第23話 母と子の確執

幸は、龍馬がたまらなく、愛おしい。

自分にとって最後の子と言う実感が強いせいもあるが

俗に言う 目に入れても痛くない我が子なのである。


だが、乳母に抱かれて満足したような龍馬を見ていると

なにやら嫌な気分になってくる自分が居る。


妬ましい気持ちが湧いてきて、幸は、いつしか、上手にその場を

離れるようになって来た。

離れの座敷で、チビをあやす。

物言わぬ猫が、なにやら自分を慰めてくれるような心持であった。


三年前の、乙女の時も、南のばあに世話になり

乙女も乳母によく懐いていた。

その時は、今のような気持ちは湧いて来なかった。


自分は、少しおかしい・・・。

幸は、乳の出ない自分を、責めている自分に気付いたのだ。


もとより、年齢からいっても乳の出る齢ではない。

出産については

よくやった、でかしたと皆に言われる。

自分でもよく耐え抜いたと思っている。

 

だがしかし、この何とも言えぬ不安感は、どうしたもので

あろうか・・・。


 南の乳母が来られない時のために、西の乳母も頼んでいたが

実際には、月に一度か二度ぐらいしか呼ぶことはない。


 南の乳母も、皆から、「みなうば」と呼ばれて

満更でもない気持ちである。

三年前に乙女を、我が乳で育てた自負もある。

乙女も可愛かったが、龍馬は、格別である。


授乳の間に見せる龍馬の笑顔は、まさに値千金であった。

幸が、さいさい言う「この子は、龍神の生まれ変わりじゃあ」

も、なるほどと納得出来る。


 みなうばは、自分の子供が五人もいたが

せっせと通って来た。

みなうばも、又、龍馬が愛しくて

他人様の子供とは思えない気持ちが

いつも湧いて来た。


「ほんまにこの子は、しっかりしちゅうぜえ。

 おせになったら、えらもんになるぜえ」

乙女も、弟可愛さのあまり、いつも龍馬に付き添っている。

「りょうま、りょうま」

年齢の離れた兄や、姉にも可愛がられて

龍馬は、健やかに育っているように見えた。

が、しかし・・・龍馬の心の海の中では

これまた、何やらわからぬ不安が、渦巻いていた。

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