第10話 装備を買う

今日もリンネを連れ『エルフェリア召喚術演習センター』にて戦闘訓練に精を出す。

しかし複数戦闘や機動戦闘などの高度な訓練はやらずに、武器の習熟訓練だけ受けさせてる。

というのも、『あまり目立たない』ようにする為だった。


先日の大学での精密検査の後、クラリス教官から連絡があった。


「研究室で言ったように、軍部や騎士団研究所はリンネちゃんの事は、珍しい新種程度にしか見てないわ。だから彼女が秘めてる潜在能力には気付いていない。エルフ族自体、知られていないのも幸運だったわね。彼等は現用召喚獣の研究者だから、おとぎ話みたいな文献なんて見ないもの。注目してないから単純なライブラリデータだけ取って帰った。でも彼女はもっと強く、賢く成長するわ。そしたら特に軍部は放って置かないわね。エルフ族の能力なら他国への潜入、破壊工作、要人暗殺も容易いし、捕まっても国民じゃないから使い捨てにできる」


人間と変わらぬ外見に人間より高い身体能力や戦闘能力、知能をもつ召喚獣が見つかったら、きっとクラリス教官の予想する通りになるだろう。


「リンネちゃんは確実に研究所でモルモットにされるだろうし、精紋解析で更に多くのエルフ族が召喚され国家間の醜い争いに利用されるわ。もちろん召喚獣取扱基本法で保証された新種の召喚使役権、精紋所有権はカイル君にあるから、軍部はそれ相応の対価を用意してくれるでしょう。騎士団入りも叶うし、その後の地位も約束される。たった一匹の召喚獣を売り渡すだけよ?」


たった一匹の召喚獣?売り渡す?

そんな考え自体に心底ムカついた。


「リンネをそんなふうに言わないでくださいっ!リンネは大切な、家族です。何があっても絶対に守ります・・・」


少しの沈黙の後、ふっと息をつき、クラリス教官の声色がくだけたものに変わる。


「どうやらカイル君なら大丈夫そうね・・・。あのライブラリデータには『成長限界到達済み』って注釈付けておいたわ。つまりこれ以上の能力向上はありませんって事。実際、今の知能、戦闘力共にラビ族やゴブリン族程度かしら。だから現段階では注目される心配はないと思う。でもね、彼女の能力が目立つような事はしてはだめ。この前みたいに応用戦闘訓練で新記録を出すなんてもってのほかよ!演習センターでは基本訓練のみ。いい?!」


どうやらリンネの事をうまく誤魔化してくれたらしいが、クラリス教官の真意がよく解らない。

召喚獣の研究者でもあるクラリス教官は最初からリンネに興味をもって調べたがってたはずだ。


「あの、教官も一応召喚術研究者ですよね。それもかなり熱心な。研究者って成果を学会などで発表して世間から評価されたいものでしょう?」


演習センターのデータを見れたり、召喚術研究所との繋がりや大学での待遇を考えると、ただの研究者とは思えない。


「あはは、一応かぁ~!まあこれでも一応、マクダール賞を取ってるんだけどね~、私!」


「ええ?!マクダール賞ってあの有名なマクダール賞ですか?!マジで?!」


マクダール賞って言えば魔術分野で世界的に顕著な功績を残した人に送られる賞だ。ニュースや新聞でしか見ない受賞者が四年も身近に居たなんて・・・。


「それに騎士団召喚術研究所にも居たことがあるから、いろいろと繋がりもあるのよ。しがらみの方が多いけど!」


そう言ってクラリス教官は自嘲気味に笑う。


「私は確かに研究者だけど、それは趣味の延長なの。ハッキリ言うと、私は召喚獣ヲタクよ!珍しい召喚獣や神秘的な召喚獣、特に可愛い召喚獣が大好き!研究目的はただの探求心だから、学者としての名声や実績なんてどーでもいいわ!」


鼻息が聞こえそうな程に自信に溢れる宣言は、カッコ良くさえある。


「逆に、研究者の地位や名声の為に大好きな召喚獣が不幸な目に遭うのは絶対に嫌。私が今までいろいろ冷たい事を言ったのは、そういう現実があるって事を知って貰いたかったの。それとカイル君の覚悟も知りたかったしね」


