何回出しても止まらない下ネタ(前編)

「ふふっ……。アンポンタンって入れ替えると……。ふふっ」


「世も末ね」


「あんたが言うなよ」


〜〜


「渡辺くん。ちょっといいですか?」


「ん?」


公園の鉄棒で遊んでいたら、見知らぬ女性に声をかけられた。


身長は百五十くらいで小柄。黒髪ポニーテール。ジャージ。一見この広い公園のランニングゾーンに来た普通の女性だ。だけど。


何で俺の名前を?


「ああ。申し遅れました。私、外木場安実という名前です。どうぞよろしく」


「外木場さん」


「外木場です」


「何の用事かな」


「実は、花上野乃さんの件でご相談が」


「失礼します」


俺は足早にその場を立ち去る。


しかし、回り込まれてしまった。どうやらレベル差があるらしい。


「待ってください。話の途中です」


「いやごめんなさい。俺、花上さんアレルギーなので」


「恋の病ってやつですか」


「全然違いますね」


しかし花上さんは喋らなければ、俺だって惚れていたかもしれない。喋った場合ただの貧乏な妖怪下ネタ撒き散らしだけど。


「……で、花上さんの知り合いですか?」


「知り合いという言葉が適切かわかりませんが、まぁそこまで親密な仲ではないことだけは言えます」


「微妙に刺さる言い方しますね……」


本人が聞いたら泣いてしまいそうだ。それか、「濡れちゃう!」みたいなこと言って誤魔化しそう。


「単刀直入に言います。あの、花上さんは多分、あなたのことが好きです」


「お断りします」


何の思考の入る余地もなく、自然とその言葉が出ていた。


「どうしててですか?花上さんは美人で顔が可愛くてお綺麗なのに」


「顔しか褒めるところないんですか」


「あとは語彙が豊富」


「一つのジャンルに偏ってる気もしますが……」


基本的にはバカだし、あの人。


「あの、一応訊きます。どうして花上さんが俺のことを好きだと?」


「だって、花上さん、いつもいつも、あなたの名前を呼びながら、早く来ないかな。早く来ないかな。って呟いてますから」


「それ違います。絶対」


外木場さんは首をかしげる。それと同時に、ポニーテールがフサァっと揺れた。これから先毎回ポニーテールが揺れたとか言うのは面倒なので、毎回揺れてるものとして考えて欲しい。スタッフからのお願いです。


「違うって、どういう」


「何だろう。お腹すいたとき、好きな食べ物の名前、食べたい食べたいって呟く人いるでしょ?そんな感じです」


「つまり花上さんは渡辺くんを食べたいと」


「それはこの作品において下ネタになるから絶対やめて」


「下ネタのつもりですが」


「……えっ?」


しまった。油断した。


警戒すべきだったのだ。花上さんの知り合いなのだから、この女も下ネタ使いに決まってるじゃないか。俺としたことが。


「その、マジで帰らせてください。そろそろお昼の情報番組を見ないといけないんです」


「情報なんてネットで検索すればいいんです。いまここで検索してもいいですよ。あっ、でもそれだと昨日寝る前に見たエロサイトが出てきてしまうから、ダメですよね。すいません」


「なるほど、長文タイプですか」


「巨乳」


「トリッキーだ」


花上さんで慣れていると思っていたけど、この人はさらに上をいく厄介な敵だ。何せ、先ほど回り込まれた通り、運動神経が俺を上回っている。ちなみに花上さんはよくコケたりスベったりしているので、多分走る系統はダメそう。


「とにかく、花上さんと渡辺くんがそういう関係になってくれればいいかなって私は思いますよ」


「絶対ありません」


「そうですか?若い男なんていつ狼になるかわからないです。……本当に」


一瞬外木場さんの表情が曇ったような気がした。これはワケあり物件だ……。


「とりあえず、店に行きましょう。花上さんが待ってます」


「待って、ツッコミとボケの数が合ってない」


「別にどちらから先に突っ込んでくれてもいいですよ」


「ねぇなんで意図的にその部分強調したんですか」


「いいから、行きますよ」


外木場さんは俺の手を掴み、強引に引っ張りだした。当然その力は強く、とても逆らえるものではない。


……約二週間ぶり、再びあの地獄に、いや、あれ以上の地獄に、赴かねばならないらしい。

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