タロット占い

「そ、そう、ですか・・・・・おめでとうございます」

「・・・・・ありがとう」

「いつ、行かれるのですか?」

「あさって・・・・・」

「そう・・・・・ですか」

私が微笑してそう言うと、雨は私の顔をジッと見つめて、

「マギコ、いやですか?」

「な、何がです?」

尋ねると、雨は言いにくそうに顔を伏せ、呟いた。

「・・・・・雨が、学校に行くこと」

「そそっ、そんなことッ・・・・!」

私は首をぶんぶん振って否定した。私にとって、雨が学校に―他の

人と関係がないことは凄く気がかりであったし、そんな雨をどうにか

して学校に行かせられないかと、私は思案を巡らせてもいた。

しかし雨は、学校に行くと、自分から決断してくれた。この事実は、

私が最も望んでいた結果であり、同時に待望だった。

「・・・・・・ホント?」

自信なさげに俯きながら雨が尋ねて来る。私はそれに「ええ」と首肯

した。

「―そうです!」

「? なんですか?」

「雨の学校生活が成就するか、私が占って差し上げます!」

「・・・・・そんなことが、出来るんですか?」

「もちろん!」

首を縦に振って私は首肯した。そしてポケットから、紐で括った

タロットカードの束をテーブルの上に出した。

「それってこの前―」

雨が言いかけた所で私は咳ばらいを一つした。そこには・・・・・触れて欲しく

なかったから。

「で、では―これから、雨の学校生活がどのようになるのか、占ってみます」

「今度は・・・・ちゃんと成功しますか?」

不信がるように目を細めて私を見る雨。

「だだ、大丈夫デスヨ!・・・・・・・多分」

落ち着いて、無心で、心を鎮めて・・・・・・・。

心中で何度もそう唱えてから、私はテーブルのタロットを雨に差し出して、

「では、雨、頭の中で占いたい事を念じながら、このタロットカードを

四回、切って下さい」

私が微笑して促すと、雨はリボン結びされた紐を解き、ぎこちない動作で

ゆっくりとカードを切り出した。今回行うのは、『スクウェ・アヴォウド法』と呼ばれる魔法少女のタロット占いの一種で、占い学―私が専攻している魔法―の基本実技である。やり方は至ってシンプルで、占う対象者がカードを切り、

所有者が裏返しになったカードを二枚引くというものだ。

「終わりました」

「では、束を裏返しに置いて下さい」

恐る恐ると言った様子でカードの束をテーブルに置く雨。

緊張しているのか、険しい表情になっている雨の顔を眺めていると

何だか可笑しくなって、私はくすりと、笑いを零した。

「なんですか?」

若干不機嫌そうに尋ねて来る雨に、私は「いえ!」と慌てて首を振った。

束の方に視線を落として、私は震える手でカードを二枚引いた。

私も・・・・・・ひとのことは・・・・・・笑えなかった。

むしろ私の方が、雨よりも何千倍も緊張していた。

急に自身が無くなって来る―これで合っているのだろうか。

ダメだダメだ―二回首を振って、私は不安になる気持ちを掃った。

「では・・・・・・引きます」

声を低くして言ってから、私はカードを引こうとした、すると、

雨が「ちょっと待ってください」と声を掛けて来た。

「どうか、しました?」

「これ・・・・・ただの占い、ですよね・・・・・?」

「えっ?・・・・ええ」

私がそう言うと、雨は苦笑し、上目遣いに私の顔を見ながら、

「なんか・・・・・爆発とか、起こりませんよねぇ・・・・・」

「・・・・・・えっ、爆発??」

どうして雨がいきなりそんな事を私に尋ねて来るのかと、私は

首を捻った―あぁ、そういう事か、雨は、私が急に声のトーンを落としたのを

少し、怖がっているんだ。ただでさえ雨は、先日の魔法少女同士―エディお姉様

とフレンシップーの戦いを目撃しているから、彼女の『魔法』に対する考えが

『危ないモノ』『怖いモノ』に変化しているんだ。

私は納得した後、彼女を安心させようと笑みを作って、

「別に何も起こりませんよ」

「でも―」

「これは単なる占いで、言ってしまえば、雨が普段目にしているような

星座占いと、大して違いありません」

自分の最もマシに行使出来る魔法で、少々自虐的ではあったが―

雨を不安にさせないためだ。背に腹は代えられないし、何より

代えるべきではない。しかし、

「じゃあ―なんで怖く言ったんですか・・・・・」

まだ納得がいかないと言った感じに唇を尖らせる雨。

私はそれに、雨以上に唇を尖らせて、言った。

「だって・・・・・雰囲気出したったって、良いじゃない、ですか・・・・」

それを聞いた途端、雨は可笑しそうにくすっと笑った。私は首を

傾げたが、彼どうして笑ったのか、雨は教えてはくれなかった。

それから私はコホンと咳払いして、改めてカードを二枚引き、裏返しに

伏せた状態で丸テーブルに置いた。

「では・・・・・」

単なる占いだと雨には言ったが、やはり、雨の将来に関わる事。

緊張して、カードを表に返そうとする指先がぷるぷると痙攣していた。

深呼吸をして何とか情緒を落ち着かせ、私は、カードを表にひっくり返した。

向かいに座った雨が、真剣な顔つきでカードの絵柄を覗き込んでくる。

「これは・・・・・どうなんですか?」

雨が私に尋ねた。先ほどの私同様、低く、暗い声音で。

私はカードを掌で示しながら、説明した。

一枚目―戦車が描かれたカード。意味は、成功・独立・開拓精神。

二枚目―力と書かれたカード。意味は、強固な意志・実行力・潜在能力の開花。

説明し終えると、雨は瞼を瞬かせ言った。

「じゃあ、雨は学校生活・・・・・だいじょうぶってことですか?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・マギコ?」

「―ふぇッ⁉」

「どうか、しました?」

「ど、どうして?」

「・・・・・・・・・ううん、やっぱりいいです」

雨はそう言い残すと、キッチンの方へと向かって行った。

時計を見るともう五時を軽く超えていて―夕飯時だった。

私は丸テーブルに並んだカードを見つめて、ふと、不安に想った。

でも・・・・・いいえ、気にし過ぎです。

「雨」

キッチンで野菜―貰い物と思われる―を切っている雨に声を

掛けると、彼女は不思議そうに首を傾けていた。

「はい?」

「・・・・・ご夕食の準備―手伝ってもいい、ですか?」

「・・・・・はい」

雨は優しそうに微笑んで返事をしてくれた。


私が雨に行ったタロットカード占い―スクウェ・アヴォウド法。

私は気が付いた。引いたカードを返している途中に。

タロットカードには元々、正位置―本来の意味―と、逆位置―もう一つの意味―が存在し、スクウェ・アヴォウド法は、占い対象者を正位置・・・・・・・・

・・・・カード所有者を、逆位置で占う方法、だと。


『戦車』の逆位置―挫折・劣勢。

『力』の逆位置―甘え・無気力。


その時の私は、ただの思い過ごしだと―信じたかった。

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