第11話 You gotta something to do in the world.

4月1日


目が覚めた―


・・・ここは病院だろうか。

初めて見る景色。

気が付いたら近所の大学病院のベットで寝ていた。


看護師さんが来て、医師が来て、それから家族が見えた。

母親に死ぬほど怒られた。

そして泣かれて、殴られた。

医者に診てもらい、命に別状なしと今日中に退院できることになった。

俺は自殺を図った湖に一番近い神社にずぶぬれで倒れていたらしい。

家に帰って、親父に土下座して、予備校に行かせてもらえるように頼み込んだ。

その日のうちに某最大予備校の大宮校に行って入学手続きを済ませてきた。

なんで駅から予備校に行くまでにアニメショップが並んでるのかねぇと一抹の不安を感じた。

ニートではなくギリギリ学生であることに多少の安堵を得た。

家に帰って、最低限の勉強道具をまとめて、そしてやっと一息ついた。

あの私が見た幻想は夢だったのだろうか?

今思えば夢にしか感じないが、見てるときは本当に現実だと思った。

火事の中から、シャーリー・テンプル・チューリップという少女を助けて。

動けなくなった中、フレア・カルーア・カーネーションという女性に助けられて。

怪我を治療してくれたのは、メディ・キティ・アコナイトという女性で。

俺はクード・ヴァン・カネーションという名前を貰って、シャーリーとフレアと一緒に暮らすことになって、それから一緒に寝て。

・・・あの世界にもう一度行きたいなぁ

そんなことを夢見ながら、いろいろ体験して疲れた体では考えもまとまらずに、自室のベットで寝た。


そして、

また、

夢を見た。


☆ ☆ ☆


{もう朝だよー!起きて!クーお兄ちゃん!}


身体がゆっさゆっさ揺られる。

なんか聞き覚えのある声で、懐かしい暖かい場所にいる感じがした。


「・・・ん、シャーリー?」

{おはよう!お兄ちゃん!}


目を開けると金髪の少女が俺の顔を覗き込んでいた。

頭がぼーっとする。でも体は軽かった。


{朝ごはんできたからお兄ちゃん起こして来いってね、フレアさんが言ってたの!}

「ん、うん。起きるよ。待ってて。」

{じゃあ先に行ってるねー!}


子供は朝から元気だなー、なんて思ったあたり俺ももう若くないってことなのか。

18歳という大人と子供の中間地点にいる宙ぶらりんな感覚を抱きながら、ベットのぬくもりを後にした。


「おはよーございます。」

〈おう、起きたか。おはよう。〉


ダイニングに入ると、エプロン姿のフレアがおはようを言ってくれた。

・・・いいなぁ。こういうの。


テーブルに着くと、3人分の朝食が並んでいた。

目玉焼き、トースト、ベーコン…こっちの世界も食生活はあまり変わらないようだ。


〈じゃあ食べよっか、いただきます。〉

{いただきまーす!}

「頂きます。」


フレアが美味しそうに食べる僕らを見てとても幸せそうに笑ってた。


{・・・フレアお姉ちゃん、何笑ってるの?}

〈ふふっ、ちょっとうれしいだけよ。〉


シャーリーはよく分かんないというような表情をした。


{お兄ちゃんもそんなにうれしいの?}

「え?あぁごめん笑ってた? こうやって誰かと一緒に朝食食べるの久しぶりだからさ、なんかうれしくって。」

{えへへ、私も、おばあちゃんとお母さんはいなくなっちゃったけど、クーとフレアさんがいてくれてうれしいよ!}


その笑顔がとてもとても眩しくて思わず抱きしめそうになった。


〈シャーリー、もう他人行儀じゃなくていいわよ。フレアで。もしくはお姉さん。〉

{うん、フレア。ありがとう!}

〈ふふっ、やったねシャーリー。家族が増えたよ。〉


おいやめろ

