第十話 マルチプレイ

 俺は≪ギルドラ≫を起動きどうすると【マルチプレイ】を選択せんたくつづいて【仲間なかま募集ぼしゅう】をタップしてゲームを立てる。

 しばらくすると≪ウダ≫≪ヒル≫≪ドク≫とプレイヤー名と、それぞれのアバターが表示ひょうじされる。≪ボイスチャット≫をオンにすると、俺はベッド脇の机に転がしておいたワイヤレスイヤホンを慌てて装着そうちゃくする。

「おう」「うーす」「おうよ」

 ゲーム内のボイスチャットで、あいつらのこえが聞こえる。

「ウッス」と俺も声をかける。

 ボイスチャットでは、イヤホンが必須ひっすだ。ケータイのスピーカーから音を鳴らすと、マイクとスピーカーが近くてハウリングしてしまう。

「やろうぜ。マツ、始めろよ」

 宇田川うだがわうと同時どうじに、やつのアバターが右の握りこぶしを作る。

「OK」

 言うと、俺は【ゲーム開始かいし】をタップ。

【通信中……※電波でんぱいところでプレイしてください。通信異常でゲームが終了しゅうりょうする場合ばあいがございます】

 とシステムメッセージが表示される。この間、お互いのケータイ端末たんまつとゲームサーバでデータがやりとりされて、ゲーム開始の準備じゅんびがされる。ボイスチャットから、だれかが姿勢しせいを直しているのか、ゴソゴソという音が流れる。

【—— ≪首無し[SSR+]≫への挑戦ちょうせん ——】

 とウインドウにメッセージが表示される。

「キタ!」と宇田川の声。俺もベットから身をこし、部屋へやのどこかに現れたであろう≪首無し≫を探して、ケータイのカメラを向ける。

 ARゲームであるギルドラは、自分じぶんのいる場所ばしょにモンスターが現れる仕様しようだ。いつもであれば強そうなドラゴンや、モンスター、勇壮ゆうそうなキャラクターが現れる。


 だが、いつもとは違った——


「うげ!」「気持ちワル!」「グ……」と宇田川、蛭田ひるた毒島ぶすじまの声がボイスチャットから流れる。

「何だコイツ……」俺もおもわず声を上げた。

 俺たちの前に現れた敵は、首の人間にんげんだった。身体しんたいに西洋風の騎士鎧でも身につけて入ればファンタジーゲーム感はあるが、どういうわけか工場こうばの人が着ているような作業着さぎょうぎを着ている。その作業着の襟、肩、胸元むなもとは血であろう黒ずんだ赤に染まっている。右手みぎてには武器ぶきなのか死神しにがみのような鎌。

「何だこりゃ?ホラーゲームかよ……」と宇陀川うだがわ

 ケータイの画面がめんに現れた、俺の部屋に首無しの人間がいる映像えいぞうはコンピュータの作り出したものと解っていてゾッとする光景こうけいだ。

 その首無しが、ゆっくりとしたモーションで動くと画面にメッセージウインドウが表示される。

【よくぞ、私をつけ出した。冒険者達よ。さぁ、心ゆくまで戦いを楽しもうでは無いか】

 これは、いつものかくれキャラ(シークレットモンスター)のセリフパート。だが、ファンタジーキャラでは無いリアルな首無しが、緩やかに動いているのは気持ちの良いものでは無い。セリフに続いて、倒した時の報酬ほうしゅうが表示される。

打倒だとうボーナス 全員ぜんいん[SSR]以上確定ガチャチケット】

「うお、マジかよ!」「スゲ!何それ」

 俺、宇陀川、蛭田、毒島が口々くちぐちおどろきの声を発する。こんなハイレベルな打倒ボーナス見た事が無い。れはこの戦いに参加さんかした全員が、活躍かつやく如何どうを問わずにもらえるボーナスだ。打倒後に手に入るガチャチケットはレア度[SSR]以上のカードが出ることが確定かくていとなる。

順位じゅんいボーナス 

1位 クリスタル x 300

2位 クリスタル x 100

3位 クリスタル x 50

4位 クリスタル x 30】

「こりゃ、かなりのもんだな……」

 俺は唸った。通称つうしょう≪石≫とばれるクリスタルはステージクリアなどで入手にゅうしゅにできるが、主な入手ルートは≪課金かきん≫。このクリスタルを使ってレアガチャやコンティニューを行うことができる。クリスタル1個の購入価格が100円なので、1位で三万円相当か。ギルドラの世界せかいランキング一桁ひとけたに入ったこともある俺でも、こんなの見た事が無い。

【どうだね?私に挑戦するかね?】

 緩やかに腕を振り、首無しの前に黒い半透明はんとうめいのウインドウとメッセージが表示される。

「報酬スゲーじゃん。やるだろ?」「やるしかねぇべ?」と蛭田、毒島。

「やるよな、マツ?」と宇陀川。

 複数人でのマルチプレイはゲームを立てたホストにゲーム開始の決定権がある。俺の画面には【はい】【いいえ】という二つのボタンが表示されている。

 さて、どうするか——

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