第12話 初めての召喚獣戦 2

「「模擬召喚獣戦、第一回戦!始めっ!!」」


セバスチャンさんの開始の合図と同時に、リンネは地面を蹴ってクリスタに向かって突進する。

それを認めたクリスタも身体の周囲に漂うクリスタルの粒を投げる攻撃スキル『クリスタルアロー』でリンネの接近を牽制してくる。


『決して相手から視線を反らすな。決して足を止めるな』と指示してたおかげで、リンネは豪速球のように飛んでくる攻撃を難なくかわしながら走る。

動きの遅いゴーレム種には素早く動き回って翻弄して隙を突くしかない。


やがて一気に距離を詰めたリンネはクリスタの周囲を走りながら、牽制射撃をしつつ一定の距離を取る。

決して近づき過ぎず、近接攻撃の範囲外ギリギリの間合いを保つように指示しておいたのだ。


クリスタもまた攻撃しつつ、リンネを脇に回らせまいと身体を常に正面に向けてくる。

そのせいでリンネが放った訓練弾はことごとく太い腕で弾かれ、有効弾を与えることは出来ない。

クリスタの腕の大きさはその身体全体をカバー出来るほどにデカイ。

城壁のような腕のおかげで、防御タイプのゴーレム種は正面からの通常攻撃ではまず抜けない。

鉄壁の防御とクリスタルアローによる遠距離攻撃。

まるで隙のない要塞だ。


俺はクリスタの動きを観察しつつ、リンネのスキル発動タイミングを測る。

クリスタの遠距離攻撃スキルであるクリスタルアローは連続攻撃を続けていると、身体の周囲のクリスタル生成が追い付かなくなる瞬間が必ずあるはずだ。

特に標的が今の近い状況では必然的に連続使用せざるを得ない。


やがてクリスタル生成が追い付かず、クリスタルアローの発射間隔が開いてきた。

もう少しだっ……!


次の間隔の開いたタイミングを見計らって俺は合図を出す。


「リンネ!スリップダッシュだ!」


合図と同時に、一瞬でリンネの姿はスライドするように数メートルを瞬間移動してクリスタの腕の真下に滑り込んだ!


……よし!抜けたっ!


スライディングしつつ、リンネのクロスボウが太い腕の真下から無防備なクリスタの身体を捉えた。


「貰ったっ!」


と思った次の瞬間……!

クリスタル生成をしてたはずの片腕の薙ぎ払い攻撃でリンネの身体は宙を舞っていた……。


「有効!プルム様、1ポイント!!」


ええっ!何でだよっ!

