オー●ー●ー● 【カクヨム版】

Alice-Q

第●章 幼稚戦記

001 サービス終了前

◆プロローグ◆


 西暦2138年。

 今から百数十年前の多くの人々が『どこ●も●●』や『タイ●マ●ン』が『未来●●●●』で買えると信じられていた時代。

 だが、悲しいかな。過去の人々の希望は打ち砕かれていた。

 国民的アニメと言われるまでに浸透した『ド●●●ん』は結局のところ作られることは無かった。

 それはさておき、数多に存在するDMMORPG。


 〈Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game〉の略称である。


 サイバー技術とナノテクノロジーの粋を結集した脳内コンピュータ網。

 あとよく分からないので省略。


 『YGGDRASILユグドラシル


 それは今から十二年前に日本のメーカーが満を持して、いや見切り発車で発売したゲームである。自信満々なのは最初だけというのは今も昔も変わらない。

 DMMORPGのゲームで自由度がとても広大なところが特徴だ。あと、色々とあるけれど説明するのが面倒なので省略。


 大人気のゲームとして多くのユーザーに遊ばれた。だが、それは一昔前までの話し。

 このバッカみてーなゲームにも最後の審判、じゃなかった。サービスの終了が訪れる。債務超過とか。問題行動で訴訟沙汰とか。著作権や肖像権の侵害とか。いろいろあったんじゃねーの。あと、社員の悪ふざけで多くのプレイヤーに多大な迷惑と常識を疑う様々な仕様の弊害とか。

 良くも悪くも有名になり、ろくなアップデートも出来ずにダラダラと続けたツケでも払わされたんじゃねーかと多くのプレイヤーが失望感に満たされた、かは知らない。

 こんなゲームでも固定ファンは多く存在し、長く愛されたのは嘘ではない筈だ、たぶん。

 そんな問題作でもあるユグドラシルの中でサービスの終了をゲーム内でかみ締めようとする物好きな者達が居た。

 ある意味、バカじゃね、お前らと。

 はい、プロローグ終わり。


 ◆ ● ◆


 ゲーム終了時を待つ間、周りを神経質そうに窺うのは白骨の骸骨。

 『ユグドラシル』というゲームでは高レベルモンスターに位置する『死の支配者オーバーロード』だ。

 見た目では分からないが様々な魔法を駆使し、アンデッドならでの特殊技術スキルを保有する。

 ただし、姿は化け物だが中身は一般人。

 『アバター』としてモンスターの姿を借りてゲームをプレイするプレイヤーだ。

 人間だけがプレイヤーではない。

 亜人種。異形種もプレイヤーキャラクターとして使用することが出来る。

 現在彼が居るのは『ナザリック地下大墳墓』という十の階層を持つ地下ダンジョンだ。その第九階層にある『円卓の間』にて他のメンバーの到着を待っていた。

「……この不穏な気配は何だろう……」

 プレイヤー名『モモンガ』は辺りを何度も見回す。

 ような気配を感じていた。

 円卓は四十一人分あり、今はまだ多くの空席が目立つ。

 人形でも置いて一人芝居でもしようかと思ったが恥ずかしくなって出来なかった。

 友達が居ない事がバレる、というわけではないけれど。

 一人なら見られたところで問題は無い。ただ、自己嫌悪に陥るだけだ。

「どうかしましたか、モモンガさん」

 円卓の一席に黒い不定形の化け物が居た。

 黙っていても身体を変化させる不定形のモンスターは『古き漆黒の粘体エルダー・ブラック・ウーズ』といい、高難易度のダンジョンなどに生息している。

 最強種の粘体スライムであり強力な酸を持ち、戦士系の武器を腐食させることから嫌われているモンスターでもある。

「……ヘロヘロさん。俺達、何度もこの場所でゲームの終わりを待っているような気がします」

「あれですか? ●●●●●っていう打ち切りになった小説のエンドレスなんとか」

「百年前の小説はあまり詳しくありませんよ」

「あれ、アニメ化された時も色々と不評を買ったらしいですね。その後の●●●とかは更に……」

 骨董品のような古いアニメの情報は様々な知識を得るのに必須なのだが、大半は無駄知識だ。だが、話しのネタとして蓄積する事はプロゲーマーとしては基本スキルのようなものだが、モモンガはそれ程、詳しくない。

