ゲスト召喚のコーナー

 はい、では恒例のあのコーナーに早速行きたいと思います。


 ゲスト召喚のコーナー コーナー コーナー(エコー音)


 まあ端的に言えばゲストを呼んでお話を伺おうと言う単純な企画なんですがなんだかんだでこれが一番長続きしてるんですね。それではゲストさんをお呼びしたいと思います。今日のゲストはかつて、とあるダンジョンの主を務めていたという魔術師のアンドリューさんです。では召喚、どうぞ~~~~!


 ヒュインヒュインヒュインヒュイン(魔法陣からの召喚音)

 

「いやあどうも、召喚する事がメインで自分が召喚されるのは初めてです。アンドリューと言います。よろしくお願いします」


 初めましてアンドリューさん、私が魔王です。よろしくお願いします。

 アンドリューさんはこの世界、いや界隈の黎明期においてとあるダンジョンの主を務めたというとても偉大な方なのですが、まさかこのようなラジオ番組に来て頂けるとは夢にも思いませんでした。


「いやぁ光栄ですねえ。私がダンジョンマスターを務めていた頃はまず全くこの界隈が創られたばかりでしてね。何もかもを手探りでやっていたわけですが、その一生懸命さが受けたんでしょうか、魔王やダンジョンのボスを志す方々が増えてこの界隈も世の中の主流になりまして、一言では言い表せない嬉しさがありますね」


 今日アンドリューさんをゲストに呼んだ理由なんですけども、アンドリューさんはいわば我々の業界の大先輩、先陣を切った方ならでは苦労や労苦、艱難辛苦を乗り越えた先での嬉しさなど色んな経験を語っていただければと思いますね。

 アンドリューさんは最初はただの魔法使いだと聞いていたのですが何故ダンジョンの主をやろうと思ったのでしょうか。


「いや、私は別にダンジョンの主になろうだなんて考えてはいなかったんですよ。私はとある神が作ったと言われるアミュレットを研究する為に元々その国にある洞窟を住みやすいように改良して、ついでに変な輩が入り込んでこないようにトラップやモンスターを配置して安心して研究に集中できるようにしただけなんですけどね」


 なるほど、最初はただの研究目的だったんですか。


「ええ。研究中に邪魔される事ほど嫌な事ってありませんよね。少なくとも私にとってはそれが一番嫌でしたね。私は別に誰かを倒したりとか傷つけたりとかしたつもりはないのですが、放浪する冒険者達にも顔を覚えられては喧嘩を売られたり、挙句の果てには狂乱の王にまで敵視されて賞金首にまでなってしまっているのでそうせざるを得なかったと言うのが本音ですね」


 そういう意図があってあのような10階層の迷宮を作ったんですね。


「いやあ、本当に今となってはお恥ずかしいほどこじんまりとしたもので人にお見せできるようなもんじゃないんですよ」


 またまたご謙遜を。

 古代語を使いこなす知恵やあなたの居室の前に掲げられた冒険者たちを小ばかにした営業時間なんかは中々面白かったですよ。私なんかはいつでも居室に居て勇者たちを待ち受けないといけないので中々フラストレーションがたまるんですよね。たまに影武者に代わりに戦ってもらうんですが、影武者だから時々負けるんですよね。それで魔王を倒したぞーなんて宣言されると溜まったもんじゃない。だから負けた時用にそいつは影だみたいなセリフを仕込んでおくとかそういう事もしないといけなくて手間がかかるんですよね。


「魔王さんも色々と苦労されてるんですね。私の場合は研究主体なのでその部屋はいわば仕事部屋みたいなもんでして、それ以外は自宅に帰ってるんですよ。だから午前九時から午後五時までしかその部屋には居ないんです」

 

 私に関してはまあ魔王城は私の住処でもあるので居るのは当たり前なんですけどね。営業時間に関しては本当の事だったんですね。


「ええ、だからその時間以外に冒険者たちが訪れても不在なので意味はないですね」


 ふむふむ。

 そういえば貴方がお持ちだったアミュレットは元々はその狂乱の王の持ち物だったと伺ってますが、狂乱の王に敵視されたのはそれを盗んだからなのではないですか?