信じられない展開に反対側のセーフゾーンのプルムを見ると、プルムもこっちを見て「ふふん!」って感じに笑いやがった。


『あんたの狙いなんてお見通しよ!』


って顔だ……。

おそらくクリスタル生成のタイミングを測っている事を見抜いて、わざとスキル使用を遅らせて間隔を開けたんだろう。

飛び込んで来るのを狙いすまして、薙ぎ払いスキルを使われた。

要はまんまと誘い込まれた訳だ。


「リンネ!大丈夫かっ?!」


ゆっくり立ち上がって埃を払っているリンネに駆け寄る。


「うん、全然平気!……あー、もうちょっとだったのにぃ!」


と、悔しそうに地団駄を踏む。


「リンネはよく頑張ったよ。1ポイント取られたけど焦らずに、次も落ち着いて動くんだぞ」


ここで焦って攻めるのが一番危険だ。


「次は思いきり近づいてくれ。相手の近接攻撃を避けながらスキルの合図を待つんだ。つまらん通常攻撃なんかに当たるんじゃねぇぞ?!」


「うん、さっきので解った!あいつの動きはのろいから大丈夫!」


確かにクリスタの近接攻撃は腕が大きく重いぶん、速度が遅い。

リンネの俊敏値なら回避し続ける事は難しくないだろう。



少しのインターバルの後、再び仕切り直して模擬訓練の第二回戦がスタート。


また同じように開幕から距離を詰めたリンネは指示通りクリスタに肉薄して隙を伺う。

クリスタもまた片腕で身体をしっかりカバーしつつ、腕を振り回してリンネの接近を阻む。

まるで巨大な草食獣に纏わりつくハイエナみたいだ。


何度も降り下ろされる打撃攻撃をサイドステップや横転で避けつつ、リンネはクリスタの側面を狙う。

そうはさまいとクリスタは後退しつつ応戦している。今の戦況は翻弄している側のリンネが明らかに押していた。


だが回避の一瞬の合間、リンネの動きが止まった瞬間を狙いすまして、光を帯びたクリスタの腕が猛烈な勢いで降り下ろされる。

クリスタルゴーレムの近接スキル『巨槌』だ。


それを辛うじてバックステップで回避するも、リンネが今しがた立ってた場所には大きな砂煙と共にクリスタの大腕が地面に突き刺さった。


このタイミングを待ってたんだ!


「パワーヒット!!」


俺の叫びと同時にリンネはその場でクロスボウを構えて足を踏ん張り、渾身の力を込めてパワーヒットを放つ。

通常の10倍の威力を持った一撃が閃光の如く空を斬って飛ぶ。


「リンネ、突貫しろ!!」


続けざまの合図をまるで待っていたかのように、リンネは腕を地面に着いたままのクリスタに突進する。


リンネの放ったパワーヒットはクリスタの身体をカバーする片腕に命中。

その重すぎる威力を吸収しきれずに腕が弾かれ、『巨槌』でバランスを崩していたクリスタが後ろに大きくよろめいた。


突貫してきたリンネは地面に刺さったクリスタの腕を踏み台にして大きくジャンプ!


そのまま空中から無防備となったクリスタの身体の中心にあるコアを射抜いた。


「そこまでっ!有効!カイル様、1ポイント!!」


か、勝った……!


「カイルぅ~~!勝った勝ったっ!!」


と、リンネがぴょんぴょんはしゃぎながら駆け寄ってくる。


「おめでとうリンネ!よくやったな!」


ご褒美とばかりにわしわしと頭を撫でてやる。


「わたしね、あそこで絶対、カイルの合図があるってわかったよ!」


どうやらリンネは戦況を分析して、自分なりに戦術を考えて指示のタイミングを測ってたらしい。

簡単な指示を実直に遂行するだけの今までの召喚獣とは違い、人間と同じように自ら考えて戦う召喚獣。

クラリス教官の言ってたように、確かにエルフ族の存在は各国の軍事バランスを変えてしまうかもしれない。


鋭い視線を感じてプルムを見ると、悔しそうにこっちを睨んで、ビッと中指を立てる。


ガラ悪りぃ~!


だけどあそこでプルムがスキルを使ってくれて助かった。

確かにあの時点では、リンネが押していた。しかしあのまま単調な攻撃の回避でスタミナを消耗し続ければこっちが危なかっただろう。


これで1対1、次の一戦で勝負が決まる。

だが、プルムはまだクリスタルゴーレムの神スキル『インスタントシールド』すら使っていない。

つまり全力を出してないってことだ。

強力なパワーヒットで防御を弾いて隙を作る作戦は、次は通用しないだろう。


「ねぇねぇ!次はリンネどうしたらいい?」


と、興奮気味にリンネが次の作戦を求めてくるが、実は何も考えてない。

目を輝かせて、『オラ、ワクワクすっぞ!』と言わんばかりの表情。

しかし俺達には有用なスキルも魔法も無い以上、裏をかいて相手の隙を狙う戦法しか取れない。

あとは温存していた特殊弾をどう利用するかだが、今回は一撃勝負なので徐々に体力を削るだけの猛毒弾は全く意味が無い。

跳躍弾は物体に当たると一度だけ反射する特性を持つが、反射させて標的に命中させるには相当の慣れが必要だ。

唯一使えそうな麻痺弾の効果も、異常状態耐性が高い無生物のゴーレム種では一瞬動きを止める程度だ。

その一瞬をいかに突くか、だな・・・。


「時間です!戦闘準備!」


インターバルの終了を告げるセバスチャンさんの合図で俺達は再び開始位置に着く。


「「模擬召喚獣戦、第三回戦!始めっ!!」」


開始の合図でまたリンネは距離を詰める。

だが今回は第一回戦と同じように近接攻撃の範囲外からクリスタルアローを回避しつつ牽制射撃を行わせる。

プルムも今度はパワーヒットを警戒しているのか、クリスタルアローの使用頻度を落として両手での防御姿勢を維持させていた。


このままやり合ってても、動き回って回避しているこっちのスタミナが削られ、ジリ貧となるだろう。

向こうはただ防御し続け、こっちのスタミナが尽きて動きが遅くなったところを仕留めればいい。

くそ、こちらから仕掛けるしかないか・・・!