俺の覚悟、か。

確かに、自分の家族としてリンネを守りたいという強い気持ちはクラリス教官が奮い立たせてくれたと言ってもいい。


「あなたがもし富や地位を選んだなら、どんな手を使ってでもリンネちゃんは私が保護してたわね。あんなに能力に溢れ、清純で美しい子を人の黒い欲望のために利用させる訳にはいかないわ!」


「まあ、召喚主の俺が言うのもなんですが、確かにリンネは頭は良いし、素直で、聞き分けも良いし、何と言っても可愛いですからね~」


『何だかんだ言ってもうちの子が一番!』、はい、親バカです。もう自覚してますから隠し立て致しませんよ。

子供どころか未だに童貞ですが・・・。


「そうよね~。・・・ああ、白磁のようなすべらかな肌、(ペラ)天空から降り注ぐ光の如く美しい髪、(ペラ)大きく澄んだ瞳、(ペラ)美の神を模ったようなプロポーション、(ペラ)そして形、大きさ共に黄金率と言うべき美乳の先には桜のつぼみを思わせる、つんと背伸びをした可愛い乳く・・・」


ん?表現が随分具体的だ。それに受話器越しに何かをめくる音・・・、


「って、ちょっと待ったあぁぁっ!!あの、教官!今日の検査では確か、検査着を着せてましたよね?なんでそんなに詳しくリンネの身体の事知ってるんですか?」


「え?あっ・・・」


「・・・脱がせたんですか?そして撮ったんですね?」


「も、もちろん全員の前で脱がせたりしてないわよ!別室で私だけしか見てないから!これは身体測定だったし、撮影したのだって学術目的の記録の為でっ・・・。そのぉ・・・」


だんだんと教官の言葉の勢いが尻すぼみになってゆく。


「で、その写真を自分用にコピーして眺めている、と・・・」


「ううう・・・、だってリンネちゃんが可愛いのが悪いのよ!可愛いは罪なのよ!あの時、ポケットに詰め込んでこのまま連れ去りたいってどれだけ考えたか、召喚主のあなたには分からないでしょ!あんなに可愛いリンネちゃんを独り占めして、毎日一緒にお風呂に入ってるって・・・、ふざけんじゃないわよっ!!」


