第4話 第四話 鹿

真は自分の年を知らないが、体は大きなほうだった


 獣を取るのは命がけの仕事で、いつもどこかしらに傷を負った


 それでもたいてい、一人で出かけた


皆は大人数のが楽なのになぜ? と不思議がったが一つだけ、自分だけの秘密が


あった。


 鹿だけは殺せないのだ。


初めて見たときうっとりしたのを、覚えている


 大きな暗褐色のひとみ、耳はびくびくと動いて周りをうかがっている


雪の中に、刺さった足は気の毒なほど細かったが優美だった


  哀し気な目は自分を殺すのかと問いかけているようだった


  その目を見て動けなくなった


 その間にびっくりするほど綺麗に跳躍して、鹿は飛んだ


そして二度と振り返らなかったが、目の中にあざやかな残像が残った


  それは自分だけの秘密で、ささやかな思い出だった


そんな毎日が過ぎて ある日突然、みんなで出かけると言われた


もちろん命令は絶対で逆らうことは許されない、質問もだ


 どこに行くのかわからないが命令に逆らえば死がまっている


 それは、昔から叩き込まれている

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