「ほほう、そこまで知っていらっしゃるとは。如何にも。私は神が作ったと言われるアミュレットの研究がどうしてもしたいが為に、王の居室へ転移魔法を使って忍び込んでまんまと盗んだのです。元々狂乱の王は武力とそのアミュレットの力を背景に勢力を伸ばしていただけに奪われるのは痛手だったんでしょうね。すぐさま私に賞金を懸けて冒険者たちを差し向けたわけですね」


 とはいえ、ダンジョンを突破してきた冒険者達と何度となく対峙して最後には敗れてしまったと。


「残念ながら。その時はちょうど客の応対をしてましてね。不意を突かれたんですよ。私どもの時代の戦いというのはそういう物でね、どちらも同程度の戦力、魔法を持っている場合、先手を取られてしまえばおしまいです。また相手方は神の加護がありましてね、神の御業である奇蹟を使う事も可能でした。私は神の加護など受けてないので使えないというのに。まあ奇蹟に関してはペナルティもあったので気安く使える代物ではないというのが救いでしたが」


 そしてアミュレットを再び奪われてしまい、自らのダンジョンに眠ることになったと。


「ええ。しかし私は知識を蓄積した果てに、肉体や魂が朽ちる事のない大魔術師にまで成長していたのです。だから私は昏い闇の中で復活の為の力を蓄え、再びアミュレットを手にすると誓ったのです。そして百年の時を超えて復活しましたが、当然狂乱の王ロバートはそれを予見していた。ゆえに対策を打っていたのです」


 王はあなたが作り上げたダンジョンを封印の為の遺跡に作り替えてしまったというわけですね。かなり厳重でかつ、狡猾で陰湿なダンジョンだったと伺っておりますが。各階層にはガーディアンが上に行く階段を守っており、更には階層を上るに従って複雑怪奇な構造をしていたとか。


「その上私は復活したばかりで力を失っていた。まさに私をこの墳墓から逃がさない、という強すぎるにもほどがある意思を感じたのです。しかし私は今ここにいる。

ふふふ。理不尽を乗り越えて相手に拳を真正面から叩きこむこと程楽しい事はない、そう思いませんか?」


 中々怖い瞳をしますね……。私はまだ封印されるといった経験が無いのでよくわかりませんが、アンドリューさんはそういった艱難辛苦を経て再び世に戻ってきたわけですが、現在は何をしてらっしゃるのですか?


「封印された墳墓を彷徨っている最中に、偶然にも私は真理の一端を掴むことに成功しました。この世のすべてとは行きませんが半分くらいは知る事が出来たと思っています。あの狂乱の王が固執したアミュレットも神のいたずらの品である事もわかりましたし、人々が信じている神のひとつもただのまやかしに過ぎない事を看破しました。私はこれからアミュレットを作った神に会いに行くつもりです。その前にこの番組にお呼ばれしたので出演した次第ですが」


 ありがとうございます。

 ここまでアンドリューさんの簡単な経歴を喋っていただきました。

 ではこれより本題に入ろうと思います。


「なんでしょう?」


 アンドリューさんの作られたダンジョンは未だに名作の誉れ高きものです。


「恐縮ですね。そう褒められると体がむずがゆくなります」


 そこでアンドリューさんがどのような意図でダンジョンを作ったのか、罠やモンスターはどういった考えで配置なさったのかを私は是非とも聞きたいのです。フィールドに配置してしまったモンスターはもう変えようがないですが、魔王城のモンスターならまだ配置に自由が利きますので。


「そうですね。基本的に私の作ったダンジョンは当時の事情もあるのですが、やはり全力で侵入者を殺す事に心血を注ぎました。どの階層でもその意図は変わりません。まあ自分の住処と持ち物を侵されそうになっているのですから、殺さなければいけませんよね。冒険者は王の手引きによって雲霞の如くわき出てきますから効率的に殺せるようにしなくてはダンジョンとして作った甲斐がありませんよ」


 やはり殺意は重要ですよね。私が目覚めた時はまだ人間どもに対する殺意が多少なりとも鈍かったので手心を加えたわけではないのですが、結果的にそうなってしまう形になりました。やはり、それほど重要で無い場所でも初見殺しみたいなモンスターや罠を配置すべきですよね。


「はい。侵入者ども死すべし、の心です。ただ、私にもミスがありましてダンジョンの1Fに私のダンジョン作成を手伝ってくれた者の墓を作ったのですが、その彼が夜な夜な亡霊として現れるようになってしまいまして。彼は何度倒してもリスポンしてしまうのでそれを利用して力をつけるという方法が冒険者達の間で広まってしまいましてね。今思えばそんな墓など作るべきではなかったと後悔していますよ」