「打ち切りと言うか、作家がモチベーションを無くしたんでしょう? そんなものはいくらでもあるとおもいますよ」

「『●●ナ●●』の続編……。結局、発売されずに作者はお亡くなりに……」

 時代的に今も生きている方がおかしい。

 大半の作家は鬼籍だ。

 ヘロヘロは●●系列の小説とアニメが好きなのだろう。可哀相に。

 この会社は売れるものしか出さず、すぐシリーズが中断する事でのちに有名になった問題会社だ。

 やたらと抱き合わせの限定版を出して貧乏人から金を貪り取り、コレクション性を理解せずに新装版ばかりを出して読者を混乱させる。

 老舗ブランド『●●文庫』は何度、装丁が変わったことか。

 作家ごとの著者別番号は毎回、リセットされ不ぞろいな文庫本が本屋に並ぶ事が数十年も続いた。

 売る為だ。の一点張りで大手の威光をひけらかすしか能が無く、後に勝手な改竄と当選者の水増しで何人か社員が自殺に追い込まれたような新聞記事があったはずだが、それは別の出版社か、電力会社だったか、とヘロヘロは自分の持つ過去のデータベースを検索する。

 彼はブラック企業に勤めているので会社の悪評は全て残している。

「……●●●店と●●社のことだったかな。大手は何でもするっていうイメージがあるから困ったものです」

「……ヘロヘロさん。現実リアルの暗い話題はやめませんか?」

 脱力していたヘロヘロの姿が歴戦の戦士風に変化していた。

「安易なゲーム化。百年後に残るのは不動の神話体系……。過去の作家が作り上げた作品は殆ど残っていないという現実」

 ライトノベルという一時代を築き上げた。だが、それは所詮はブームでしかない。

 最初はジュブナイル小説と呼ばれ、その後も様々な呼ばれ方をする。

 ヤングアダルト。少女小説。セカイ系。空気系。鬱系。泣き系。携帯小説系。なろう系。メフィスト系。

 長く続いたものは少ない。

「俺、西●●●作品は好きでしたよ」

「連載より書下ろしが安心します。雑誌が休刊されても打ち切りの心配がありませんから」

 人気作はもてはやされる。それは数十年経っても変わらない。だが、雑誌は少し毛色が変わる。

 長く続けるには読者に買ってもらわなければならない。

 その中で人気作家に連載させるのだが、それでも継続が困難な事がある。

 単行本化まで溜まる前に雑誌が休刊するとシリーズが止まる。

 西●●●も例に及ばず。

 数年立つと続刊すら絶望的になる。

 気がつくと別の会社で書き直された状態で発売されたりして当時の期待を裏切る事もある。

 読者としてはその時の勢いのまま読みたいのだが書き手は様々な事情に巻き込まれる。

 百巻超えの『グ●●・●●ガ』はアニメ化されて終盤のところで元気だった姿を見せていた作家が急死するという事態に。

 病気ならば誰にも文句は言えない。

 引き継ぎを用意できないシステムも問題ではある。

 ●●書●は更に大変だ。

 外国人作家の翻訳権でトラブルを起こすと続刊がいきなり打ち切りになる。

 あと、翻訳家の急死でも止まる。

 読者は完結まで読みたい欲求をいつも何かで裏切られる。期待するだけ無駄なのかもしれない。


 いつか書く詐欺。


 そのが十年後以上になると読む気すら消失している。だが、かつてのファンは読みはしないが小さく完結おめでとう、と言うだろうし、改めて読む者も僅かばかりは居る。

 時間が空けば熱心なファンは減るものだ。それは仕方がない事かもしれない。

 ブームはブームで大事な事もある。

 読者は完結まで本を買ってはいけない、という教訓をいつも持たされてる。

 未完の作品に貧乏人は金を出すことは出来ないから。

 昔から裕福層はごく一部だ。それは今でも変わらない。

