第2話 三日後

 初めは俺と京しかいなかったこの新築マンションにも、住人が増えてきた。俺は101号の角部屋だから、隣人は京だけだ。


 引っ越してきた当日、熱中症でマウストゥマウスをする羽目になった京は、回復すると顔を真っ赤に上気させて帰っていった。色んな意味で『仲良く』なった訳だが、気恥ずかしいのか、次の訪問は三日後だった。


「おう、京。どうした」


「あ、あの、この間のお礼を……」


 手には、ケーキの紙箱がさげられていた。三日経ったというのに、まだ頬を淡く染めて俯いている。可愛い奴だ。京は、素直で綺麗で、すっかり俺の気に入りになっていた。


「ああ、入れ。コーヒーでも淹れよう」


 気安く言うと、安心したのか、京は顔を上げて入ってきた。


「お邪魔します」


「かけててくれ」


 ホットコーヒーを二人分用意してリビングに戻ると、京は落ち着きなく部屋を眺めていた。


「ほいよ」


「ありがとう。……素敵な部屋だな」


「あ? ああ、モノクロで統一してあるんだ。黒が好きだからな」


「へぇ……俺の部屋は、まだ段ボールが幾つかあるよ」


「荷解きが苦手なのか? 俺は得意だから、手伝いに行ってやろうか?」


 下心が全くないと言ったら、嘘になる。


「えっ……。はい、じゃあ、お願いします。助かります!」


 こう素直に快諾されるとは思っていなかった。若干後ろめたさが揺れたが、京の部屋を訪ねる口実が出来た。


 そう思うと、苦手な筈のショートケーキの甘い臭いも、気にならなかった。

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