狼狽えてたと思ったら、今度は逆ギレされた。


その後どうにかクラリス教官をなだめ、教官個人の研究や健康管理、それと個人的な嗜好のために定期的にリンネと会える、という条件で教官の協力を取り付けることが出来た。


これからはなるべく世間から、特に軍や召喚術研究所から目立たないように活動しなければならない俺たちにとって、クラリス教官が仲間になってくれたことはデカい。


クラリス教官の意見に従い、とりあえず俺の召喚獣戦闘の講義や武器の習熟訓練までは演習センターで行う。

練習用とはいえ、他にクロスボウをパカパカ撃つ場所なんて無いからな。

しかしそれ以上の応用戦闘訓練や模擬召喚獣戦を演習センターで行うのはリンネの能力が『目立ちすぎる』とのことだ。

応用訓練や模擬戦は記録が残り、クラリス教官が知り得たように研究所や軍にもデータが行くらしい。


最後の召喚術戦闘の講義を終えてトレーニングルームに向かうと、みっちりとクロスボウの習熟訓練を終えたリンネもちょうど戻って来る。


「かいる、今日もいっぱい練習した!も~かんぺきっ!」


汗を拭きながら、リンネは自信に満ちた様子でピースサイン。


「でも、おんなじ練習ばかり。もう、飽きたぁ~」


そりゃあ朝から晩まで動かない標的ばかり撃ってれば、飽きるよな。

リンネを見てくれたトレーナーの話でも、そろそろ模擬訓練に移ってもいいとの事だったが、先の理由でこれ以上演習センターを利用することは出来ない。


フリーランスの召喚術師として、ランクの低い害獣駆除程度の依頼ならぶっつけ本番でやれなくもないが、出来れば一度くらいは模擬戦闘を経験させておきたいところだ。

それも全く当てがない訳ではないが・・・。


模擬戦闘をさせるにしても簡単な依頼を受けるにしても、戦うための装備が無ければ始まらない。


「リンネもそろそろ自分の武器、欲しいか?」


「うん!欲しい、欲しい!買ってくれるの?!」


まるでおもちゃを買ってもらう子供みたいに目をキラキラさせて身を乗り出してくる。


「ああ、いっぱい練習頑張って上手くなったから、武器と防具買ってやるぞ!それで今度は悪い魔物をいっぱい倒そうな!」


俺たちの生活のためにな・・・。


「やったぁ!いっぱい倒す!りんねがんばる!」


ということで、エルフェリア中心街にリンネと俺の装備を買いに行くことにした。


軍事区域から電車に乗ってこの前プルムと買い物に来たエルフェリア中央駅に向かう。

そういえばこの前の待ち合わせの時、プルムの様子が変だったよな・・・。

最初は妙にしおらしかったのに、いきなりキレて殴りかかってきて、何だったんだろう。

ぼんやりそんな事を考えながら、電車の壁に貼ってある広告を眺める。


『戦闘士・召喚術師、就職・転職実績ナンバー1!王立騎士団、大手冒険企業、各ギルドへの就職実績多数!中位クラス以上、実戦経験者優遇!無料相談会開催 イオ人材カンパニー』


この冒険企業とは武器を振るって戦う戦闘士や召喚術師を雇い、工房ギルドや住民、時には軍や王族から出される依頼を請け負う会社だ。

『冒険』と銘打っているが、未開地や遺跡探索依頼なんて滅多になく、工事の手伝い、害獣駆除、街道警備、交易隊の警護などの雑用がほとんどだ。

そしてここでも優遇されるのは召喚獣のランクと実戦経験。

召喚術師資格と召喚獣を持ってるだけでは就職も難しいのが現実だ。世知辛いねぇ・・・。


『社員募集!召喚術師(召喚獣クラス、種族不問)住所、身元保証、召喚獣戦力証明、実戦経験、一切必要なし。住み込み可!食事付!上限無し歩合制給与! ピンクペンギン冒険社』


うわ、怪しい・・・。

条件もそうだけど、何よりこの会社のネーミング。

エッチなビデオを作ってそうだ。でもそろそろ就職先も探さなきゃならないしなぁ。

俺とリンネの装備を揃えたら貯金はほとんど無くなってしまう。


例え俺に実戦経験は無くても、リンネは極超高位級の召喚獣だし戦闘力も高い。

大手冒険企業でも採用されるだろうが、採用試験には召喚獣の登録情報に戦力分析などの公的証明情報が必要になるし、企業での召喚獣使用状況は逐一監督官庁に送られる。


それはマズイ。何と言っても俺達は『目立てない』のだ。

言うなれば、世間からひっそり身を隠して目立たぬように生きる指名手配犯と同じ。

そう考えると、多少給料は安くても少々怪しい会社で働く方が安全と言える。


・・・ピンクペンギン冒険社か。住所は中央駅前みたいだし、今日は怖いから軽く雰囲気だけ見てこよう。


エルフェリア中央駅に着いて駅を出ると、相変わらず駅前は人でごった返している。

ここはエルフェリア王国一番の繁華街だから仕方ないけど、今日は前回来たときよりも混んでいる気がする。

確か今日は現国王の生誕祭で祝日だったはずだ。

わざわざ混む日に来なければよかった。学校に行かなくなると、日にちの感覚が失せてくるよな。


仕方なく人混みをかき分けながら、いつものように縛術チェーンが目立たないようにリンネと手を繋いで商業区の裏通りにあるミリタリーショップを目指す。

華やかに飾り付けられた大通りに軒を連ねる店舗では、生誕祭を祝う様々な催しが行われていた。


「ああー、かわいいぬいぐるみ!白いくまさん!」


「はいはい、そうだね!あっち行こうね」


立ち止まろうとするリンネの手を引っ張る。一度店に入ってしまうと、子供特有の人目をはばからない怒涛のおねだりで買わされる羽目になるのだ。

『無駄遣いする余裕なんて我が家にはないのよ!我慢しなさい!』という節約主婦の気持ちがよく解る。

童貞だけどねん!


「ああっ!見て!すっごいおっきなキャンディー!買ってぇ~」


「あの大きなキャンディーはおばけキャンディーって言う魔物なんだよ~!お腹と財布が痛い痛いだよ!」


バカでかいキャンディーを掴もうとするリンネを引っ張る。


「うわぁ!あれ、あれ!魔王少女サタリンだぁ~!サタリ~ン!」


欠かさず見ている魔法少女アニメの着ぐるみを見つけたリンネが凄い力で手を引っ張る。まるで散歩中に落ちてた食べ物を見つけた犬だ。


「うおぉぉ!こ、こら・・・、リンネ!いいから行くよ!ほら・・・」


「サタリ~ン!あっ!バラモンちゃんも居るぅぅ!わあぁぁ~~い!」


大興奮のリンネの耳に俺の声は届くはずもなく、手を振りほどいて駆け出すのを縛術チェーンでどうにか繋ぎとめる。


『召喚獣、付いててよかった縛術チェーン』(政府広報)


