの名前もある」

 芥川は説明した。

 「データは損傷していたけど直した」

 リンガムが口をはさむ。

 「リストに破壊すべき船舶に「しきしま」が入っている。それも最優先で。そして「しきしま」型三番船も入っている。司令部機能や指揮機能、拠点機能がある巡視船を破壊したいみたいね」

 芥川は冷静に指摘する。

 「丁度、自衛隊のイージス艦や「いずも」と同じだね。司令部を失えば現場は混乱する。中国軍がそうだったじゃないか」

 オルビスが口を開いた。

 「そうね。確かに言える。中国軍は長期の占領や橋頭堡の維持が苦手に見えたし、食料や物資が途絶えると士気が簡単に下がった」

 和泉が納得する。

 「俺が融合した「やしま」は確かに長大な航行能力や現場の指揮や指示をするのに必要な能力がそろっている」

 沢本はうーんとうなる。

 「でもさぁ、なんで俺は一番ビリなんだろう?それもレストラン船としゅんせつ船と一緒って?」

 不満そうな顔の朝倉。

 ムッとする夜庭と長島。

 「椎野と稲垣の名前もビリから五番目ね。警視庁の羽生と田代と魔術師協会のエリック、和泉の名前もある」

 リンガムがしゃらっと言う。

 「俺は二番目か・・・」

 絶句する三神。

 リストを作ったのは中国軍だろう。自分達のせいで海警局は失敗つづき。サブ・サンの小さなタイムラインが消えているせいでもあるが。

 「私と蓼沢、成増は石崎防衛大臣、三峰長官と葛城長官から巡視船「しきしま」と芥川を融合させてはどうかという提案を受けた。新たな脅威と向き合うためにね」

 リストを見ながら更科は重い口を開く。

 「本気ですか?」

 沢本と三神が声をそろえる。

 「本気だ。「しきしま」は耐用年数が二五年を越えた。代替船は「あきつしま」だったが秋山と融合している。三番船は建造中だ。敵は待ってくれない。なら新たなる脅威には芥川と「しきしま」を融合させるしかないとね。このリストを作ったのは中国海警局だとするとカメレオンを使って何かやるだろう。というのも中国はまた新しい巡視船もどきを建造してカメレオンと融合させた。空母「波王」の作戦が失敗して、今度は海警船を使うようだ。時空のひずみが中国国内で観測されている事から海警船に波王のような卵を産むクイーンを呼んだと思われる。船番号は39から始まり一万二千トンクラスを三隻建造。そのうち一隻はクイーンエイリアンだろう」

 石崎大臣が説明する。

 「その情報はどこから?」

 朝比奈が聞いた。

 「ライという北の工作員だ」

 石崎大臣が答えた。

 「だから「しきしま」に決まったんだ。それに改修もした」

 更科は資料を見せた。

 「大幅にやったのね。「あきつしま」はミュータントだけど最新鋭巡視船並みというより護衛艦並みのボフォース四十ミリ機関砲二基に二十ミリ機関砲二基に高性能放水銃に護衛艦用のレーダーとソナー。ヘリが二基収容できるヘリ格納庫。そして船体は護衛艦並みの防御。ミサイルに撃たれても沈まないということね」

 リンガムは冷静に分析する。

 「日本政府に退役した旧式の護衛艦を二隻を巡視船に改修して引き渡す事になっている」

 更科は資料を渡した。

 「すげえな」

 感心する沢本達。

 「海上保安庁としては賭けはしたくないがそうしないとカメレオンや船もどきに勝てないと思ったからね。しきしまにいた乗員は退去した」

 更科は何か決心したように言う。

 「じゃあやろう。日韓の掘削施設に行くのはそれからだ・・・」

 沢本はうなづいた。

その時である。窓ガラスが割れて貝原が転がり込んできたのは。

 「どうした?」

 駆け寄る三神と沢本。

 息を切らして顔を上げる貝原。

 「追われている」

 「誰に?」

 翔太と芥川が身を乗り出す。

 「巡視船「ホーク」「ベア」と沿岸戦闘艦の二隻」

 息を整える貝原。

 「答えは明白ね」

 芥川とオルビスがうなづく。

 「僕は怪しい信号を追いかけて行った。行き着いた先が横須賀基地だった」

 貝原は重い口を開いた。

 「そしたら追いかけられた。よかったな。捕まらなくて」

 朝倉が意地悪く言う。

 貝原はつかみかかる。

 沢本はその腕をつかんで背負い投げ。そして彼を地面にねじ伏せた。

 「ちくしょう。バラバラにしてやる」

 怒りをぶつける貝原。

 「だって本当だろ。犬と同じじゃん」

 からかう朝倉。

 「今はケンカしている場合じゃない。横浜港の出入口にレイスとレジー、「ホーク」「ベア」がいる」

 三神は外をのぞいた。

 「ドローンが一〇〇機接近」

 オルビスが報告した。

 「横須賀方面からドローンが来る」

 三神は身を乗り出す。

 「エリック、羽生さん、椎野さん達を頼む」

 沢本は指示を出した。

 「レビテト」

 翔太は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて少し浮いた。

 翔太は窓から飛び降りた。地面に近づくとフワッと着地した。

 窓から飛び降りる三神達。

 横浜港の出入口からたくさんのドローンが接近してくる。直径は一メートルで機銃が装備されていた。

 マシンミュータント達は片腕を機関砲に変形。背中から二対の金属の触手を出した。

 高津は杖を出した。先端が装飾が施されている。

 朝比奈や氷見は銃を抜いた。

 翔太は時空武器を弓に変えた。

 ドローンの機銃が向いた。

 翔太は矢を射る。命中してドローンは海に落ちた。

 三神達は腕の機関銃で接近してきたドローンを次々撃墜した。

 「サンダー」

 高津は杖を向けた。力ある言葉に応えて稲妻が放出。数十機のドローンを撃墜した。

 翔太達の足元には一〇〇機を越えるドローンの残骸が転がっている。

 「米軍仕様だね」

 オルビスはそのうちの一機を拾う。

 「中国軍の情報を横取りか」

 芥川は視線を移した。横浜港の出入口にいた「ホーク」「ベア」とレジーとレイスが去っていくのが見えた。

 官舎の窓から下をのぞく羽生達。

 芥川は「しきしま」に近づいた。

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