第8話 集落(5) sideロイス


「悪い事をしたな。特にエルダには」


今まで、肌身離さず持ち歩いていた、短剣、それも国宝級とまでは行かないが、どの王族の者達も喉から手が出るほど欲しい品だ。


昔、それもトレイド傭兵団設立前に手に入れた品で、冒険者時代、国王からの依頼の報酬の品だ。


その品を、大人びているとはいえ、子供に渡したのだ。自己防衛、あわよくば、いざと言う時にソイラを守ってほしいと思って渡したのはいいが、子供には荷が重すぎたのかもしれない。


「ロイスさん。そろそろ準備を!」


「ああ。今行く」


胸元に手を当てる。

当たり前の様に胸元にあった堅い感触が無くなったので、少し違和感がある分、更にソイラたちの事を考えて不安になってくる。


考えていても始まらないので、前を向く。

これまで数々の魔物を狩ってきたが、水の天獣は狩った事が無く、見たこともないので、少し高揚感が心に渦巻く。


以前、砂の天獣とは交えたことがあるが、偶然発生した小さな規模の砂嵐だったので、全く手ごたえがなかった。

村長の反応を見る限り、大規模な戦闘は初めてはではないだろう。



これから、狩る天獣を想像するだけで、不安が高揚感へと変わっていく。


準備が出来次第、先ほどの会議室、村長宅に集合との事だったので、土砂降りの外を見ながら、村長宅に足を進めた。



ーーーーーーーーーーー


「全員揃ったな。今から防衛戦を開始する。作戦は分かってるな?」


武装した村人達が頷く。

村人達の服装は皆同じで、中に皮の防具を着用し、上から黒色の布を羽織っている。


動きにくいだろうにと思っていると、近くに居た住人が耳打ちする。

 

「この黒い布を着ると、雨で濡れないのです。流石に顔は雨に濡れてしまいますが、皮の装備を通して、水が入らないので、体が冷えたりしなくなります。ロイスさんも必要とあらば、ご用意しますが...」


「大丈夫だ。雨が降ると俺としては好都合だからな」


ロイスは身体強化を軸として戦うスタイル。


一般的に魔力を体の中で循環させて、通常の攻撃力、防御力、俊敏などを増加させる魔法の一種だ。


身体強化魔法の中には体を冷ますことが前提条件の物があるので、その身体強化魔法を活かすにはどうしても体を冷ます必要があるのだ。


「分かりました」


雨が降っているときや気温が極度に下がっているときこそ、ロイスは本領発揮できるのだ。


この武装化した村人の中には、まだ経験が低い者もいるようで、ざっと見回しても分かるほど緊張している人や不安がっている人が数名いる。それも黒い布で顔が少しだけ隠れているけれど、分かるほどだ。


それを搔き消すかのような声が響く。


「今回は、”アレ”を使う!巻き込まれるんじゃねぇぞ!」


村長が自信満々の表情で村人たちの不安を掻き消し、村人たちは一斉顔を上げる。


「よし!みんな!”アレ”が来る前にへこたれんなよ!」


門番をしていた兄ちゃんの声で、緊張していた人や不安がっている人は、やる気に満ちた顔に変わる。


「みな、配置につけ!」


村長の声で村人たちは外に出ていく。


村人たちが村長宅を後にしたところで村長に声を掛けられた。


「ロイスさんは東側を担当してください。東側に向かえば5人ほど村の者が待機してあるはずなので、詳しくは、その村の者にお聞きください。私は少々やるべきことがあるので、それまで、負担がかかるかと思いますが、宜しくお願いします」


「了解した」


村長宅を出ていき、東側に向かった。




東側に着くと、村長に言われた通り5人の村人が待機していた。


「ロイスさん。お待ちしており「敬語はやめてくれ」」


ある程度の敬語はまだいいが、ここまで田舎に来て敬語を使われると、ムズムズするので、村人の声を遮り、いう。


「この場に立ったら、同じ人間だろ?」


村人たちは笑い出す。


「ロイスさんは変わってないな」


黒い布を少し脱ぎ顔を見せる。


「久しぶりだ。ロイスさん。あの時は世話になった」


さん付けで呼んでいるが、敬語を使わないこの違和感のある男...