「そういえば長大な『ペ●●・●●●ン』ってまだ続いているんですか?」

「二千巻までは出していたと思います。随分前に出版社は倒産しているでしょうから……」

 今の時代まで小説を出版している老舗は殆ど無いに等しい。

 紙媒体が廃れて古書店も多くが消えている。

 便利なデータベースで閲覧できるから、というのもある。

 劣化はしないが端末自体の寿命問題は引きずっている。

「百年前は1クールアニメのラッシュで盛り上がっていたらしいです。アニメが終わると原作本ごと沈静化するという事態が多かったみたいですね。第二期。第三期と続いているのはオリジナルアニメくらいのようです。というか、それが多い」

 予算の関係で長編アニメは作られ難くなる。だが、原作は完結している、という場合もある。

 アニメの方に比重が傾いている者には意外と気付かれない事実があったりする。

 原作を売る為の『お試しアニメ』と後年では揶揄されるのだが。きちんと完結した原作を悪く言う者は居ない。

 アニメ化せずに原作のみで頑張ってほしい、という意見ももちろんあったと思う。

 商売なので色々と戦略を練るのは仕方がない事だとヘロヘロは思う。

「完結した作品って多いんですか?」

「それなりにあるようですね。手ごろなものは5巻くらいですが、アニメ化される場合は似たラインナップがあるようです」

「似たようなタイトルが多そうですね」

 ヘロヘロにタイトルを見せてもらうと決まったパターンのタイトル名がたくさん出て来た。

 表紙の女の子の髪の毛が赤いのがやたら多いのも怪しい。

「同じところから出ているからってこともあるかも。大体パターン化されているので展開を読むのは簡単です。今でも通じる冴えない主人公。入学初日に謎の美少女と出会う。大抵は生徒会長か学園最強の何かです。トーナメントに参加して意味も無くキス。適当なボスっぽいものを倒してエンディング。合間に話数の都合で邪魔者が現れたりしますね。第二期は予算次第、という流れです」

 ファンタジーだと王国の窮地を冴えない主人公に救いを求める某国の姫がやたらと強かったりする。

 アニメ化すると分かるがヒロイン声優はだいたい同じ人。

 性格別に分けられるほどパターン化されているのではないかと思うほどだ。

 最後は主人公と結婚してエンドかもしれないけれど。と、実際に色んなパターンにまとめたページをモモンガに見せて解説するヘロヘロ。

 ゲームの中でも色々な情報のやり取りが出来るのも科学の進歩の賜物だ。

「……ヘロヘロさん。根が深いですね」

「年代別に調査していて夢中になっちゃって。時代の変遷を調べるのがマイブームなんです」

 時代と共に規制が強くなり、低年齢向けのものばかりが多くなった。中盤のアニメではいきなり打ち切られる事態もあったらしい。過酷な製作現場で間に合わなくなる事も少なくなかったとか。

 当然、ゆるいアニメばかりになってくれば高い年齢層の不満が溜まり、ゲームに没入する。

 自分でゲームが作れる時代になり、多くの者が参加する。その発展の中でオンラインゲームが台頭し、次に携帯端末のモバイルゲームが普及した。

 そして、現在はだった仮想現実という概念を本当の意味で現実に再現する事に成功していく。

 もちろん、創作の中で言及されてきた様々な問題も議論されてきた。

 それも十年経てば気にならなくなるのだから危機意識はあまり無いのかもしれない。

「ダイブしたまま異世界転移……。懐かしいネタですよね」

「その手の小説は十個ほど持ってますが、数が多いと廃れるのも早い。ただ、最初の火付け役は長く続く傾向にあるようです。その後のライトノベルは金字塔だけが残り、ブームに乗ったそれっぽいものはすぐ消えていく」

