第2話 胡蝶夢にも似た明晰夢

夢を見た。


一本の大通り、そこに行きかう多くの人々。広がる出店屋台。古代ローマか、中世エジプトか。それよりもよく見覚えのある景気、想像したことある世界。頭に思い描いたゲームやアニメの背景というほうがぴったりだった。


明晰夢を見たことがある。 夢の中で「これは夢だ。」と気付く夢だ。

夢を現実と思い込むことも幾つもあったし、夢の中で重力や痛みを感じることも幾つもあった。


だが現実を夢と間違えることは絶対にありえない。


明るすぎて、多すぎる。身体が、脳が、目で見て耳で聞こえてくる肌で感じるその情報量が、これは現実だと訴えてきた。


「えっと…どうしよう。」


周囲の目と耳慣れない言葉が不快だった。

とりあえず人気のない路地裏に逃げ込む。

人づきあいとかは苦手ではないし、注目されるのも好きな方だが、少し一人になる時間が欲しかった。

いきなりイギリスとかアメリカに飛ばされたらどうするよ。多分同じ行動をとるだろう。


「言葉は通じるのかな、あと所持品が…何もないな。」


財布もケータイもない。外国に飛ばされたっていうか無人島にいる気分だ。

服装も学ランにコートを着ているだけ。


さて、何故俺は身ぐるみひとつで財布もケータイも持たずにいるのでしょうか?




答え 自殺しようとしていたからである。



てか死んだんだろうか。


・・・まてまて、死んだら輪廻転生するにしても2歳とか物心つくころから始まらんとおかしい。あと記憶もリセットされるべきだ。


というのが持論である。なので死んでないことにした。

同時に自分がとてつもなく阿保に感じたがまぁいいとしよう。


路地から大通りを覗いてみる。

えーと、フード率高いな。金髪がいる。てか黒髪のほうが珍しい。女の子いるじゃん。かわいい。剣持ってるやつもいるな。帯刀はおっけーか。にぎやかだな。みんな笑顔だ。いいことだ。食べ物屋がいっぱいだ。てかそれしか並んでない。出店か。おー、めっちゃ大男がいらっしゃる。でも190くらいか。平均身長は対して変わらんっぽいな。・・・よく聞くと日本語喋ってるな。方言みたいなものか。それで聞き取りにくくて勘違いしたのか。・・・でも文字はわけわからんな。宇都宮駅とか前橋駅くらいの人通りだな。地方都市…いや、それはどうだろうか。


なーんてことを考えていた時だった。


「火事だ―!!!!」


男の野太い叫び声だった。道を行きかう人々の大半が声のする方へと走っていった。

「火事だって?」「大丈夫か?!」「人手をくれ!」


野次馬根性か、人助けか、それとも流されやすい日本人気質か、俺も声のする方へと歩いて行った。


☆ ☆ ☆


炎が見えた。

歩は駆け足になって、事の重大さに気付いたときは全力で疾走していた。


「水が足りない!水を持って来い!もっとだもっと!!」

「もう持たない!早く崩せ!!」


レンガ作りの家だろう、もう窓らしき部分から黒煙と紅の炎が這い出ているだけだった。

人ごみの最前列まで行ったがこの距離で十分に熱かった。

バケツリレーをやってはいる。でもこれはどう見ても火の勢いを止められるものではない。

これはもう建物を崩すしかないな。


・・・


崩さないのか?


いくらレンガ作りと言ってもここまで密集している大通りの一帯だぞ。すぐに飛び火するだろう。それなら建物が崩れる前に人の手で崩してしまえばいい。これくらい国や時代が違えどわかるはず。それともこの国は消防隊がいないのか。もしかしたら物理法則が違うのか?そんなことないだろう。



「・・・おい、この家の子まだ中にいるんじゃないか?」

野次馬の噂話が耳に入る。

そうか、かわいそうに。もうどうしようもないな。生きているといいな。

「ホントか?」「そうだここの家の女の子のだ。」「大変だ!」「まだ若いのに…」

ん?

「おい、本当か?女の子が中にいるって。」

野次馬のひとりのおっさんに話しかける。

「ああ。・・・お前さんなんだか珍しい恰好をしているな。」

「なんで早く言わないんだ!助けなきゃ!!」

「はあ?何言ってんだ?この大火事だぞ。もう助からんし、誰も飛び込む勇気なんて…おい!おめえ!焼け死ぬぞ!やめとけ!」


フードを被る。そしてバケツリレーを横取りして水をかぶる。

一度自殺した身だ。何とかなる。


「女の子を見殺しにできるかよぉ!」


燃え盛る火炎の渦に飛び込んだ。

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