くそ、なんて力だ!すぐ脇の路地に入れば目的の店だというのに・・・。


「いいから!・・・後でプリン買ってあげるから、おいでって!!」


「やだやだっ!サタリンの方がいい~!」


綱引きみたいにチェーンを手繰り寄せ、リンネの腕を取って無理矢理路地に引っ張ってゆく。


(ちょっとアレ!ヤバいんじゃない?!変な男が女の子を縛って無理矢理路地裏に!)


(ロリコン誘拐犯よ!あんなに嫌がってるのにプリン買ってあげるかとか、気持ち悪い!)


通報された。


生誕祭の警戒警備とやらで警官が多く配置されてたらしく、あっと言う間に取り囲まれて取り押さえられた。

誤解が解けるまで地面に組み伏せられたままの腕が痛い。

・・・全く、ひどい目にあったぜ。


一波乱を終えてようやくミリタリーショップにたどり着く。

この場所は大通りから路地に入った裏通りにあるためか、客の姿はまばらだった。そもそも武器や防具を買いに来るなんて俺達みたいな戦闘職の人しか居ないだろうが・・・。


店は奥の方までそこそこの広さがあるようだが、びっしりと装備品が置かれた棚が並び、少々狭苦しい印象だ。

壁には様々な防具が所狭しとハンガーに吊るされている。

肝心の武器はというと、店の一番奥に並んだショーケースに陳列されているようだ。

何にしてもまずは武器だな、ってことで遠距離武器のショーケースを覗き込む。


キンバー社 レアメタルファイバーボウKB88 ハイパワー仕様 280000ギル


ベガ社 テクニカル・ハイクロスボウBG921 ロングレンジ仕様 350000ギル


シュッツガルド社 ベテランクラス・デスポンドボウX2000 フルカスタム仕様 490000ギル


かあぁぁぁ~~!高っけぇぇぇ!!

さすが世界の武器メーカーのシュッツガルド、良い値段するな、おい!こんなの買ったら明日から水しか飲めねえよ。


「おお~~!かっこいい!かいるぅ~これが良いんじゃないの?」


とリンネはわざわざ一番高いのを指さしてくる。

金銭感覚が無くても一番いいのが分かるなんて、いい目利きですね・・・。

まるでトランペットを見つめる少年みたいに、ショーケースにへばり付いてる俺達を見つけた店の主人が話しかけてきた。


「あんた達、戦闘士かい?得物はクロスボウか?」


リンネは見た目が人間だし、二人とも普通の戦闘士に見えたのだろう。

リンネの事で目立ちたくないのでそういう事にしておく。


「ええ、そんなところです・・・。でも、武器ってこんなに高いんですね!」


「やっぱりあんたら駆け出しかい!最初からこんな得物を持っても使いこなせねえよ。こっちに初心者向けのお手頃の奴があるぜ」


そういってショーケースコーナーの脇に案内されると、沢山のクロスボウが乱雑に並べられていた。

この安っぽい感じ、確かにお手頃ぽい!


「これなんか、少しモデルは古いが癖がなくて扱いやすいぜ。飛距離重視ならこいつだ!・・・まあじっくり見て、自分の戦闘スタイルに合ったのを選びな。アタッチメントパーツでカスタムも出来るから希望を言ってみな」


カスタムも出来るなら、本体を安く抑えてパーツで補えば、かなり性能が良いものが買えるかもしれない。


「リンネはどんなクロスボウが欲しい?強いのと、遠くまで真っすぐ飛ぶのと、素早く撃てるのでは?」


「う~んとね、全部!強くて、とおくまでとんで、いっぱい撃てるやつ!」


言うと思ったよ。そんなん誰だって欲しいわ!


「あはは!そうだよなお嬢ちゃん!だけどな、強くするってことはレバーが重くなるし、真っすぐ遠くまで飛ばそうと思うとバレルが長く重くなっちまう。逆に早く沢山撃つにはレバーが軽くないといけねえから、全部は難しいな~」


確かに店主のいう通りなんだけど、それは普通の人間の力での話だ。

弓やクロスボウを使うドワーフ族やゴブリン族は人の力では引けない弓を使っている。まあその分、当たったらラッキーくらいの命中率だし、動きも遅いという欠点がある。

しかし、リンネなら力もスピードも射撃センスもある。結構、イケるんじゃねえか?


