第四話「ヒスパニョーラ号、宅配業務始めました」

「「宝島 ~僕と二人の少女の空駆ける青春~」


原案:ロバート・ルイス・スティーブンソン

作:金谷拓海



第四話「ヒスパニョーラ号、宅配業務始めました」


ヒスパニョーラ号は補給のため、フランス・アルル港に停泊した。

そこはフランスの中でも南に位置し、温暖で景色のよい場所だった。


補給の合間を縫って、ブリジットと執事のレッドルースは港内をうろうろしている。そこで奇妙な一団を見つけた。


かっぷくのいいモジャモジャ髭のおじさん、それに小さな子が5人、陰気な青年1人の7人組だ。


おじさんは、大きな荷物をパリに運んで欲しいと船乗りたちに話しかけていたがことごとく断られていた。

おじさんの額は徐々に汗まみれになり、背中や脇まで汗が染みてきた。

「困ったのぅ」


そのおじさんは、ブリジットの父親と外見がよく似ていた。

それに元々、やっかいごとにも手を出したがる性格もあったのだろう。

つい、ブリジットはおじさんに話しかけていた。

「どうしたの?」

「この絵をな、明日の正午までにパリに運んで欲しいのじゃ。明日、展覧会があるのじゃ。それにどうしても間に合わせなければならない」

よく見るとおじさんの服は継ぎはぎだらけだった。それは子供たちも同じだった。

明らかに貧乏絵描きだ。絵は木製のケースに収められている。大作で、縦2メートル、横1メートル50センチもあった。

おじさんの子供のような目を見ていたブリジットはこう言った。

「いいわよ、あたしの船で運んであげる。お金もいらないわ」

びっくりするおじさん。

「わーい、おねえさん、ありがとー」

「ありがとー」

子供たちが最初に喜んだ。

「ホントかのぉ、大助かりじゃ、ほんにありがとう」

「この絵はわしの魂なのじゃ。これが売れないとわしは絵を描く絵具ももう買えん。もちろん、この子のパンもじゃ」

子供たちは誰一人、おじさんと似ていなかった。

「この子は、おじさんの子供なの?」

「いや、わしの恩人の子じゃ。うちで預かっておる」

それ以上、ブリジットは聞かなかった。

たぶん、大変なことになっているのだろう。恩人の子を5人預かって、絵具を買うお金も底をついている。

良家の子女のブリジットはこういう話に弱い。

「それで、パリのどこに持っていけばいいの?」

「フィン、出ておいで、フィン!」

その声につられて、おじさんの後ろから小柄でオドオドした青年が進み出た。

「こいつは、フィンと言ってな、画商じゃ。グーピル商会という画商会社の社員じゃ」

「ほれ、フィン、挨拶しなさい」

「どうも」男はそれだけ言うと、また、下を向いてしまった。

「フィンは明日、解雇が決まっていてな、最後の仕事になるのじゃが、どうにもこうにも落ち込んでしまっていて」

「ほれ、フィン、元気出さないか!」

「世の中、いいことも悪いこともあるんじゃからな」

そう言ってもその青年・フィンは何も語らなかった。

「まあ、よい。御嬢さんや、とにかくも、このフィンが展示会の場所を知っている。フィンが同乗するが、いいかな?」

「もちろんです。おじさん、さっそくうちのモノを呼んで荷物を積み込みますね」

「絵画1点とその責任者・フィンさん1名を乗せればいいんですね」

「助かるよ」

おじさんの笑顔は素敵だった。なんだろう、人柄がにじみ出ている感じだった。

「おじさん、名前を教えてください」

「わしの名か? クロード・モネという貧乏絵描きじゃ」

「モネさん、知らない名前ね。でも、おぼえました」

「あたし・ブリジット・トリローニにお任せください」

そう言って手を前に出すブリ。

「ありがとな」

そう言ってモネはブリの手を握った。その手は大きくゴツゴツしていたが、不思議と温かみがあった。


それからが大変だった。