でも子供はいいものだ。国の宝だ。生意気なガキは嫌いだけど、こうも礼儀正しいかわいい子はいっぱいいればいい。ていうか育てたい。俺の考える理想の女性にしたい。


〈でさ、今日は私仕事ないから、町へ買い物しにいこうか。〉

{ほんと?やったー!}


シャーリーがパンを両手に持ちながら喜ぶ。


〈家族も増えたし、家具や生活用品そろえないとね。〉

{わーい!ありがと、お姉ちゃん!}

「あっ、俺金持ってないですよ。」

〈いやいや今更だよねぇ。ウチに居候しておいてさ。〉

「う・・・スミマセン・・・」


そういえば働いたことないなぁ、俺。


〈大丈夫大丈夫。研究者の中でも私は教士だからねぇ、お金はいっぱいもってるよ。心配しなさんな。〉

「お世話になります。」

{ねぇねぇ、その教士ってすごいの?}

「あぁそれ。俺も聞きたかった。教師?って何ですか?」

〈んー、ちょっと待ってね。〉


フレアはパンを咥えながら紙とペンを探す。

説明するとき何かを描くのがクセなんだろうか。


〈ほいこれ。〉


紙には「錬士、教士、博士」とだけ書かれていた・


「えっと…れんし、きょうし、はくし、ですか?」

〈そうそう。錬士教士博士。これがこの国の研究者の階級ね。〉

{えー、読めないよー。}


あぁそっか。漢字、てか日本語がこの国じゃ読めないのか。


〈シャーリーちゃん、後で私たちが漢字の読み方教えてあげるね。これすごい言語だから覚えたら頭良くなるよっ、あと教科書読めるようになるよ。〉

{ホント!?教えてね!約束だよ!}

〈約束ねー♪〉


フレアも妹ができたようで嬉しそうだ。

…一回り違うから親子と言われればそうにも見えるけど。


〈で、漢字の読めるクーはなんとなく意味が分かるだろ?〉

「えぇ。多分、自ら研究して学問を追及するのが錬士。鍛錬の錬でレンシ。…鍛練って糸編の練じゃありません?」

〈いいのいいの。錬金術の錬ともかぶってるから。〉

「なるほど。んで、教士は人に教える力を持った研究者の事ですかね?教師の意味での教士。」


フレアとシャーリーが甘いコーヒーを飲みながら僕の話を聞いている。


〈そうそう、良い線いってるね。で、博士は?〉

「博士は…なんだろう。博士は俺の国では研究者の最高峰…いや、代名詞って言うべきか。歴史に名を遺した偉大な研究者は皆大学院を卒業した博士です。例外もいなくはないけど、今の時代は博士にならないと世界から認められることはない、って言っても過言ではないです。」

〈まぁ大体あってるかな。そんなイメージだよ。 錬士は研究者の中でも学術の力を認められた者たち。教士は錬士の中でもとびきりの力を持ったごく一部の研究者。そして博士は教士の中でも国に多く貢献したり、革命的な成果を残した者に与えられるの。〉

「へー。」

{へー。}


〈シャーリーには少し難しいかな?〉

{大丈夫だよ!}


さっきまで静かに聞いていたシャーリーはなんとなく話を理解しているようだった。


〈でね、この国に教士はたった3人しかいないのよ。物理学者と、言語学者と、あと化学者がわたし。どう?偉いでしょ。〉

{へー!フレアさんすごい!}

〈クーもね、手続きすればすぐ研究者にはなれるよ。もしかしたら錬士くらいの実力はあるかも。〉


へー、高校生くらいの学力でもそんなに偉くなれるのか。

この国に学校はないんだろうな。


〈シャーリーも、がんばれば最年少研究者になれるかもよ?〉

{ほんと!?わたしがんばるね!}

〈じゃあ食べ終わったら食器をキッチンに持ってってね。ごちそうさま。〉

{ごちそうさまでしたっ!}

「ごちそうさま。」


〈じゃ、準備して、買い物行きましょう!〉

{はーい!}

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