5.晴天の…… 『少女が手に入れた、最高の結果』

夕刻、閉会式が行われた。

表彰式などは無い。そもそも訓練生の日々の成果を発表するイベントなわけで、一応勝敗は決めるものの優劣を決める事を目的とはしていないからである。

イースフォウは、ちらりと整列した参加者の自分の隣に視線を移す。

そこには、先ほど激戦を繰り広げた赤毛の少女がいる筈であった。

しかし、実際彼女は居ない。イースフォウがいなかった開会式の時とはまるで正反対である。

イースフォウは、試合が終わった直後のこと思い出す。

『最終的にスカイラインはイースフォウの体術によって身体の自由を奪われた為、それは戦闘行為続行不可とみなす。よって、この戦いはイースフォウの勝利』というのが、この大会の、模擬戦闘の評価であった。

もちろん、スカイラインは納得をしなかった。最後の最後まで、抗議し、食い下がり、再戦を申し込んでいた。

しかし、大会側は、その要請を却下。その判定になんの問題も無いと答えた。

そのあとのスカイラインを、イースフォウは知らない。

怒り狂っていたのか、泣きそうだったのか、その表情は良く見えなかったが、スカイラインはその場からタッと立ち去ってしまったのだ。

イースフォウは訓練場の入場門へ走り去っていくスカイラインを、声をかけることなく見ていた。そうやって走り去っていた赤毛の少女が、今まで自分を苦しめていた存在とはイースフォウには思えなかった。

いや、そもそもイースフォウとしては、あのとんでもなく強い赤毛の少女に、本当に勝てたのかということが……。いや、それどころか今まで戦っていたことも、実感がわかなかった。

そのままふらふらと、ベンチに戻る。

まずはハノンだった。イースフォウに飛びついてきた。

次に森野。イースフォウの頭にボンと手のひらを置いてワシャワシャと撫で回す。

最後に、エリス。笑いながら、おめでとう、良い戦いでした、と言ってくれた。

その後ろには、イースフォウが世話になったクルスとエミリアが笑いながらおめでとうと言ってくれる。

その時になって、初めてイースフォウは自分が戦いに勝ったことを自覚したのだ。

お疲れ様フォウ。お前にしては上出来だフォウ。

共に戦った二つの石の声に、イースフォウは、やっと答えを口にすることができた。

――私、勝ったよ――

「私、勝ったよ」

夕日の閉会式で、先ほど皆に伝えた言葉を、呟く。

今はもう実感はある。あの強敵に勝ったのだ。それは、いままでイースフォウが超えてきたものの中で、一番困難なものだった。

だがイースフォウはここに来て、最後に迷い悩かける。

(自分は、この勝利から、何か得ることが出来るのだろうか……?)

しかし、イースフォウは首を横に振る。

大丈夫だ、もう迷わない。イースフォウは迷わない。

勝てたのだ。これからも、戦い続けよう。迷ってもいい、悩んでもいい。でも、前に進もう。今日の勝利も、これから越えていく壁も、全てはそれを越えてから考えれば良い。自分には力があるのだ。そう心に言い聞かせる。

広く限りない世界だって、突き進んでいけるのだ。

そして、先に進めばそれだけ、彼女が選べる道は増えるのだから……。

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