ヒスパニョーラ号船橋でスモレット船長と言い合いになった。

もちろん、正論は船長だ。

お金ももらわずにパリまで大急ぎで行っても何も得はない。フランス本土上空なので、海賊に襲われる危険は少ないものの、夜中じゅう飛行しなければならない。

それに気圧がどんどん下がっている。夜、嵐に遭うかもしれないというのだ。

それでも、ブリジットは聞き入れなかった。

「あたしがこの船のオーナーよ。それにもう引き受けちゃったし、荷物もお客さんも乗船しちゃったんだから」

最後は船長が折れた。

「わかりました。でも、こういうことはこれっきりにしてください」

「どうだろう…」

ブリは聞き入れる気はないようだ。


ヒスパニョーラ号は緊急発進をした。

目的地はパリ。19世紀でもそれは変わらない芸術の都だ。


ヨーロッパは偏西風が吹いていて飛行船は常に東に流される。そのため、飛行船はプロペラを使い、西へ西へと飛行しなければならない。

それは石炭と水を大量に消費し、商売的には損になる。


場面は変わって、船倉。

アルルで積み込んだ卵や野菜などの食材が置かれている隅に大きな木製の箱が置かれていた。クロード・モネの絵だ。

そのそばで床に体育座りしているフィン。

ジムがやってくる。

手には夕飯が乗っている。

「こんばんは。フィンさんですよね。僕、ジム。この船のコック見習いです。夕ご飯持ってきました。食べてください」

そういって、トレイを差し出した。

相変わらず、下を向いて反応がないフィン。

そばの机にトレイを置くジム。

「ここに置いておくので食べてください。あとでお盆取りに来ます」

とういうと、ジムはランタンとトレイを置いて退室した。

ドアを閉める前、チラッと青年を見た。

なりはスーツにネクタイとよかった。やせ形で髪型はオールバック。23歳ぐらいだった。ブリから事情は聞いていたのであまり深入りはしなかった。


そして、船橋では…。

「嵐にしては季節外れだ。いまは4月ですぜ。だが、気圧がどんどん下がっている」

航海長のハンスが言う。

確かに頭が痛くなってきている。長年航海しているスモレットも腑に落ちない感じだ。

その時、ジムが船橋に飛び込んできた。

「船長、前を見て。すごい渦が見えるんだ」

「なんですって?」

相変わらずセクシーでスチームパンクな船長服を着ているスモレットが前屈みになった。

胸がこぼれ出そうに揺れた。Gカップの破壊力はすごかった。

それを敢えて見ないように目線を反らして、船長の答えを待った。

「トルネードよ、トルネード」

「え?」

「竜巻よ」

「雲海が出来てから、地球の気象が狂ってきているのよ。いままでヨーロッパではこんな竜巻、できることはなかったのに」

そこからの対応は、さすがに船長だった。

「機関室、推力いっぱい、急いで! ハンス、面舵いっぱい」

「あいあいさーでさぁ」

ヒスパニョーラ号は右に急速旋回した。

まともにぶつかったら船体は真っ二つだ。その強風から脱出しようとする。


「緊急ブザーを鳴らして」

船内にブザーが鳴り響く。

船体が右や左に動き出す。


ジム「船長、大丈夫?」

「あたしを信じなさい」

竜巻との綱引きは続く。巻き込まれたら終わりだ。すべてが高空に巻き上げられ、バラバラにされた船体、人、そして積み荷が地面に叩きつけられる。

見えない綱を両者が引っ張っているようだった。


船長は最善の選択をした。あとは運次第だった。


唐突に勝負は終わった。

船体が大きく揺れ、それが最後の抵抗だった。

急に星空が見えた。竜巻を抜けたのだ。

この時代、不活性ガスの雲海のせいで気象はメチャクチャだった。それ故に船乗りはその対処法をある程度は知っていた。


「ふー、これでもう大丈夫。あとはパリに定刻通りに着けばオッケーね」

そう言った矢先だった。

