第5話 つわり

 「ありゃあ、今日も、おかみさん食べてないぜえ」

母屋の台所で、女中が3人集まってひそひそ話をしている。


幸は、つわりがひどく身体が食事を受け付けないようだ。


庭の離れの間で一日中、臥せっている事が増えてきた。


心配した女中頭が長兵衛に相談して、やがて近所の良庵先生が

往診に来てくれた。


 良庵先生は、本名 小西良庵、長崎でオランダ医学を学び

若い頃は、外科手術まで行っていた近所の名士であるが

近頃は高齢の為に、往診はせず、もっぱら漢方薬による

治療を勧めている。専攻は、小児科であったが

良庵先生の漢方の証の診たてが良いとの評判で

はりまや橋から西では、知らぬ者はない。


 「細身の身体が更にやせて、かなりの衰弱がみてとれる。

が、しかし、時期が過ぎればやがて食欲も戻ってくるので

いま少し今のまま安静に大事に過ごされよ」


「何よりも、幸さんは、気が強いので

必要以上の心配は無用じゃ」


「眠る時間が短こうなると、身体が余計にしんどうなるきに

 この漢方を飲ませなされ」

そう言い残して良庵先生は、帰って行った。


 離れで一人で苦しむ幸・・・。

一人で戦っている幸に、自分は、何もしてやれぬ・・・。


長兵衛は、廊下に佇ずみ、一人祈るのであった。


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