第15話 翌朝

 間近に京の眠るソファの上で、ようやくウトウトした時だった。目覚ましのアラームが鳴る。何度も悩ましい京の呻きに起こされ、額のタオルを変えてやった為、殆ど寝ていなかったがいつもよりスッキリと目覚め飛び起きた。


 京をもっと寝かせてやりたくて素早くアラームを止めたが、眠りの浅かった京は、目を覚ましてしまったようだ。覗き込むと、まだハッキリしない頭で、俺をぼんやりと見つめてくる。


「京、大丈夫か?」


 その表情をもっと見ていたくて、刺激しないように優しく囁く。


「しん…」


 だが痛めた喉から声を出すのが辛いらしく、その顔がくしゃりと歪んだ。


「ああ、辛いなら喋るな。今、飯作ってやるから待ってろ」


 消化の良いものをと、卵と野菜の雑炊を作る。その間に、京はまた少し微睡んでいたようだ。枕元のサイドテーブルに運んでいくと、閉じていた瞳を半眼に開けた。


「起きられるか?」


「うん……今、何時?」


「ああ、バイトなら今日も休めって言ってたぞ」


 察して先回りをすると、京はホッとした表情を見せた。そして、掠れた声でまた俺を呼んだ。


「真一……ありがと」


 まだ幾らか冷たい額のタオルを差して言う。


「ご飯まで」


 サイドテーブルに置いたほかほかと湯気の上がる茶碗を見て、京は嬉しそうに短く単語を発した。そしてゆっくりと起き上がる。身を起こす事も出来なかった昨夜に比べると、随分と回復しているように見え、俺も嬉しかった。


「食わせてやろうか?」


「大丈夫。いただきます」


 熱が引いたという事は、身体が風邪のウイルスと戦ったという事だ。よほど空腹だったのか、京はそれをあっという間に平らげた。


「美味しい。ご馳走様でした」


 律儀に手を合わせる彼に、俺もちょっと笑いながら返す。


「お粗末様でした」


 時計を見ると、バイトまでにまだ少し時間があった。熱々の雑炊を食べたせいで、京の額には再び汗が光っている。下心なく、自然と言葉が口をついた。


「汗、拭いてやろうか」


「えっ」


 その京の反応で、彼が困惑しているのが分かった。照れているのだろう。


 そうか。まだ俺たち、バードキスしかした事ないもんな……。思った事は顔に出るタイプだ。それを読み取って、京は自分が、俺の好意を下心と疑った事を恥じ、即答した。


「う、うん。お願い」


言うと、Tシャツの裾に手をかけた。

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