第11話 久野文香の転

起。


俺の名前は、光リエ(ヒカル・リエ)。女の名前だが、れっきとした男である。


「女の子が欲しかった!? 男の子が生まれたら、男の子の名前をつけやがれ! 小さい頃から、「リエちゃん? え!? 女の子と思った!」とか、好きな女の子に告白をしては、「私、女の子の名前の人とは付き合えません!」とか、そんなことばかりだ!? 俺の人生で楽しいことなんて、やって来ないんだ!」


と、思いつめ、学校の屋上から飛び降り自殺を図ったのだが、不幸な俺は死ぬことすら許されなかった。そんな俺の前に、レンタル福の神という、偉そうなでキチガイな女が現れ、不幸を幸福に変えるという。俺は、福の神に憑りつかれてしまった。


承。


「光くん、3+3はいくら?」

「え!?」


教室では、いつもと同じ光景があった。福の神の福ちゃんは、「今日も研修だ!」と言って去っていない。俺は問題を解くことができず、みんなに笑われて、バカにされて終わりだ。やっぱり俺は不幸なんだ。


「先生、私に応えさせてください!」

「いいだろ、久野さん。答えてみなさい。」

「9です。」

「おお! すげぇ、転校生、3+3を答えちゃった。」

「久野さん、すごい!」


俺の不幸は、久野文香の幸運に転換された。俺の本当の福の神は、福ちゃんでなく、久野文香さんだったんだ。


「ニコ。」

「ニコ。」


俺と久野文香は両隣ながら、目と目が合うと微笑み合った。きっと相思相愛に違いない。俺は久野文香の立候補に返事をしようと試みた。


転。


「久野さん、この前の返事なんだけど。」

「うんうん。」

「俺の彼女になって下さい。」

「いいよ。」

「やった!」


ついに、ついに俺にも彼女ができた! 男に生まれてよかった!


「よかったな、オカマ。」

「はい、これも福の神さまのおかげです。」

「そうだろう、そうだろう。貴様の彼女がいなかった不幸な時間の長さが、私のおかげで幸福に転換されるのだ。ハハハハハッ!」


久野文香の前に、福の神の福ちゃんが現れて、俺を祝福してくれた。


結。


「ん? どうして私がいるのか説明しよう。」


是非とも聞きたい。


「まず、福の神の私と、久野文香の私は、身の危険を感じた。そこで、渋谷駅のスクランブル交差点の側にある、ハチ公の像を依り代にし、ハチ公を久野文香に変身させたのだ。これで私の身は守られた。」


ということだ。


「さぁ! 手を握れ! 強く抱きしめろ! キスをしろ! 服を脱がせ! なんでも好きにするがいい! ハチ公と知らずに! ハハハハハッ!」


高校生の男の子は性欲の塊だ。


「文香ちゃん、大好き。」

「リエくん、大好き。」


何も知らない俺は、幸せだった。


「zzz。」


こうして福の神は、夜は安心して眠れるようになったのでした。


つづく。
















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