第19話 秋

 いくつかの季節が過ぎて、真は自分の体が衰えてくるのを感じた。

工場はいつまでたっても激務だったし賃金も上がらなかった。

 それから盗みに入るときも以前の様に飛べなかったし運動能力が落ちていると

感じていた。

 春はちっとも変っていないように見える。

「オカエリ」と言って笑ってくれるのを見れば嬉しい


 真の気持ちは自然に浮きたち疲れも忘れられるような気がした。

それでも、休日には疲れが出て寝てばかりいるようになった。

 春もそれを咎めなくなった。

 

 それでもやりすぎると心配したので、春は努めて早く帰っってきた。

  春が急いで集めたたきぎには、時々トカゲや死んだ昆虫が入っていて

 それがぱちんとはじけてごげ臭かった。

  真はそれが自分の心を穏やかにしてくれるように聞こえて、春に感謝した、自分の体を心配してくれる人がいるのは幸福だが、春が足をかばいながら不自然な姿勢でまきを集めるのはつらい作業だ、ぱちんと音がするたびに思った

  春の体を眺めて、温めて自分の体と見分けがつかなくなるのが好きだというと

 もし、体がなくなっても心は残ってずっと一緒にいられると

 春は診療所で教わったと言った。

自分も、そう習ったというと「じゃあ、本当なんだ」と言って喜んだ

 真はそれが嘘で騙されているとおもっていたが、皆が言うのなら本当なのかも

しれないと思った。 

 自分の誕生日を知らない二人は、お正月が嬉しかった。

春をさらった日を祝う気にもなれないし、洋々たる年の瀬を眺め暮らして

 火を焚き、体を清めちょっとのごちそうと少し酒を飲んだ

 春はかまぼこが気に入っていた。

 味ではなく色である、最初見たとき「綺麗だなあ」と言っていつまでも眺めていた。

それから、すっかりくつろいでだらだらと話をする。

 初夢と、それからいつもと同じような事、何も考えず、特に何もせず

そんなふうに、ゴロゴロ転がっていると、とても贅沢な気分になれた。

 こんな、さっぷうけいな地下室で、でもいつも綺麗に掃き清められていた。

真が春が病気にならないように、いつもホコリを払っていた。

 春が昔育った屋敷では、金のことばかり言ったという、なぜそんなに金が要るかと聞くと、着物やかんざしのためだという。

着飾ったことのない真にはわからない

 何を人びとは欲しがるのだろう?

春を温めるために盗みに入っていること話すっかり忘れてぼんやり考えた。

 あるていどの貧乏の本質と言う状態は平和なのではないか、真は思った









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