第十八話 第二の殺人ガチャ

 警察けいさつっていうのはさ、邪魔じゃまなものだね。

 必要ひつようだし便利べんりな時もあるんだけどね。

 でも、最近さいきんの私にとっては、邪魔そのものだよ。

 勘弁かんべんして欲しいよね。


—— 鉄格子てつごうしの檻の前

 私は、その中にいる少年しょうねんに向かって語りかける。

 見開いた目、こわばった表情ひょうじょうで私をつめている。

 檻の中の少年は、西高の制服せいふくを着ている ——


 私の”ゲーム”を開催かいさいするにはさ、安定あんていした場所ばしょが必要なんだ。

 警察みたいな、無粋な邪魔者に来られては、私の考えいて準備じゅんびした”ゲーム”が台無しになってしまうだろ?

 そんなことになったらさ……私はとても気分きぶんが悪いよ。


 計算外だったのは、”死神しにがみガチャ”の”プレイヤー”がおもったよりはや発見はっけんされたことだよ。

 私はこの”新作しんさくゲーム”を試したくてさ、ウズウズしてたんだけどねぇ。

 警察の奴らが、私の”ゲームフィールド”に居座ってしまってね。

 あれじゃ準備がままならないよ。

 仕方しかたがない。

 場所を変えるしかないよね。

 そこで見つけたのが、この場所さ。

 いい地下室ちかしつだろ?


—— 壁と床は薄く湿り、赤茶あかちゃに汚れ、くすんでいる。

 それはサビなのか泥なのか汚物おぶつなのか、判断はんだんできない ——


 ただ場所を変えてもさ、警察のヤツらに来られてはね。

 面倒めんどうだろ?

 だからアイツらの動きがりづらくなるようにさ、する必要があるじゃないか。

 君もやってるあのゲーム、≪ギルドラ≫ってあるだろ?

 あんな≪ゲーム≫より私の”ゲーム”の方が面白おもしろいけどね。

 とにかくあの≪ゲーム≫をね、利用りようすることにしたのさ。

 私はゲームやコンピュータには詳しいんだよ。

 その内部構造も含めてね。

 ちょっと手こずったんだがね、≪ギルドラ≫のサーバシステムに入り込むことが出来できたんだ。

 そこから先は楽しい作業さぎょうさ。

 まずは、私の考えた新キャラクター≪首無し[SSR+]≫くんをね、データベースに追加ついかして3Dのモデルデータもリソースに入れておいた。

 ≪首無し≫くんをどれくらいの強さにするか悩んだんだけどね、既存きそんのキャラより極端きょくたんに強くするのも、なんだか違うなと思ってね。

 みんなバグじゃないかとかさ、運営うんえいのミスじゃないかとかい出しそうじゃないか?

 なんでね、最強さいきょうではあるが極端に強すぎない。

 みんなに愛してもらえるようにね、最強の攻撃力と微妙びみょうな打たれ弱さ。

 そういうパラメータ設定せっていにしたのさ。

 プレイヤーには、色々考えて感じて欲しいからね。

 君もわかっているとは思うけど、私はちゃんと考えているんだよ。

 そして、出現位置は"死神ガチャ"を開催したあの工場さ。

 お気に入りの場所だったのにね。

 残念だよ。


—— 少年の目からは、恐怖きょうふを感じる。

 「なんなんだよ……おまえ……」と小声こごえで言った ——


 あー、そうそう。

 さけんでも無駄むだだし、この”ゲーム”をクリアしない限り、君はそこから出れないんだ。

 逆に言えばね、”ゲーム”をクリアしさえすれば、君はそこから出れる。

 その点は保証ほしょうしよう。

 私は”ゲーム”に対して誠実せいじつであり、真摯しんし態度たいどでのぞんでいるのだよ。


 私はね、≪ギルドラ≫のサーバシステムへの潜入せんにゅう成功せいこうしたろ?

 そこでさ、みんなの課金記録のデータをね、入手にゅうしゅすることができた。

 君は、その年齢ねんれいにしては、随分ずいぶん課金かきんしているね?

  月に十数万円も課金でガチャをしているじゃないか?

 どこからってきた金だい?

 この金は?親の金か?

 まぁ、どうでもいことだがね。

 そんなガチャ好きの君に、ピッタリの面白い”ゲーム”だ。


 さて、”ゲーム”の内容ないようについて説明せつめいしよう。

 床にケータイが置いてあるだろ?

 それを起動きどうしてみたまえよ。

 残念ざんねんながら、そのケータイはSNSや電話でんわはできない。私のサーバシステムとしか通信つうしんできないように設定されている。助けを求めようなんて、無駄なことだ。

 ”ゲームクリア”に集中しゅうちゅうしたまえ。

 さて、起動してみてくれ。

 ホーム画面がめんにある≪ギルドラ≫を起動だ。

 さて、それは私が入手した≪ギルドラ≫のソースコードから創り出した”ギルドラ死神くんエディション”だよ。

 できるのは”ガチャ”のみだよ。

 そのガチャで[SSR+]カードを引き当てれば、その牢屋ろうや電子でんしロックは解除かいじょされる。

 簡単かんたんなことだ。

 だが問題もんだいがある。

 君の所有しょゆうするクリスタルはゼロだ。

 だから電子マネーをチャージして、クリスタルを購入こうにゅうしないといけない。

 そのための電子マネーカードなんだがね、その部屋へやに置いてあるんだ。

 君の前にある黒い布をね、どけてみてくれるかい?


—— 少年の前には、何やら箱状のものに黒い布がかかっている。

 少年は、布を取りはらった。

 「ウワア!なんだよ、これ!!」

 悲鳴ひめいに近い叫びをあげる。

 アクリル製の二つの虫カゴ。

 一つには百匹はいようかというゴキブリの成虫せいちゅうが入っている。

 もう一つには数十匹の大きな蜂。オレンジと黒の禍々まがまがしい柄をしている。

 オオスズメバチだ ——


 その虫カゴの中にね、電子マネーカードは入っているよ。

 それぞれに一万五千円ずつだ。

 どちらから開けてもいい。

 君の好きにしたまえ。

 制限時間は3時間じかんだ。

 3時間後にはね、”死神くん”をその牢の中にはなつよ。

 ”死神くん”の紹介しょうかいは、まだだったね。

 

—— 鉄格子の前、鉄製てっせい骸骨がいこつが、死神の鎌をたずさえて立ち尽くしている ——

 

 さて、”死神くん”。

 技を見せてあげなさい。


—— 私は、死神くんに向かって、ケチャップのボトルを投げる。

 死神くんの目が赤く光る。

 キュイーンというモーター音を響かせて、目にも止まらぬ速さで鎌を振るうとボトルを両断りょうだんする。

 空中くうちゅうにケチャップの赤が弾け飛ぶ ——


 よくできてるだろ?

 3時間の間に脱出だっしゅつできなければ、”死神くん”と対戦たいせんしていただくことになるね。

 ”ゲーム”のルールは理解りかいできたね。

 それでは、楽しんで。

 ゲーム・スタート。


—— ”死神くん”の前に置かれた [03:00:00]と赤くかがやくデジタルウォッチ。

 そのカウントダウンが始まった ——


「なんなんだよ!これ!ふざけんな!」

 少年の絶叫が響く——

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