紅いマギカは企みを巡らす。

―魔法少女本部〈組合〉書物保管室―


其処は魔法単語、ステッキの扱い方、魔法少女の起源・・・・・その他魔法少女に関する総ての文献を記した書物を納めた部屋である。

中には古来、それこそニンゲンと呼ばれる種族が誕生する以前に書かれた

書物も存在し、部屋はそれ故―〈組合〉本部の地下深くに存在する。

魔法少女―エディは其処へと続く廊下を、カツカツとヒールを鳴らして

歩いていた。やがて部屋の扉の前にたどり着き黄土色の取っ手に手をかけ扉を

開けた。室内には本棚が等間隔に並べられており、分厚い書物が、無造作に

積み上げられていた。しかも絨毯を敷いた通路にも―本が散乱。

これでは本棚の存在価値がない。しかし、これは当然の結果であった。

最近は印刷技術の普及で貴重品だった本の複製が進み、わざわざこんな所に

足を運ばずとも中身を読むことが出来るし、数々の文献を保管する部屋だけ

のことはあって、部屋は信じられない程広い―だけど立ち寄る魔法少女がいない。従って此処を掃除しようとする掃除係もいない。

本が荒れたり埃が溜まるのは・・・・・当然の結果であった。

それでも、此処に来る魔法少女も・・・・・存在している。

「アリカ姉様」

エディはその物好きな魔法少女の名を口にする。すると山積みになった

本がもぞもぞと動き、中からその姿を現した。

身長痩躯の身体に整った顔立ち、それに―燃える様に紅い髪。

エディの姉にして、今現在最も魔法に長けた魔法少女―アリカだ。

「だれぇ? 折角気持ちよく寝てたのにぃ」

眠たい瞳を擦るアリカに、

「書庫は寝る場所ではありません」

と冷ややかな口調で言うエディ。

「おっ、なんだエディか」

「姉様、お話が・・・・・」

「今忙しいから後でねぇ」

エディの言葉を遮り、あくびを一つし、再び眠りに落ちようとするアリカ。

「マギコのことです」

「・・・・・・・・・」

エディの一言で、アリカは動きを止めた。

「彼女は引き続き・・・・・・〈奉仕〉を続行する、と」

「ふぅ~ん、わざわざ報告しに来たの? ご苦労だねぇ」

微かな灯りの下、アリカはからかう様に笑った。

「姉様、貴方が何を企んでいるかは知りませんし、詮索もしません。

ですが・・・・・それがマギコのとって不利になることであれば・・・・」

「どうする? わたしを裁く?」

「・・・・・・・・」

「魔法少女クビになった可愛い妹を助けたわたしの温情っての、

エディちゃんにも解って欲しいなぁ~」

「貴方は最初から最後まで優しくはありません。アリカ姉様」

「うわぁ・・・・・厳しい御言葉・・・・・」

アリカが微笑する姿を、エディが睨みつける。

「だいじょうぶ、これは全部マギコの為にやっていることだから。

エディは何も心配することはないよ」

「信じて良いのですか?」

「もちろん! と、言いたいところだけど、どうせ言っても信用しない

んでしょ?」

「・・・・・・・・・・失礼します」

エディは踵を返し、書庫を後にしようとした。すると―

「ねえエディ、魔法少女ってさぁ・・・・・・一生の内に何人のニンゲンを

助けられると思う?」

後ろからアリカがそんな質問をしてきた。それに対しエディは、

「魔法少女はニンゲンを助けるのではなく―あくまで『助力』するだけです」

と、きっぱりと言い捨て、部屋を出て行った。

「やっぱり、エディはそういう子、だよね・・・・・・」

アリカはそう呟くと、本を顔の上に載せ、再び眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る