23.

 千尋は、先輩たちの好意に甘えてまだなんとか陽のある内に大多屋に到着する。

「いらっしゃい! って千尋か。最近、久しいけど忙しいのかい?」

 親父さんが元気に出迎えてくれる。

「こんばんは。正直、今日もこんなに早く帰れない身分なんですけど、先輩方の好意で帰してもらいました」

「そうかいそうかい。あの子は幸せもんだ」

 お袋さんも明るく出迎えてくれた。

「はいよ、いらっしゃいって、あんたか」

「こら、明良。せっかく少ない休みに会いに来てくれた人にそんな口に聞き方あるかい」

「はいはい、お母さんは黙ってて。わたしらにはわたしらの世界があんのよ」

「口が減らない娘だこと。少しは、千尋ちゃんの慎ましやかさを見習いなさい」

「わかったから。千尋、部屋に上がってて」

「おう」

 なんとなく、大多家に押されながらも居住部に入り部屋に入った。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを取り去る。そのまま明良のベッドに腰掛けた。そのまま、ベッドに横たわる。

 ふと気が付くと、いつの間にか寝ていたようだった。

「起きた?」

 明良は机で、読書をしていた。

「どれくらい寝てた?」

「三〇分ってところね」

「そうか、すまん」

「それは、いいんだけど。事件、もしかして片付いたの?」

「一つ片付いたというか、片付けられた。でも、まだ終わってない。もしかしたら、今が一番緊張してるかも知れない」

「それなのに、帰ってきてよかったの?」

「ああ。オレの仕事は犯人捕まってからだし、な」

「捕まってないの?」

 しまったと思った。

「ああ。これ以上は捜査機密で言えない。危機は去っていないから、まだしばらくは行動自重してくれ」

「うん……」

「最近、眠れてるか?」

「え、うん、ううん」

「そっか」

 後藤田に狙われてるかも知れないというだけで、不安定になるのは当たり前だ。自分の心に大きな傷を残した相手なのだから。

 本当は、後藤田が殺されたと言いたいが、真犯人の狙いがそれた確証はない。むしろ、後藤田が死んだことにより、日常に戻ったところを狙う。それぐらいはしてきそうだと思った。

「だから、最近は薬を飲んでる。でも、もうなくなりそうだから、明後日にでも病院に行こうかと思ってるんだ」

「気をつけろ」

「うん、家の前からタクシーで行くよ。それなら安心でしょ?」

「そうだな」

「じゃあ、ご飯食べる?」

「んー。そうさせてもらおうかな」

「あいよ、今日はなに食べたい?」

「世界の明良ちゃんスペシャル」

 なんか、妙にクセになる味だ。たまにしか機会がないと、それが食べたくなる。

「お、いいね。気に入ってくれたようで嬉しい」

「おう」

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