「あの、試しに一番パワーの出るパーツと、一番飛距離が出るバレルに、装填数を最大にしたカスタマイズをしてもらえますか?それも一番丈夫な素材の本体で!」


「はぁ?それじゃあ重すぎるわ、レバーは硬いわ、バランスは悪いわで使い物にならねえぜ?!」


「いやぁ、いいんですよ。どんな物になるのか、こいつに納得させてやれば選びやすいでしょうし!」


「あんたも酔狂な事考えるね~。ま、実際そんな無茶なカスタマイズは俺もやったことねえから面白れえけど、パーツ代とカスタム代が無駄になっちまうぜ!いいのかい?」


うう、もし本当に使い物にならなかったらどうしよう・・・。

俺の装備は買えなくなるよな。

そうなったら「鍋のふた」と「ヒノキの棒」を探してこよう。


「あはは・・・。お金に糸目はつけませんから、どーんとやっちゃってください!」


1度は言ってみたかったこの台詞!

ま、こうなりゃ腹をくくるしかない。

メイン火力であるリンネが強くなればあとはどうにかなるし。


俺の注文に従って、一番太くて重いクロスボウの本体に惜しげもなく最強のパーツが次々と装着されてゆく。

またも包装紙が破られたあのパーツは32000ギル・・・。

さっきの包装紙には44000ギルって書いてあったし、こっちは24500ギル・・・。


やがて完成したのは金棒みたいな無骨なクロスボウ。


「こりゃあ構えるだけでも重いし、レバーは両手で引かなきゃならねえ。撃てたとしても当たりっこねえぞ?ま、奥に試射場があるから撃ってみれば分かるよ。こっち来な」


店主も自分で作っておきながらこのクロスボウにはあきれ顔だった。

受け取ったクロスボウは確かにダンベルみたいな重さだけど、リンネの能力なら大丈夫!

・・・だと思う。


「リンネ、お前の言う通りに出来たぞ!撃ってみるか?」


「うん!撃ってみる!」


俺が両手で渡したクロスボウをリンネは嬉しそうに片手でひょいと掴むと、店主の後に付いて試射場に向かった。

店の奥まった場所にある試射場は細長い通路に台が置かれ、15mほど先に円形の標的が置かれているだけの簡素な造り。


「よし、ここから的に向けて撃ってみな?気いつけろよ?」


重くて変な所に撃つんじゃないかと警戒した店主はそっと距離を取っている。

だがリンネは演習センターでの射撃訓練と同じように平然と構えると、


シュタン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!


と、最大装填数にカスタマイズされた7連射を撃ち切った。

的が弱かったのか、威力が強すぎたのかは不明だが、鉄矢は標的を貫通して壁の向こうに抜けていた。

それをポカンと口を開けて呆然と見ている店主に俺はそっと声をかけた。


「お会計、お願いします~」


俺はとりあえずクロスボウの代金を支払うと、残ったお金で自分の武器と二人分の防具を購入した。

ちなみに俺の武器は中古の魔杖。多少使い込まれているけど、物はそこそこいいものが買えた。

防具は、被弾率が少ない俺は一番安いフロッグレザー製のチュニック。

メイン火力だけにヘイトを取りやすいリンネには少し奮発して帷子付ライトメイル。

もっと可愛いのがいい!なんて言っていたが、貧乏人は見た目より機能性だ。

俺の装備なんてリンネの装備代の五分の一なんだぞ!


だけど俺の生命力回復魔法じゃあ心もとないし、何よりリンネは大切な家族でもあるからな。

自分のことよりも子供にはいい服を着せて着飾ってあげたい・・・、って思う母親の気持ちが解ったよ。

童貞だけどさ!


装備も揃えたし、次はいよいよ本格的な戦・・・、いや就職活動をしないと。

今の時代は強いだけじゃ食ってけないからな。

リンネの事情を考えると、あまり贅沢なことは言ってられないし、とりあえず電車の広告に出てた怪しい会社を偵察してこよう・・・。


これまでの召喚獣の成長値


腕力 30 器用 42 俊敏 34 魅力 42 魔力 17 知力 54 社会性 47


これまでに通報された回数 5 回

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