 特にアニメ化されてしまうと原作分が消費されて、小説の方が売れなくなる。

 尚且つ、アニメ終了と共に原作も打ち切られる事が多かった。

 売れる時に出して、終わったら切る。それが大手出版社の手法となっていたからだ。

「ああ、あとカードゲームの似たようなアニメが色々とありましたね」

 ルールはもちろん頭に入ってませんが、とヘロヘロは苦笑する。

 惰性で過去の作品を見ているとどれも似たようなものに見えてきて、なにが面白いのか分からない。

「ヘロヘロさんってアニメファンでしたっけ?」

 原作よりアニメの話しが多いので気になった。

 ファンタジー小説の多くは割り合い、ちゃんと完結まで書かれているものが多く、アニメ化される作品の方が少ないのではないか。

 たまたま未完の原作をつかまされてしまっただけかもしれない。

 期待している作品が止まれば失望感は大きい。それをヘロヘロは不満に思っているのかもしれない。あと、アニメ化すると原作の発売が遅れることはことだ。それは仕方が無い事だ。それに、モモンガの所有しているデータベースでは未完の作品は少ない。というか完結しているものしか読んでいない、とも言える。無理して長編を読もうとは思っていなかったけれど。

「説明文だけでは分からないのでいくつかは見ますよ。過去のアニメ動画は暇つぶし程度に見てます」

 暇つぶしにしては根が深い印象を受けた。相当、のめりこんでいるのではないだろうか。

「……いやまあ、原作全てをアニメ化しろっていうのは暴論ですね……。……すみません」

 どうやら、興奮した事に気付いたようだ。アニメや原作批判について謝罪してきた。

「俺に言われても……。とにかく、アニメがとても大好き、というのは分かりました」

 モモンガ達は『アインズ・ウール・ゴウン』というギルドで、構成メンバーは全て社会人。

 中には既婚者も居る。当然、子供たちと共にアニメも見る機会がある。

 モモンガは独り身なのでゲームのプレイ動画や情報収集サイトを見るのが多いのでアニメの知識はそれほど持っていない。

 ただ、多くのメンバーが共通で話題に上げるものがある。


 ●●キ●●。


 数十年も続いたシリーズもののアニメで今でも人気がある。

 ただ、どこまでシリーズが続いたのかは分からない。

「このシリーズは膨大ですからね。神話体系が作れるほどですよ」

「そうなんですか?」

「二百人以上は確実です」

 ネーミングし易い、という事もある。子供から大人まで大人気のアニメだった。

「シリーズを追うごとに保護者からクレームが入り、暴力的な描写が無くなって……。最終的には敵を倒せなくなるまで弱体化したような状態になった気がします」

 最初期は女の子が拳で敵を殴れたのに、後半は相手に触れることもままならないという。

 それが影響してオンラインゲームでも相手に触れる行為はハラスメント行為と取られるというありさまになっていた。もちろん、過剰な反応もあれば、ゆるい所もある。

 フラストレーションは18禁のエロゲーで発散する。

 今の時代にも多くのエロゲーが存在するのは童貞達の救いなのかもしれない。

 低年齢向けのアニメにアダルトな内容を入れろ、という暴論を言うつもりはヘロヘロ達にはない。ただ、迫力がほしかった。戦闘シーンがあるのに、と。


 様々なアニメ談義していると、それだけで残り時間が消費されてしまうので話題を変える。

 十二年ほど続いた『ユグドラシル』について。

 ヘロヘロ達のように現実リアルでの仕事が過酷過ぎて体調を崩しているメンバーが結構居る。それでもゲームをするのは他に娯楽がないからだ。

 異形種でプレイしている者達が集まり、ギルドを結成。

 このギルドの加入条件は異形種であることと社会人であること。

 最初は九人で始めたパーティプレイも今では四十一人になる。

 構成員は何万人ものプレイヤーが居るゲームの中では多い方ではないらしい。

