世界中の金貨を集めて

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第1話 小太りの主役とか美少女のライバルとか登場の回

「これでもくらっておだぶつしなさい! 降り注げ流星!」

 深紅のドレス型の戦闘衣を着た、亜麻色の髪を肩まで伸ばした小太りの少女が指揮棒を振る。その途端、空から幾つもの流星が降り注ぐ。

「この程度、蹴散らしてくれるわ」

 白銀の鎧をモチーフにしたスカート状の戦闘衣を着た、軽く波打った長い黒髪の少女が細身の剣を流星に向かって振り上げる。剣から衝撃波が放たれる。

 衝撃波と流星が衝突して爆発する。戦っている二人の少女の頭上で華麗な光の花が咲き乱れる。

「今度はこっちの番よ」

 黒髪の少女が細身の剣を魔法の杖へと変換して詠唱を始める。

「暴虐なる炎の精霊よ、我、盟主として命じる、太古の始原の炎をその手に宿し……」

「相変わらずだっさい詠唱ね。我、盟主として命じる、なんて何年前の流行よ」

 小太りの少女が吹き出し、ギャハハ、と豪快に大笑いする。

「伝統あるこの詠唱の良さが分からないなんて頭が腐ってるんじゃないの」

 詠唱を止めて黒髪の少女がやり返す。

「相変わらず伝統が好きね。そんなのに拘ってるから没落貴族になるのよ」

「なんですって! この成り上がり者」


 二人の舌戦をヴァルキリーシステムの外にいる同級生達が気をもみながら見守っている。

「エファちゃん、そろそろ昼休みが終わっちゃうよ」

 同級生の一人が小太りの少女に叫ぶ。

「分かってるわよ。あんたみたいな貧乏人が私に意見するなんて生意気よ」

 エファと呼ばれた小太りの少女は声をかけてきた同級生を睨みつける。同級生はしゅん、と、しょげる。


「ほら、ソフィアはやく詠唱しなさいよ。何百万フローナ(一フローナは約一円)使うか知らないけど、私が華麗に蹴散らしてあげるから」

「そんな大言壮語を吐いて、後悔しても知りませんからね」

 ソフィアと呼ばれた黒髪の少女は再び詠唱を始める。

「暴虐なる炎の精霊よ、我、盟主として命じる、太古の始原の炎をその手に宿し全てを灰塵へと燃やし尽くせ、焔の濁流、ファイアードラゴン!」

 ソフィラが魔法の杖を空に向けてかざす。空中にファイアードラゴンが召喚される。ファイアードラゴンは長大な体をくねらせ、エファに向かって急降下する。

「大した攻撃じゃなさそうね。所詮は小金持ちの魔法よね」

エファが指揮棒を上空に向ける。

「その内を満たすは恵みの滴。出でよ黄金の如雨露」

 上空に金色の巨大な如雨露が現れる。如雨露が傾き、ファイアードラゴンに雨を降らせる。雨にうたれたファイアードラゴンの体からは炎が失われ、消滅した。


「そんな…… 百万フローナの魔法なのに……」

 ソフィアの表情にあふれていた自信が霧散する。

「驚くことじゃないでしょ。黄金の如雨露は二百万フローナの魔法なんだから」

 指揮棒を振り、エファは次の魔法を詠唱する。

「飛来せしは天からの福音、空を埋め尽くせ、天使の子豚!」

 空に無数の、羽が生えたピンクの子豚が召喚される。エファが言うところの天使の子豚だ。

 天使の子豚が、ぶひぶひ、鳴きながらソフィアに突進する。


 その迫力は圧倒的!

 可愛らしさは異次元級!!


「邪を払う至高なる女神の盾よ、我、盟主として命じる、以下省略! カナンの盾」

 呪文を即座に使うときのため長い詠唱には、以下省略、機能が付いている。

ソフィアの周囲に複数の光球が現れ、天使の子豚をに向かって発射される。光球が命中した子豚は、ぶひー、と悲しげに鳴いて消える。

「あんたのその防御魔法は見飽きてるのよ。さっさとやられなさい」

 エファが指揮棒を振る。空中に新たに天使の子豚が無数に現れる。

「負けるもんですか」

 急増する天使の子豚にあわせてソフィアも光球を増やす。

 天使の子豚と光球の攻防は苛烈で、激しく、そしてメルヘンチックだった。しかし、一分程で空を埋め尽くしていた天使の子豚も無尽蔵に出現していた光球も底が尽きる。


「資金が尽きたようね、エファ」

「あなたもね、ソフィア」

 二人とも生活費を除いた自由に戦闘に使える資金、つまりお小遣いを使い切ったのだ。

「引き分けね」

 ソフィアは構えていた魔法の杖を下す。

「そんなわけ無いでしょ。私が勝つのがこの世の理なのよ」

 エファは深紅のドレスのポケットから多機能携帯魔機(スマートフォン)を取り出す。

「あ、パパ。私の口座に五百万フローナ入れてくれる。は? 駄目? そんなこと言うならぐれるわよ。そう、うん分かればいいのよ。今すぐ入れて、よろしく」

 エファは多機能携帯魔機の通話を切る。父親からお小遣いをもらい満足しているエファにソフィアが純度100%の批難を含んだ視線を浴びせる。

「誇り高きフローナ女子学院の生徒として簡単に親を頼るなんて恥ずかしくないの」

「親を頼って何か悪いのよ。パパのお金は私のお金よ」


 エファは指揮棒を振る。天使の子豚の群れが空に現れてソフィアに襲いかかる。

 資金難のソフィアに迎撃する術は残されていなかった。

 ソフィアは天使の子豚達にもみくちゃにされ、押しつぶされる。ソフィアの悲鳴が響いたが、天使の子豚の、ぶひー という勝利の一鳴きがかき消す。

 役目を終えた天使の子豚が消えたあとには、地面に横たわったソフィアが残された。自慢の白銀の鎧をモチーフにした戦闘衣はボロボロになり、破けた所から下着や素肌が見えている。しかし、怪我は一切無い。

 ヴァルキリーシステムはこの戦闘をエファの勝利と判定して結界を解く。エファとソフィアのヴァルキリーシステム用の戦闘衣が学院のブレザーの制服に戻る。

「また、負けるなんて……」

 立ち上がったソフィアは耐えきれない屈辱と悔しさに綺麗な顔を歪める。

「私の大勝利ね。私の人生には勝利という名の真紅の絨毯が敷かれてるのよ」

 小太りの少女エファの悦に入った笑い声が晴天の空に響いた。

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