「リンネ!パワーヒットだ!!」


リンネは足を止めて踏ん張ると、再びパワーヒットを放つ。

だが稲妻の如き一撃は両手で防御姿勢をとったクリスタの腕に弾かれ、火花を散らして砕け散った。

次の瞬間、パワーヒット使用後の一瞬の硬直状態を狙ったクリスタルアローがリンネを襲った。


真正面からまともに食らったリンネがクリスタルの破片と一緒に後方に吹き飛ばされる。


「あああっっっ!!」


ダメだっ!

と、思ったがセバスチャンさんの有効判定は出ない。


吹き飛ばされ、立膝のまま踏ん張るリンネを見ると、攻撃が当たる寸前で腕で防御していたようだ。

止めとばかり続けざまに放たれるクリスタルアローを横転で回避し、リンネは再び走り出す。

帷子付のライトメイルのおかげで怪我も無さそうだ。


不要意にスキルを使うと、逆にこちらの隙を狙われるな・・・。


「リンネ!接近して麻痺弾!全部撃ち込めぇ!!」


こうなれば思い切り接近して麻痺弾の効果が発動した一瞬のタイミングを狙うしかない。

リンネは移動しながら麻痺弾のマガジンをクロスボウにセットする。

用意した麻痺弾は1マガジン分の7発のみ。

たとえそれ以上撃ち込んでも、異常耐性の高いクリスタがマヒるのは一度きりだろう。


リンネはクリスタに突進しながら麻痺弾を確実にクリスタの腕に命中させてゆく。

そして近接攻撃を回避しつつ、4発、5発、6発・・・、

7発目っ!!


その瞬間、腕をぶん回した体勢のままクリスタの動きがピタリと止まった!!


「今だっ!!」


リンネは固まったままのクリスタの腕を乗り越えてクロスボウを構えた、


・・・その直後!


リンネの身体はクロスボウを構えた姿勢のまま、見えない壁に押し戻されるように後方に吹き飛ばされる。


ええっ!このタイミングでインスタントシールドを使いやがったか!


確かにプルムにとってクリスタの懐に入り込まれた以上、防御するにはインスタントシールドしかない。


くそぉ、あと一歩だったのに!!


インスタントシールドを張られた以上、前面からの攻撃はほぼ無効化される。

しかしシールドが切れるまでの間、その場から一歩も動けなくなるが、元々動きも遅いゴーレム種にとってそれほどのデメリットとはならない。

神スキルと言われる所以だ。


さてどうするか・・・。


移動できないだけで旋回して常に全面を向けてくるから側面や背後を取ることも難しい。

そんな俺の心を見透かしたように、遠くのプルムがこっちを見て勝ち誇ったように笑う。


くぅっ!!腹立つわぁ~!!


こうなりゃ正攻法にこだわってられねえ!


頼みの綱である麻痺弾が無くなった以上、残りのアイテムでどうにかするしかない。

俺は腹をくくると、最後の一手に全てを掛ける。


「リンネっ!煙幕弾を全部撃ち込め!」


リンネによってクリスタに全ての煙幕弾が撃ち込まれ、その周囲が白い煙に包まれる。

それでもプルムは慌てる様子もなく、余裕の笑みを崩さない。

例えクリスタが見えなくても飛んでくる攻撃をインスタントシールドで受け止めさせておけばいずれ煙幕は晴れる。

しかし、その間はプルムから咄嗟の指示が出来ないはずだ。


そこがこちらの狙い目なんだよ!


