第55話 逃避行

 全ての演奏を終えてハケると、スクリーンのSeekerが、改めて俺たちのプロデュースを告げて、デビューライヴはお開きとなった。


 楽屋に戻った俺たちは、興奮冷めやらず、口々に語る。


「これでずっと一緒ね、セイ!」


「あれ……デビュー出来て凄く嬉しいけど、バイトは辞めなくちゃなりませんよね?」


「大丈夫です、佐伯くん。もう人員は確保してあります」


「正史郎先輩、勝つ気満々だったんじゃないっスかー!」


 和やかに正史郎さん以外が笑った。


「真一先輩、打ち上げやりましょうよ! Seekerが用意してるかもしれないですし」


 だが俺は、その言葉には賛同しなかった。済まなそうに言葉尻を下げ、


「悪りぃ。今夜だけは、京と二人で抜けさせて貰うわ。どうしても外せない用事があって。な、京」


「え……と、は、はい。すみません」


 京はほんの一瞬だけで俺の目配せに気付き、調子を合わせた。マコが不平を唱える。


「えーっ! 何でよりによって今日なのよ! 用事って?」


 だが先程の楽屋でのキスを見ていた健吾が察して、気を回してくれる。


「あ、そうっスね。今日、前のバンドのヴォーカリストの命日だって、真一先輩言ってましたもんね……」


「あら、そうなの……」


「真っ先に報告してやりたくてな」


「それじゃ仕方ないわね」


 しんみりとマコが大人しくなった。今の内に、と俺は京の肩を抱いて楽屋を出た。


「じゃあ、Seekerにも伝えといてくれ」


 関係者口に停まっていた黒いワンボックスカーの使用許可をとり、家路を急ぐ。京が、不思議そうに訊いた。


「真一、前のバンドのヴォーカリストって、真一が殴った人じゃ……」


「ああ、あれは健吾の作り話だ」


「えっ……! じゃあ、何で帰るの?」


「今に分かる」


 そうとだけ言って、京の口を封じてしまい、運転に集中した。

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