第53話 決戦

「やぁ皆。久しぶりだねぇ」


 スクリーンに、Seekerが写し出された。会場のボルテージは最高潮だ。


「私が見付けた二つのユニットの内、ひと組をプロデュースする事にしたよ」


 そして、リハーサルもなしにいきなり振られた。


「一曲ずつ、披露して貰おうかねぇ。じゃあまず、WANTED with rewardの諸君から」


 流石にその言葉には、心臓が跳ねた。武道館でれるバンドなど、星の数ほどのバンドの中で、一握りしかない。掌に違和感を感じると、京が俺の手を握っていた。小刻みに震えている。


「大丈夫だ、京……皆カボチャだと思え」


「う……うん」


 少年貴族の二人は、ハケていった。俺たちは、ステージに組まれたバンドセットの持ち場に付き、音合わせを始める。歓声がわき上がり、俺たちは、いつも一曲目にやるグラムロックを演奏し始めた。


 すると、一斉に客席にサイリウムの華が咲いた。全席に配られていたのだろう。色とりどりの光が、メロディに合わせて揺れる。その幻想的な光景に圧倒されている内に、一曲はあっと言う間に終わった。


 再びスクリーンにSeekerが顔を出す。


「盛り上がってきたねぇ。じゃあ次は、少年貴族だよ」


 楽器を元の位置に置き、少年貴族とすれ違う。ベンジャミンは、俺たちに軽く目礼をして出ていった。


 スタッフに、楽屋に誘導される。正史郎さんを除いて、皆が興奮して語り出した。


「あたしたち、武道館でったのね!」


「俺、まだ手が震えてる……」


「楽しくて堪んないっスね!」


「シッ。少年貴族の演奏が始まります」


「ああ。これが審査に影響するかどうかは、神のみぞ知る、だな」


 俺たちはステージを映し出しているモニターに見入った。ベンジャミンがステージ上に立ててあったヴァイオリンを手に取り、スッと顎に宛がう。紡がれたのは、やはりいつも一曲目にやっている、キャッチーなバラードだった。


「……本当に、正反対だよな。少年貴族と……」


 京が呟く。不安そうなそのブラウンの頭にポンポンと掌を乗せ、俺は言ってみせた。


「大丈夫だ、俺たちの勝ちだ。絶対」


「絶対?」


「絶対だ」


 京が、緊張を解いて少し笑った。そうだ、お前には笑顔が似合う。そう思って笑い返した。


「根拠は、ないんだろ?」


「ああ。勘だ」


 楽屋の空気が和やかなものに変わった。やる事はやったんだ。後は、腹をくくって待つだけ。


 と、少年貴族のヴァイオリンの響きが消えない内に、MCの特徴的な甘い声音が、バラードに不似合いな大音量で彼らを称賛した。


「素晴らしいッ! 時に処女のように繊細に、時に娼婦のように大胆に、豊かに紡がれるヴァイオリン! そして何より、小鳥のような美しい姿とさえずりをもって、私をその虜にする桐生圭人! もし君が女性なら、いや、例え禁忌を犯しても構わない! 私は今すぐ君のその蒼い蕾を、摘み取ってしまいたい!」


 MCは独特なセンスの言葉遊びで甘く誉めちぎり、最後に確かに、こう言った──。


「んデビューするのは、君たちだッ!!」

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