第13話 さぁ面接を始めよう、君の大嫌いな口頭試問だ


寝て起きたら自室のベットの上だった。


日付は4月2日


別に1日寝てたわけじゃないらしい。


私が過ごしたあの異世界での時間はちょうど寝てる時間で。完全に夢だ。

だが逆に、あっちで過ごして寝た夢の世界がこちらのような気もする。


どっちも記憶はしっかりと残っている。


あの☆と○と五角形の文字も覚えていた。


・・・そうだ、もしかしたら向こうの世界、夢の中に勉強道具をもっていけば、向こうで勉強した知識がこちらで使えるんじゃないか?


確かこちらでも向こうでも8時間は寝ている。活動時間は16時間か。

・・・つまり夢の中、起きているときの体感時間はちょうど2倍か。

1日が32時間になるじゃん!最強かよ!東大いけるわ!


この日は数学と物理の勉強をして、星文字を少し復習して、そして寝た。


☆ ☆ ☆


城。


〈さぁ、面接を始めよう。君から向かって1番右が経済学者のミクロだ。その隣が私、フレア。化学専攻の教士だ。そしてお隣がこの国の女王。セント・トパーズ・シンデレラ・ローズ様。続いて生物学者のイデン錬士。最後に数学者のファルだ。〉


フレアの説明で面接が始まる。


僕は椅子に座っていて、面と向かって5人の学者たちと対面している。

フレアの隣にいるのが女王様か。黒に近い青色の髪のショート。

お姫様ってもっとみんな背中まで髪を伸ばしているイメージがあったけど、なんだか活発な女の子に見えた。


〈説明の通り、王族の者と錬士以上の学者2名、そして計5人の学者の立ち合いによりこの試験は行われる。故に、これは正式な王国認定の研究者認定試験となる。よろしいですね?〉

【えぇ。続けて。】


透き通るような力強く美しい声がした。

あれがセント姫の声か。一目ぼれしそうだ。

だけど、どこかつまらなそうで、退屈そうな、じとっとした目をしていた。

ずっとだ。


〈では、右から順に質問を行います。〉

「はい。」


面接が始まった。



「じゃあ受験者の名前、年齢、それと推薦者の名前を教えてください。」

「はい!クード・ヴァン・カーネーション、18歳です。フレア・カルーア・カーネーション教士の推薦です。」


〈おーけー。じゃあクーさん。君の学歴を問いたい。〉

「学歴・・・ですか?」

〈何を勉強してきたか、何ができるかで構いませんよ。〉

「えぇと、日本語は第一母国語として完璧に読み書きできます。あとは英語を少々、数学と物理と、あとは地学が得意です。それと多少ですが化学と生物学も学んだことがあります。」

〈結構です。ありがとう。〉


面接官がざわつく中、フレアは一人にやりと笑っていた。

私の連れてきた男はすごいだろうと言わんばかりに。


【クードさん、君は雨を降らせたといいましたね。私も物理地学数学が専門ですが、天候を操れるほどの学術は聞いたことがありません。その話が本当なら、試しに雨を降らせてみてはくれませんか?】

「…多分、今は降らせることができません。空気中に水があって、エアロゾルという塵芥がなければ雲すら作れないと思います。」

【…つまらないな。】


彼女のつまらなそうな顔がさらに凍り付いたように無表情になる。

落ち着け。面接は否定される場所だ、自分の存在をいらないって言われる場所なんだ。

次の面接官が喋る。


「では私が質問させていただきます。この紙の文字を読んでください。」


一枚の紙を渡される。


「日本語ですね。地表にある物体に働く重力によって生ずる加速度を、重力加速度という。ニュートンの運動方程式は、加速度-運動の様子を表す-と力の関係式であるから、地表で重力以外の影響を受けずに運動する物体の運動を観測することにより、重力加速度を決定できる。と。」


また面接官たちがどよめく。


「次は、この文章を読んでください。」


う・・・英語か


「Newton's law of universal gravitation states that a particle attracts every other particle in the universe using a force that is directly proportional to the product of their masses and inversely proportional to the square of the distance between them.」

「意味を答えられますか?」

「えぇと、ニュートンとは重力や重さ、力を示す国際単位のことである。かな?」


またまた面接官たちがざわつく。


「ではこの文章を読んでください。」


Ce fort coup de vent entraînera la formation d'un important train de houle. Dans une mer forte à passagèrement grosse, les vagues déferleront sur les plages. Au moment de la pleine mer, le risque de submersion de digue n'est pas exclu. Avec des coefficients de marée de 80, l'impact des vagues déferlantes pourrait être assez marqué.


フランス語…いやイタリア語かもな


「セ・フォ・クー・ド・ヴィ・テントレイナー?・ラ・フォーメイス・ドゥ・インポータン・レイ・デ・オウ?・・・」

〈いかがかな?〉

「すいません、読めないし、意味も残念ながら…」


面接官たちからどこかほっとしたような息が漏れた。


〈じゃあ質問を続けます。〉


「50までの数字に素数はいくつありますか?」

「2,3,5,7,11,13,17,19,29,31,37,41,43,47,・・・までですね。」


【円周率100ケタいえますか?】

「3.14159265358979323846264338327950288419716939937510582097494459230781286208448628…多分後半間違ってます。」


「3リットルの容器と5リットルの容器を用いて4リットルの水を測り取って下さい。」

「余裕です。」


〈コインが20枚あって、一つだけ重いコインが混じってます。天秤を何回使えば見分けられるでしょうか?〉

「えぇと・・・3回。7,8,8に分けて奇数を乗っけていけば3回でわかります。」


「コーヒーに氷を浮かべます。氷が何秒で溶けるか計算できますか?」

「コーヒーの容量を180ccとして氷の体積を3×3×3立方センチメートル、体積がわかれば表面積と密度…コーヒーの密度っていくつだ?砂糖溶かして…室温が22℃としてコーヒーが80℃くらいとして…水の比熱って1.4だっけ?1は密度だよね。4.12はジュールってだけか。えぇとあとは Q=cv で計算できるかと思います。」


「ファルコンの定理を知っていますか?」

「聞いたことはありますが見たことありません。」


【死刑制度についてどう思いますか?】

「冤罪が無くなればいいかと思います。あと情状酌量の余地がない人殺しは自分の臓器をドナー提供して死ねばいいと思います。」


「氷が溶けると何になりますか?」

「春になります。」


「犯罪をしたことは?」

「ありません。」


【平和って何ですか?】

「戦争と戦争の間の時間の事だと思います。」


〈あなたにとって幸せって何ですか?〉

「みんながいっしょに笑っておいしいご飯を食べることです。」


一通り聞きたいことは終わっただろうか、面接官たちがひそひそと会話をする。


【ねぇあなた、どうしてあなたは勉強するの?】


先ほどとは違う口調で、セント姫が尋ねた。


「えっと…俺の学術が人の役に立てたらと、あと、勉強が好きなのと、えぇと…」

【他には?】

「その…人に認められたくて。親に。世界に。自分の存在を。」


しまった、と思った。あまりにもみっともない理由を馬鹿正直に話してしまった。


【ふふっ、あなた正直ね。】


初めて彼女が笑った。


〈ほかに質問のある方はいませんか? …はい、では以上で面接を終わりにします。この後1時間休憩を取ってから、実技試験に移ります。〉


そしてフレアは僕の方を見て、声に出さず口を動かして〈がんばってね〉と言ってくれた。

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