第9話 真相 

 朝起きると、携帯に倉田先生から九十九屋に集合と連絡が入った。

 今回は花を連れてくるな、とも。


 俺が行くと、倉田先生と間宮が店の前に立っていた。 

 小走りで近づき挨拶もそこそこに倉田先生を先頭に歩き出した。

「どこ行くんですか?」

「ん? 少女誘拐殺人事件の犯人の家」

「え、この近くなんですか?」

「ちょっと歩くけどね」

「よくわかりましたね」

「最近は怖いよね。ネットですぐ情報が拡散される。しかも速い速い」

『悪いことはできんわなぁ』

 くわばらくわばら、と骸が続ける。


 三十分も歩くと、街並みも知らないものになってくる。

 ある角を曲がると、俺は一瞬足を止めた。立派な塀一面に「人殺し」「ロリコン」「変態」とスプレーで書いたような文字がデカデカと書かれている。


「これ……」

「ありゃりゃ。これ、話聞いてくれると思う?」

「無理かもな」

『ま、そん時にゃ夜に出直してこ~っそり入っちまえば』

「ダメでしょう、そんなことしちゃ」


「まぁまぁ。とりあえずピンポンだけでもしてみようか」

 倉田先生はそういうと、門の前に移動した。それを俺たちが追う。先生がインターホンに手を伸ばして、ピンポーンという音が中から聞こえてきた。

 二回目を鳴らしても、出る気配はない。

「出ないね。もういないのかな?」

「骸、ちょっと中見て来い」

『あいよ』


 カランと下駄の音一つさせて風が舞い上がった。骸が塀を乗り越えてんだろう。

 数分後、帰ってきた骸が門を開けて俺たちを招き入れる。

『中に人はいねぇよ。まぁ、住めたもんじゃないけどな』


 障子やガラス窓がほとんど割られている。石でも投げられたんだろう。これじゃおちおち寝てもいられない。

 間宮は入るなりキョロキョロと辺りを見回す。かと思うと、蔵に向かった。

「間宮!」


 倉はそれなりに大きく、鉄製のドアが威圧感を出している。鈴音は観音開きの片方に手を当てる。

「中が見たい」

『あいよ。二人も手伝ってくんな』

「ああ。倉田先生も、お願いします」

「しょうがないな~」


 それぞれ両側の取っ手を持ち、「せーの」で引っ張る。

 ある程度開いたところで、骸が間に入って押し開いた。


 蔵の中は暗く、入り口からの光だけでは奥まではわからない。

 すると上の窓が開いた。骸が明り取りとして開けたんだろう。

「で、何を探せばいいの?」

「床に隠し通路の扉がある。それを」


 蔵を四等分して、それぞれが膝をついて目を凝らし、箱をどかしてはまた見る。

 しかし俺が半分ほど見終わったころ、骸が声を上げた。

『あったぞ』

 俺と間宮は同時に目を向ける。

 俺たちが近付くと先生も気づいたのか、ズボンを払って立ち上がった。 


 間宮の隣に立つと、ある一角だけ木目が違うことに気が付いた。

 端に一か所、取っ手と思われる輪が付いている。

 三人が並ぶと、骸が隠し通路の扉を開けた。確かにそこには、地下へ続く階段がある。

「葉蔵、ライト」

「はいはい」

 先生はショルダーバックから懐中電灯を出し、間宮に渡す。

 カチリと電源を入れると、前方に向けながらゆっくりと歩きだした。


 階段は意外とすぐに終わった。一番下の段に着くと、場が拓ける感じがする。

 間宮が手を上げると、裸電球が点いて狭い部屋を照らしだした。


 机と簡単な本棚しかなく、ファイルが並べてある。

「なんの部屋なんだろう?」

 後ろで先生が呟く。

 間宮は机の上を調べ始めた。

 俺は本棚に近づき、一番端のファイルを手に取る。百均で売っているような紙のファイルだ。パラリと一枚めくると、カラーの写真が目に入った。


 小学校低学年の、可愛らしい女の子の写真。おそらく殺された女の子だろう。

 読み進めると、詳しいプロフィールや観察日記が記されている。

 俺は最初の数ページで見る気を失い、ファイルを戻した。それを先生が取り出す。


「かなり細かく書いてあるね。犯人は几帳面だったのかな?」

「それか、執念か」

 そう言いながら、間宮は壁を叩きながら部屋を回っていた。


「何してるんだ?」

「ここで花の持ち物と思われるものが見つかったらしい。だから遺体を隠すならここだと思ったんだが……。はずれたか?」

『ちょいと、壁ん中にでも潜ってみるかい?』

「そうだな」


「ねぇ、鈴音。ちょっとこれ見て」

 振り返ると、先生はファイルを机に移動させていた。俺たちは訳が分からず、じっとそれを見ている。

 全部移動させると、先生は手招きをした。近づいてみると、棚の奥に取っ手のようなものが見える。


「これ、隠すように棚を置いたみたいじゃない?」

「動かしてみよう」

 二人がかりで棚を押した。すると俺の胴体くらいの扉が現れる。

「骸」


 それだけ言うと、扉が開かれる。中には長い木の箱が入っていた。

 それを取り出し、俺たちの前に置く。これはまるで……。

「棺桶?」

 誰も答える者はいない。


『開けるぜ』

 釘が打ってあるのだろう。バキリという音がして、蓋が開いた。

 俺たちは中を覗く。

 そこには、白骨化した死体が両手を組んだ状態で横たわっていた。服の様子から女の子だろう。花柄のプリントが微かに残っている。

「これが、花?」

「可能性は高い。正確にはヒナタだそうだ」

「あれ、なにかな? ほら、手に持ってるの」

「手紙?」


 手を伸ばし間宮がするりと取り上げる。

 それは白い封筒だった。中を開けると、白い便せんが現れる。

 神経質そうな文字がしたためられていた。


『私はとんでもない過ちを犯しました。

 事故とはいえ自分の最愛の人を殺してしまいました。

 ですから、罪を償うためにちっぽけな私の命ですが捧げたいと思います。

 思えば私は異常なのかもしれません。気が付けば幼い少女にばかり焦がれてしまいます。それはきっと前世の行いが悪かったのでしょう。

 どうか来世ではまともでありますように』

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