人類は再び宇宙から遠ざかった。惑星ゼロの真相を知る者は、宇宙で只一人。

私が修士課程を修了して8年になる。
研究の道に今も未練を持っている。
だから遠い未来の研究者たちの物語に心を惹かれた。
研究対象「宇宙」への複雑な想いにひどく共感した。

いつか遠い未来、人類が「旧星」を離れた後のこと。
多角形状に惑星が連結された「コートリア惑星群」。
外殻に覆われた環境は機械仕掛け。自然は存在しない。
「宇宙」は再び人類の手の届かないものとなっている。

『惑星#0』はそんな遠未来を舞台とする短編連作だ。
主人公は存在しないが、一貫して登場する人物がいる。
アキホ・F・フェリノルダ。
「ゼロ」について知る、謎多き美貌の科学者である。

宇宙工学、クローン製造、旧星時代の生物の再現など、
各々の研究テーマに向き合う人々のひたむきな情熱が、
ときに眩しく、ときに物悲しく、ときにユーモラスに、
実に生き生きと描かれて、遠未来の情景が身近に迫る。

独立した短編を読み進めるうち、次第に像が結ばれて、
読者はゼロの真相に近付いていく。そして真相を知る。

物語を紡ぐ文章の性質がそう感じさせるのだろうか、
なんて繊細でやわらかくせつない物語だろうと思った。

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