「まさか...オーレンか!」


オーレン。彼はトレイド傭兵団を設立当初、依頼をしてくる商人や貴族など全くいなかったので、設立当初は名を売るため、盗賊団をいくつも亡き者に変え、知名度を上げようとしていた。やがて、その盗賊団を亡き者に変えるほどの実力者の集まりだという噂が世間に浸透しつつあった。その噂を浸透させたのが彼、オーレンのお陰である。盗賊団から襲われているところを偶然助け、良ければということで、護衛を頼まれたのだ。これが実質、トレイド傭兵団の最初の依頼だったので、今でも鮮明に覚えている。オーレンは、「金欠で報酬は支払えないが、噂ぐらいなら広めれる」と言ったので、普通なら信用しないが、当時のトレイド傭兵団は金よりも知名度の方が重要だった。ダメもとで引き受けたのだが、トレイド傭兵団はオーレンからの護衛の依頼を受けてから、次々に依頼が来たのでトレイド傭兵団の団員たちは、朝起きて、「オーレン様に祝福あれ」といって日々の生活が始まるのだ。


そして、依頼の関係上街を転々とする中で、オーレンは凄腕の商人だと小耳にはさんだことがあるのだ。一流の商人であるオーレンが何故?


「どうして、この集落にいるんだ?」


「ま、成り行きに身を委ねたらこんな形の再開になりましてな。申し訳ない。少し昔話をしましょう。実はトレイド傭兵団の設立後、一番最初に護衛を依頼した時から、何故だかわからんが注目を浴びるようになって、大手の商会から頼まれて。まぁここまでは、いいんです。その仕事をするために、色んな都市に出向かい、色んな方に出会いました。その出会った中で気が合う連中がこの方々です」


後ろにいる4人に目を向ける。


「それから5人でまぁ荒稼ぎしたわけです。大手の商会から外れて、自分らで本格的に活動することになって、今まで積み重ねて来た、財産を移動することになった。大手の商会から祝いとして護衛を雇ってもらって、自分らは大船に乗った気になったんです。ですが、それが間違いでした。その護衛は盗賊団と繋がってたみたで、身ぐるみはがされて、行き倒れになった状態をこの集落の住人に保護してもらって、今に至る訳で、自分らはもう護衛に頼るのはやめようと思って、天獣相手に日々鍛えている真っ最中でな」


「それは...それは...大変だったな」


「はっはっは。なんのなんの、これしき障害にもならんよ。っはっは「トレイド傭兵団の団員に知らせておこう。盗賊団狩りの季節がまたやってくるかもと」いやぁ自分らも変わってないですが、ロイスさんも先ほど言ったように全く変わってないな。まじめすぎることとか。その図体に合わないぞ」


昔の話をしながら、二人とも笑いあう。


「オーエン、そろそろ時間だ」


「ああ、そうだな」


オーエンたちは、各々の武器を構える。二人は弓と杖を構え、オーエン含む残りの3人は槍や剣を構える。


「ロイスさんは、初めてか?天獣と戦うのは」


「砂で人型とか犬型を模った天獣なら何度か経験はある」


「砂の天獣...今から戦う水の天獣も同じ感じだと思って構わない」


「じゃ、ある一定の攻撃を加えれば消滅する感じで合ってるか?」


「その通りなんだが、気を付けないといけないことが一つだけある。連携してくる奴が時々沸くから警戒しておいた方が良い。油断した隙に攻撃してくるからな」


「わかった」


手先に魔力を集める


「【召喚 風魔剣 グリンドル】」


2m以上ある鶸萌黄色の大剣がロイスの手元に現れる。

風魔剣を持ったロイスから旋風が吹き荒れる。


旋風が止むと寸前に天獣が集落に向かい攻めて来る。


「ロイスさん!援護します。」


最初に現れてた人型の天獣を狙い矢を放つ。矢はグリンドルの風の力を受け、通常の矢の速度ではありえないほど速さで人型の天獣を射貫く。


「最初に粗方天獣を殲滅する。逃がしたやつらは、頼んだぞ!」


ロイスの声に呼応するように5人は詠唱を始め、弓を構える。


「【竜巻】」


ロイスは空間を切り裂くと、ゴォという音と同時に3つの竜巻が出現する。


竜巻は木々を巻き込み、天獣と木々を根こそぎ上空へと舞い上げた。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る