「過去の小説はゲーム内に置いていますが……。あれらはどうします?」

「そのままでいいんじゃないですか? 消えても困らないものばかりですから」

 ナザリック地下大墳墓の第十階層にある『巨大図書室アッシューバニパル』には途方も無い数の『本』が収蔵されている。

 ゲーム内で使用するアイテムから単に読み物としての小説まで。

 データ化された小説やプレイ動画が持ち込めるのは他人と共有する為だ。

 施設を自由に使えることもユグドラシルでは可能としていた。

 元々は六階層までだった墳墓を十階層に改造したのもメンバー達だ。もちろん、簡単に出来ることではないけれど。

 課金によってデータの容量を買い、拡張していく。

 そうして作り上げたのが現ナザリック地下大墳墓であり、モモンガ達にとって失うのが勿体ない施設だった。

 サービス終了は思い出の詰まった施設とのお別れだ。悲しくないわけが無い。

「他の人は遅いですね」

「●●メールを送ってみたらどうですか?」

「運営どころか警察に捕まりますよ」

 心身ともに疲弊しているヘロヘロはブラックな発言をするので心配になってきた。というよりはかなり批判していたアニメ談義を思い浮かべる。

 ●●書店に恨みでもあるのか。

 出版社そのものには詳しくないモモンガは小首を傾げる。

 とにかく、ストレスを溜めている人間は扱いが難しい。特に悪に特化したメンバーが数人ほど居るので。

 いや、正確には『アインズ・ウール・ゴウン』そのものが悪のロールプレイをむねとする嫌われギルドだった。


 ◆ ● ◆


 自分達は異形種でゲームをプレイしている。

 このゲームの仕様ではPKプレイヤーキラーが出来る。

 モンスター以外のプレイヤーを殺すことで特殊な職業クラスにつけると言われているので、異形種狩りが横行していた時期がある。

 モモンガは最初期の頃からPKに遭い続け、ゲーム不信になっていた時代があった。それを救ってくれたのが世界最強の男と呼ばれる『たっち・みー』だった。

 彼に声をかけられ、仲間となる。

 同じように苛められている異形種達を引き入れて今のギルドが形成された。

 正義を重んじる『たっち・みー』も見た目では分からないが異形種だ。

 悪のロールプレイは言わば自己防衛の為に生まれたものだと言える。

 プレイヤー対プレイヤーは別に悪い事ではない。

 貴重なアイテムを巡って争う事も有り、拠点獲得の為の争奪戦もある。

 隠し職業を取得する条件がPKだったりする。

 有名なものだと『世界災厄ワールド・ディザスター』という職業クラスは『世界災厄ワールド・ディザスター』を持っている者を倒さないと手に入らない。


 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の構成メンバーは全て異形種。

 多種多様なモンスター揃いとなっている。

 異形種でプレイするのは人間種では得られない特殊技術スキルが色々とあるからだ。あと、戦闘に色々と有利だったりする。

 使いこなすのが難しいので玄人仕様とも言われる。

 大抵は人間種だが、選んではいけない規則は無い。

 人間種は森妖精エルフ山小人ドワーフなど。

 亜人種は小鬼ゴブリン豚鬼オークなど。

 大分だいぶんすればプレイヤーは人間、亜人、異形の三種類に分かれる。

 それぞれ細かい種族に分類すると700種ほどになる。

 魔法も豊富で魔力系。信仰系。精神系。その他の四系統。数としては6000個ほど言われている。

 そして、広大なフィールドを自由に駆け回れる。

 そんな膨大なデータを内包し、幾多の冒険を経たユグドラシルは今日で終わる。

 様々なアイテムなどに費やした課金の合計額は知りたくないほど膨大になっていた。

 公式からは新たなアップデートや続編の通知は無く、サービスが終われば過酷な労働が待っている。

「遅れました~」

 新たなメンバーが円卓の間に現れる。