焦げ臭いにおいが船橋にも漂ってきた。

一難去ってまた一難。


「どこかで火災がおきたんだ」

慌てて、ジムとスモレットは船橋を飛び出した。

それは最下層の船室だった。

急いで火元に向かう。

そこには、すでにケイとゴールド、ブリジットが来ていた。

ゴールド「船長、ここだ」

ドアを開けると中で火災が起きていた。

そんな火災なのに、フィンはさっきと同じ姿勢だった。

ジムが持ってきたランタンが床に割れて散っている。それが火元だった。


フィンが消せばその火事は防げたはず。だが、フィンは何もしなかった。

「フィンさん、なんで何もしなかったんだ」

「そんなことより鎮火だ!」ゴールドが言った。


最下層には水はない。水があるのは機関室と厨房だけだ。だが、水は貴重でできるだけ使いたくない。

室内をよく見ると、まだ天井や壁には火は燃え移っていなかった。主に積み荷の木箱が燃えていた。

「よっしゃ、木箱を外に捨てるんだ」

「ゴールド、どうしよう。この倉庫には窓がない」

そう、船の最下層には窓がないのが通例だ。

「うう、窓さえあれば…」

その時、ケイが発言した。

「窓、あたしが作りましょうか?」

「え? どうやって」

「まかせてもらえますか?」

そう言ったら任せるしかない。

火が燃えている室内にツカツカツカと入り、柄に手を掛ける。

セーラー服に日本刀、それに黒髪の少女。絵になった。

次の瞬間「えいっ」と気合の声を出し、愛刀の虎徹を一閃させる。

船倉の外壁に四角い切れ目が出来た。

それは縦横2メートルの大きな切れ目だった。ケイの居合いだ。

日本にいた時は常日頃、竹や大木を斬っていたケイからすれば、木製の船の外壁を斬るぐらいなんのことでもない。チン。いい音がして、刀身が鞘に再び納められた。

外壁は空中に舞い、風にまかれて落下していった。

外から強風が吹きこで来る。ケイのミニスカートが揺れる。パンツは見えなかったが、太ももの奥まで見える。幼児体型ながらキレイな脚線だった。

次の瞬間、炎の勢いが増した。当たり前だ。外部から大量の酸素が供給され始めたのだから。

「こりゃ、いかん、これからはスピード勝負だ。燃えてるものは全部捨てちまえ」

そういうとゴールドも果敢に室内に入り込み、燃えてる積み荷を蹴り床を滑らせ、窓から外に落とし始めた。

買ったばかりの食材だが、仕方がない。

ジムもゴールドに倣った。

どんどん積み荷が減っていく。

一酸化炭素中毒にはならない。それも幸運の兆しだった。

そして、燃えている積み荷は最後の一個になった。

だが、その最後の燃えている積み荷とは…、



クロード・モネの絵だった。

ブリ「ちょっと、それだけは捨てちゃダメ。あのおじさんの魂なのよ、その絵は」

ジム「だけど、このままじゃ、絵、燃えちゃうよ」

一同、悩んだ。

一、このまま待っていても絵が燃えてしまう。現状、まだ木箱しか燃えていないが、そのうち、内部も燃え出す。

二、とは言え、外に捨てたんでは元も子もない。

三、水をかけて鎮火しようにも、水はない。


メラメラと炎は揺れている。

ケイも動かなかった。ケイの居合いでは、燃えている木箱だけを斬ることはできない。絵も傷つけてしまう可能性が高い。


「どうすりゃいいんだ」ゴールドですら、答えを持っていなかった。

その時、ジムは、倉庫にある食材に気が付いた。リンゴやキャベツ、それに鶏卵が燃えずに残っていた。


≪何か手はあるはずだ。何か…≫

諦めたら終わり。それはいつの時代、どんな状況でも当てはまる。いま、大ピンチの船倉。だが、考えれば逆転の一手があるかもしれない。


ジムは脳みそをフル回転させた。≪火を消す方法。以前、厨房で油が燃えた時、どうした? そうだった、マヨネーズをかけたんだ。それでなぜか火が消えたんだ≫


そこから、ジムは賭けに出た。このまま何もしないのはイヤだったということもある。


