「色」をテーマにした難しい世界観

所属する国によって異なる三つの「色」を持つ世界に生きるファンタジックなお話。

特徴としては、作品の形式上、設定の把握が困難な事です。この点は分かりにくさでもあり、「読者が全てを知る必要はない」というのも真実であるように感じます。

いずれにせよ、設定開示の少ない序盤では読者は見守るしかないです。
繰り返し何度か読ませていただいてるのですが、
今の所、象徴的でありながら感情的な主人公の主観が美しい文章表現と相まって、読むたびに癖になります。

主人公の、一見おとなしめで振れ幅の大きいキャラクターも良いですね。読者に対する語りかけと日記内の描写がわりとかけ離れているのは何か今後の展開に繋がっているのでしょうか。

あと、「色」に与えられた「意味」にも注目ですね。
彼女の主観なのか、世界に共通する認識なのか、おそらく後者が正しいのだと思います。
一方で、主人公が自身に対して感じている「青」が「寒色系」の感情に偏っているように感じます。
おそらくこれは青い七面鏡のソルケントヴィードの事と深く関係してるのでしょう。今後のさらなる描写が待たれます。

青といえば、主人公スーラ=トーラの名前も象徴的です。
スーラと言えば、新印象派の代表的な画家ジョルジュ・スーラが想起されますね。
新印象派の画家が用いた点描画という技法は、キャンバスに並べられた複数の「色」の点を視覚内で混色させ別の色に見せるというものです。同じく「色」を用いた環境に根ざす、この作品とも何か関係があるのでしょうか。

ジョルジュ・スーラの点描画は「色」を科学的に用いて絵画表現を行うものですが、当作品の「色」は人間の内側に根ざす感性を描いているようで、対極に位置するようです。

一方で、新印象派の画家も後期になるにつれ、科学的知見よりも作家の感性に基づいて点描したと聞きます。

ちなみにジョルジュ・スーラの作品は「グランドジャット島の日曜日の午後」が有名かと思われますが、
僕が好きなのは彼のもう一つの代表作「ポールアンベッサンの満潮時の外港」です。
この作品、絵自体も点描画が用いられている事もさながら、額縁にまで作者本人による「点描」が施されているんですよね。

作者の「色」に対する執念が伝わってくるようです。
これもちなみになんですが、この額縁の色、なんと「青色」なんですね。

もしかして他のキャラクターも何か意図のある名前だったりするのでしょうか。
その辺の美術の知識は寡聞にして乏しいので、
正直話の設定も半分理解できているか怪しいですが、
楽しく読ませていただいてます。