 姿は桃色の粘体スライムだがプレイヤーでもある。この粘体スライムは『ぶくぶく茶釜』といい、三人しか居ない女性メンバーの一人だ。

 見た目にそぐわず指揮官を勤められるし、防御も厚いところから『粘液盾』と呼ばれている。

 現実の方では声優であり、以前はエロゲーの吹き替えもしていた。

 彼女の弟もギルドメンバーで異形種の鳥人バードマンで『ペロロンチーノ』という。

 薄暗い室内を明るく照らす光り輝く全身鎧フルプレートを身にまとう。

「メンバーが殆ど居ないじゃん」

「皆さん、忙しいですからね」

 手を振りつつペロロンチーノが現れる。

 見た目では分からないが、かなりの変態として有名でエロゲーをこよなく愛する。もちろん、モモンガも彼のコレクションのゲームをプレイしたことがある。

 健全な男子なので。

 数分後には世にもおぞましい化け物達がゾロゾロと席に着いていく。

「……何人かは来られないでしょうね」

 何年も来ていないメンバーも居る。

 中には引退していった者も。

 ずっとゲームで遊ぶ事はできない。それは彼らが社会人だから、とも言える。その中でモモンガはかなりゲームに比重が傾いている。

 だから来てくれたメンバーにとても喜んでいたし、来ないメンバーに対しては少し怒りを覚えているくらいだ。

 仕方がない事は分かっているのだが、気持ち的には不満があるのかも。

 最終的に集まったのは二十一人。残りは結局、ログインしてこなかった。


 モモンガ。

 タブラ・スマラグディナ。

 るし★ふぁー。

 ペロロンチーノ。

 ぶくぶく茶釜。

 餡ころもっちもち。

 やまいこ。

 弐式炎雷。

 武人建御雷。

 フラットフット。

 ベルリバー。

 死獣天朱雀。

 ク・ドゥ・グラース。

 エンシェント・ワン。

 獣王メコン川。

 あまのめひとつ。

 ぷにっと萌え。

 チグリス・ユーフラテス。

 たっち・みー。

 ウルベルト・アレイン・オードル。

 ヘロヘロ。


 他のメンバーは仕事で来られない者。引退した者。アカウントだけ残してゲームから遠ざかっている者など。

 およそ半数だが、来てくれただけでも喜ばなくてはならない。

 かつて栄華を誇った『アインズ・ウール・ゴウン』も時代には勝てなかった、ということかもしれない。

「……それほど寂しくは無いですね」

「二人だけなら寂しいでしょう」

「……俺は何度もような気がしますけど……」

「……おびただしいの怨念でしょう」

「メタ的に言えば……」

 と、ペロロンチーノが言おうとした時、姉であるぶくぶく茶釜の様子をうかがう。

 何故か彼女にような気がした。

「んっ?」

「姉貴はメタ発言は許容できる方か?」

「●●書店なら別に良いぞ」

「おお、それは心強い」

 というか、姉は●●書店に恨みでもあるのか。恨みが無い場合はメタ発言はするな、と怒るところだ。

「ここが●●社や●●館だったらどうする?」

「●●社でも構わない。大手に対して下手に出る必要は無い」

 中小企業や弱小企業をなめんな、コラ。と、小さくぶくぶく茶釜は言った。

 声優業も色々と大変なんだなと弟は思った。

「サービス終了まで後少しになりました」

 モモンガは言った。

 一番大事な事を話さないと円卓の間で終わりそうだと思ったからだ。

「残りのメンバーをギリギリまで待つことは諦めます」

 円卓に移動先を書いたメモ用紙を置く。

「皆さん。玉座の間に向かいましょう」

「異議なし」

 それぞれ頷いていく。

 何年もログインしていない相手にはそれぞれメールは送っておいた。それでも返事が無いのは寂しい事だが、仕方が無い。

 生きているのかさえ怪しい者も居るようだから。

 現実はそれほど苛酷な環境だ。だから、一概に責める事は出来ない。

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