船倉に残っていた卵を手に取り、かたっぱしから炎にぶつけた。当たった瞬間、卵は割れ、中から黄身と白身が出てきた。

1個や2個では炎の勢いに陰りはない。

だが、10個、20個とぶつけた時、変化が現れた。

突如、火が消えたのだ。

ゴールド「ジム、すごいな」

ブリジット「えっ、ジム、すごいじゃない」


マヨネーズ消火法は、現実に存在する。マヨネーズの中のたんぱく質が炎の表面に膜を作り、その膜で酸素を遮断して鎮火させる。だったら、同じ成分の玉子でも可能性がある。

そこまではジムはわからなかった。だが、卵には水分も多く含まれ、水の代用になると感じたのだ。

それが逆転の一手だった。


あわてて、木箱を開け、中から絵を取り出す。


絵には一人の女性が描かれていた金髪の美女。その美女が和服を着ている。

「あれ、この服、ケイの着ていた服と似ている」

ケイがボソッと言う「これ、日本の服・振袖です。でも、着方、間違ってます…」

≪いま、そこ突っ込むべき?≫とジムは思ったが、確かにケイが着ていたのと同じ振袖だった。

絵の中の壁には丸くて棒が付いたものや、扇状のものが掛けられている。

「これ、何?」

「それは、団扇と扇子です。暑い時、これであおぐんです」

その絵は西洋人には新鮮だった。

いつのまにかリブシー船医も来ていた。悪い煙を吸った人がいないかとやってきたのだ。

「ほぅ、いい絵ですね」

「そうなんだ。僕の知っている絵って、神様や貴族ばっかり描かれているんだ。だけど、この絵は普通の人が描かれている。それも異国の服で」

18~19世紀に産業革命と市民革命が起きた。それ以前、絵画は寺院と王宮の特権だった。描かれているモチーフも王族や貴族のレリーフや宗教画のみで、市民を描くということは一切なかった。

だが、クロード・モネという人は、市井の女性をごく普通に描いている。あとでわかったんだが、描かれているのはモネの奥さん。お腹の中には初めてのモネの赤ちゃんを宿していた。

貴族や宗教家ではない一般市民の台頭。それが19世紀に起きていた。全然知らない坊さんや王様より、普通の市民の何気ない表情が良い。それをこの絵は教えてくれた。

「ぼく、この絵、好きだよ」

「あたしも」とブリも答えた。

ケイは黙ってうなずいた。

そして、絵を細部までチェックした。大丈夫、どこも燃えていないし、色変も起きていなかった。

「よかったぁ」ブリがホッとしたように答えた。


ここからフィンさん問題に入った。

「どうして、何もしなかったのよ。あなたが消火してくれればこんな大事にはならなかったんですからね」

「燃えてしまうなら、それは運命。私は神に従うまでです」

「ちょっと、あんたねぇ!」ブリが明らかに気分を害している。

「何にもしないで、もし、このまま燃えて、あなたも死んでしまったかもしれないのよ、それでもいいの?」

「はい」

男は独特の考えを持っていた。神学者を目指したこともあるこの男はある意味、運命論者だった。運命には逆らなわない。それを受け入れる。ブリやジムには納得できない考えだった。


その時、また船が大きく揺れた。船に穴が開いたので、船体のバランスが狂っているのだ。


「やはり、一度着陸させないと駄目ね。あたしは船橋に戻るわね」スモレットが走り出した。仮でいいので、布か木材で穴を塞ぐ必要がある。そのためには着陸しなければならない。幸い、ここはフランス。雲海はない。どんどん高度を落とすヒスパニョーラ号。


船体も傾く。積み荷も床を滑り動く。モネの巨大な絵も動き出す。運が悪いことに開いている窓に向かって滑る。

「あっ! 絵が」

窓から絵が滑落した。

が、すんでのところでブリが額縁をつかむ。絵は空中に舞っている。

ここまでがんばったのに、やはりこの絵は落ちてしまう運命なのか!