俺は煙幕の中に居るであろうリンネに叫ぶ。


「リンネ!接近して速射だ!」


「わかった~!!」


と煙幕の中から元気のいい返事が聞こえ、クロスボウの発射音とクリスタがそれを弾く音が聞こえる。


その音の位置からリンネとクリスタの位置を推し量って、タイミングを見極める。


次の発射音の直後に被弾音。どうやらリンネとクリスタが最適の位置に重なった!


今だっ!!


「リンネっ!真後ろに向いて跳躍弾!!撃ったら回り込め!」


発射音の直後、薄れ始めた煙幕を突き破ってリンネが後ろに向けて撃った矢が飛びだしてくる。


「よーし!回り込んだら思い切り撃ち込めっ!!」


晴れていく煙幕の中にリンネとクリスタの影が霞む。ちゃんと指示通りにリンネは反対側に回り込んでいるようだ。

そして狙い通り、リンネの姿を追ってクリスタが防御しつつ身体を旋回させる。


その次の瞬間―――


クリスタの背後から飛来した1発の矢がその巨大な身体に命中した!


「有効!!カイル様っ!!1ポイント。合計2ポイント奪取でカイル様の勝利!!」


セバスチャンさんが腕を上げて訓練終了を告げた。


「ええっ!!何なのよあれっ!セバスチャンっ、意味わかんないっ!!」


セーフゾーンから飛び出して来たプルムは誤審に抗議する選手みたいにセバスチャンに詰め寄る。


「外周の魔法防壁で反射した跳躍弾がヒットしたのですよ。有効打によりカイル様の勝利です」


「へっ??」


予想外の事にぽかんと口を開けるプルム。


つまり煙幕で視界を遮った隙に、真後ろの魔法防壁に垂直に跳躍弾を当て、戻ってくる弾がリスタの背後を捉えるようにリンネが回り込んだのだ。

位置関係のタイミングを計り、壁に垂直に当たるよう撃たせるだけならどうにかなるしな。


「そんな!コートの魔法防壁使うなんて反則よ!無効だわ!無効!」


「いえ、戦闘エリアの魔法防壁を利用してはならない、というルールはありません。よって有効です」


ピシャリとセバスチャンに言い返され、反論できないプルムはがっくりと肩を落とす。


「そ、そんな・・・、私のクリスタが負けるなんて・・・」


それを見て俺とリンネはハイタッチ。

今回勝てたのは俺の意図を感じ取って動いてくれたリンネのおかげだな。


「いいですか皆さん。戦いに勝つには、召喚獣や己の能力、スキルだけに頼らず、冷静に周りを見て戦場にある物全てを利用する狡猾さと、時には自らの召喚獣の肉を切らせてでも勝つ非情さも必要なのですよ」


若い頃は戦闘士として名を馳せたというセバスチャンさんはそう言って締めくくった。


その後続けて何度か模擬戦闘訓練を行うも、3つしかないスキルも読まれ、アイテムを使い果たした俺とリンネは善戦するも結果的にはプルムとクリスタに負けてしまった。

スキルや魔法の習得、装備も含めてリンネの育成はまだまだって事なんだろうな。


「あんた達、これじゃあ未開拓領域に出たらあっと言う間に魔獣の餌よ!」


と、呆れ顔のプルムに言われるまでもない。


この大陸には各国が領有を宣言して、軍が警備、開発を行っている区域の外に広大な『未開拓領域』が存在していた。

未開拓領域には数多くのまだ見ぬ遺跡や迷宮があり、貴重な遺物やお宝が隠されているが、そこには強力な魔獣が徘徊して人間の侵入を拒んでいる。

ときどき軍や冒険企業が遺跡探索や未開拓領域開発の依頼を出しているが、難易度が高く、手練れの戦闘士や召喚術師のパーティでも開発は進んでいないらしい。


「よーし、戦う訓練もいっぱいしたし、明日は『みかいたくろーいき』行こうよ!カイルっ!」


と、自信満々にはしゃぐリンネに、『まずは常識的な感覚を身に付けさせよう』と思う俺であった―――


これまでの召喚獣の成長値


腕力 40 器用 49 俊敏 43 魅力 45 魔力 19 知力 58 社会性 50


これまでに通報された回数 6 回

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