02-6 下着も……ずれてないですし

 翌朝目隠しを外してやると、陽芽ひなめは抱きついてきた。


「お兄様。素敵な放置プレイでしたわ。もう夢のよう」


 ――そりゃ夢のようだろ。てか夢だろ。偉そうなことを言ってたが、横になったらすぐ、のんきにすうすう寝息立ててたもんな。まだ子供じゃん。


 伊羅将いらはたはひとりごちた。


「あの……眠っている間に手枷が外れていましたけれど……」


 潤んだ瞳で、陽芽に見つめられた。


「もしかして寝入ったわたくしのことを……お兄様が……」

「ああ。かわいかったよ」


 嘘をついた。実際はかわいそうだから外しただけだ。寝ている間は悪さもしないわけだし。


「で、でも……特に体には変化がないような。下着も……ずれていないですし」


 自分の体を撫で回している。


「SMの道はだな、ストレートの人たちのように単純なものじゃないんだ。寝ている間になにをされたかわからない。触られたのか、キスされたのか。それとももっと別のことか、とか。そういう想像が、ふたりの精神的つながりを緊密にするんだ」


 口からでまかせで、テキトーな嘘を並べ立てた。どうでもいいと思っているから、いくらでも口をついて出る。


「ああ……」


 陽芽は甘い吐息を漏らした。


「お兄様を初めてのパートナーに選んで大正解でしたわ。またお願いしますわね、プレイを」

「ふざけるなっ」


 わざと大声で怒鳴った。


「お……お兄様」


 びっくりしている。


「奴隷の分際で、ご主人様に意見できる立場だと思っているのか」

「そ、それは……その……」


 瞳を伏せた。もじもじしている。


「気が向けばまた調教してやる。それまでは、おとなしく勉強していろ。わかったな」

「は……はい……」

「わかったらもう行け。女子寮に戻ってシャワーを浴びろ。すぐ授業だ」

「はい、お兄様……ご、ご主人様」


 ――これでもう、無茶はしないだろう。


 どでかいバッグを抱えて裏庭を歩み去る後ろ姿を眺めながら、伊羅将は頭をかいた。

「それにしても、バッグがパンパンになるほどSMグッズを詰めてきたのか。とんでもない十二歳だな」


 まだまだ「とんでもない」ことが続きそうで、嫌な予感に思わず溜息が漏れる。

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