「あたしはあきらめない。あのおじさんと約束したから」

「絶対、守る!」

たかが絵、されど絵。自身の妻を描いた絵、自身の大好きな日本のグッズや服を描いた絵。そこには間違いなく、モネという人の『想い』が入っている。

「うーーん」力を入れるブリ。

もちろん、ゴールドやジムも絵を回収しようと手を伸ばしているのだが、風に舞った絵はそれをあざ笑うかのように動き、掴むことを拒んでいる。

「あんたも、協力しなさいよ、フィン!」

「運命は切り開くものなのよ」

高度はだいぶ落ちてきている。

あと1分踏ん張れば、地上に着く。そうすれば、絵は大丈夫だ。


「あなたもあの絵、見たんでしょ? 何も感じなかったわけ?」

キッとにらむブリ。

フィンが立ち上がった。

「あなたの『想い』を救う。これも神の教えなのかもしれない」

やっと協力する気になったのか、窓際にやってくる陰気な青年。


その時、ついにブリの握力の限界が訪れた。

「んんん…」

「あっ!」

絵が空中に舞った。

自由落下と風にかませて1枚の絵が落ちだした。

地面に激突し、絵は粉々。

誰もがそう思った。

その時…。

フィンが膝を曲げた。そして、ごく普通のことをするかのように、窓から外に跳躍した。

「えっ!」ブリは悲鳴を上げた。

フィンは、穏やかな表情で落下し、絵画をキャッチした。

そして、自身の腹の前に絵画を抱き寄せた。

そのまま落下していった。このままでは背中から地面に激突して死んでしまう。

そう思った。


ヒスパニョーラ号はその落下地点に急行した。

不思議な男だった。死をも恐れない、そして、独自の宗教観を持ち、画廊会社に働いている男。明日、クビになる男。


ヒスパニョーラ号は着陸した。そこは一面のひまわり畑だった。満開のひまわりが咲き誇っていた。

雲はほとんどなくなって、あたりには綺麗な星空が広がっていた。


あわてて下船した一同はひまわり畑を探す。


「いた! いたよ」見つけたのはジムだった。

ひまわり畑の真ん中で腰をさすっているフィンさんがいた。

「大丈夫」

「これも運命のようです。無傷です」

どうやら、ひまわりがクッションになってショックを和らげたのと、大きな絵がパラシュートのような効果を出し、速度が落ちたことも幸いした。

そして、絵も無事だった。

「絵が無事なのも、運命です」

「いや、違うわ。あなたが身を挺してこの絵を救ったのよ」

「そういうことになるんですかね」

はじめて、男が少し笑った。

「私、神学者になるのが夢だったんです。でも、受験に失敗して、親のコネで画廊会社に入った。でも、そこも業績不振でクビになる」

「絵はね、実は好きなんです。モネさんの担当になったのも、モネさんの描く新しい絵―印象派っていうらしいんですけど―それが好きだったからなんです」

「あー、星空がきれいですね」

「決めました。私、画家になります。モネさんのような信念のある画家になれるかはわかりませんが、画家になろうと思います」

ブリジット「いいんじゃない? やっと希望が持てたようね」

「本来なら、火事で焼け死ぬか、落下死した命です。あともう少し頑張っていこうと思います」

フィンさんは不思議な人だった。

「ああ、このひまわりも綺麗ですね。私の命を作ってくれた花です。もし、将来、私がひまわりの絵を描いたら、みなさんもらってくれますか?」

「もちろん、もらうよ。がんばって!」

「ありがとうございます」

「あなたは日本の人?」

ケイ「はい」

「日本の文化は素晴らしいですね。ひまわりの絵が出来たら日本にも一作贈りたいなぁ」

「あ、はい、ありがとうございます」

「クビだ、クビだと落ち込んでいましたが、首の骨は折れていない。五体満足です。ちょっとがんばってみますかね」


「あの…、もしよければ、お名前教えていただけませんか? そうじゃないと、フィンさんが描いた絵がどれかわからない」

「ああ、申し遅れました。私の名前は、フィンセント・ファン・ゴッホ。23歳です」

「やっぱり、フィンさんでいいや。なんか、名前、長いし…」

「そうですね、それで構いません」


このあと、フィンさんはどうなったのか? それはみなさんの方がよく知っているかもしれません。


23歳のゴッホが、画廊会社・グーピル商会で働いていたのは本当のことです。そして、この年、クビになったのも史実です。

ですが、できれば、この世界のゴッホさんは自殺をせず、長寿をまっとうされることを祈りたいと思います。



その後のことを話します。


ヒスパニョーラ号は応急処置で穴をふさぎ、パリ港に無事到着。

元気になったフィンさんの案内で、第二回印象派展の展覧会場に無事、絵を届けることができた。

この絵は大変話題になり、2000ポンドで売れたそうだ。


絵のタイトルは、『ラ・ジャポネーズ』。現代ではボストン美術館に収蔵されているモネを代表する一作だ。

一方、ゴッホも、この絵に触発されたのか?日本文化のとりこになり、浮世絵の写しや日本のグッズなどを描き始めた。

そして、「ひまわり」の絵を晩年描くことになる。そのうちの1枚は戦前、日本にあったそうだ。



第四話 終わり。


次回は、ジムが初めてのお使いに挑戦。でも、やっぱりドタバタが起きて…。

さあ、次回もサービスしちゃうわよ。


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