 ダンジョン作成の誉れ高きお方でもそのようなミスはあったのですね。


「私も初めて作ったダンジョンですからミスが無いわけではないです。話を戻しますが、侵入者を全力で殺す為にはもちろん宝箱も用意します」


 宝箱ですか? そりゃ私どもの迷宮や城にもある程度は宝物庫や倉庫などでありますけども。全く勇者たちときたらどんな扉でも開けられる鍵を手に入れるもんだからもう施錠するだけ無駄ってもんですよねははは。


「私の所ではそのまま配置するだなんて勿体無いことはしませんよ。モンスターに持たせておくんです。倒したら出るという形にして。勿論タダでやるわけではありません。その宝箱には罠を設置しておくんですよ。毒矢、爆弾、麻痺のガス、転移の魔法など様々なモノを用意して冒険者達をハメてやるんです。特に転移の魔法は冒険者達にとっては一番の恐怖だったようですね。私どもの世界ではたとえ死んだとしても呪文や寺院で復活する事が可能です。しかし壁や石の中に転移してしまえば彼らはオブジェクトの一部となり、二度と復活する事もかなわないのです。彼らの魂、存在そのものすら失われる。これ以上の恐怖など無いでしょう」

 

 想像するに恐ろしいトラップの数々ですね。

 宝箱は1Fのモンスターでも持たせておくんですか?


「当然。それも1Fのモンスターの持つ宝箱は大抵役に立たないか店でも売られてる程度の物にしておくんです。得られる利益は少なく、かつ被害は甚大。非常に効率がいいでしょう。まあこの手段も冒険者達に噂が広まってしまい、手を付ける連中が少なくなったのは致し方ないことですが。それでも冒険者たちは駆け出しの頃は非常に弱い。毒矢や爆弾程度の罠でも十分にパーティーを損壊せしめ、撤退中の連中にモンスターがとどめをさすと言った事も出来ます。1Fのモンスターと言えども駆け出しの冒険者達にとっては非常に手ごわいですからね。万全の人数、状態を整えてようやく互角なのに、パーティが半壊した状態で対峙すればほぼ壊滅は間違いないですよ」


 なるほど……。流石ダンジョンマスターと謳われたアンドリューさんだけありますね。並々ならぬ殺意を1Fから叩きこむ姿勢、見習うべき所です。


「それと迷宮の構造を複雑化しておくのも当然ですが、やはり迷宮そのものにも罠を仕掛けておくと間違いがないですね。簡単な落とし穴から不意に別の階層に飛ばす転移の魔法、方向感覚を失わせる回転床やどんな灯りも届かない闇の領域。これらは冒険者達の不安や恐怖をあおります。その上でモンスターたちの襲来があれば間違いなく甚大な被害をもたらすでしょう」


 モンスターや宝箱の罠のみならず、迷宮そのものを罠にするという発想ですね。


「失礼ながら先ほど魔王殿の迷宮を視察させてもらいましたが、モンスターの配置は中々と言った所ですが肝心の迷宮内のトラップの仕掛け方が甘いですね。もっと殺意に満ちた罠を仕掛けないと冒険者達を辟易させることはできませんよ」


 うっ、ついに私の方にまでツッコミが……。


「私どものようなダンジョンのような罠は今となっては通用しませんが、例えば無限回廊を設置するとか、見えない落とし穴をおいてその下に強いモンスターを配置するとか、或いは高難度の謎解き、リドルを用意して解けない場合は容赦なく外に叩き出すとかしないとだめですよ。貴方はまだ慈悲がある。冒険者や勇者に対する甘い心がある。捨てなさい。そのようなものは貴方の世界征服の障害にしかなりませんよ」


 (ここで延々と説教タイムが続く)


 (ボソボソ)え、何、ディレクター? そろそろ時間が押して次のコーナーに行かないとヤバイって?

 は、はい、という訳で、今日のゲストは迷宮作成のカリスマアンドリューさんでした~~~~~~~~~~!! 次のゲストは裏の魔王と呼ばれる魔羅様を呼ぶ予定で~~~~~す!!


「あ、待ちなさいまだ話はおわってまs……」(徐々にフェードアウトしていく声)



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