人類の明日なき北海道再征服

北海道から人類が撤退した世界。氷河期の厳冬に覆われた大地では、フィンブルと呼ばれる新生物が息づいていた。

北海道を舞台に四人の少年少女が人間サイズのモンスターと戦うというあらすじですが、メインキャラ達のそれはあくまで「労働」というスタンスが現代的です。この辺りはSF的でもあり、文明出身者達が日々の生活の為にファンタジックな地へ冒険に駆り出されるというのが悲哀を誘います。
また主人公が自らの所属する社会に対してささやかな抵抗をしつつも、大意には従わざるを得ない状況は閉塞した心情描写に繋がっています。

作品内で特に注目するのは敵との遭遇シーンで、戦闘の大半が味方の肉体損壊か敵を虐殺する描写で埋め尽くされてます。
端から見れば建物に潜り込んでは雑魚敵を一掃し、ボスが出現すればボコボコにする残虐行為をしてるだけなのですが、主人公達も全員なんらかの特殊能力を持つので、ダンジョンで雑魚敵を倒す爽快感がありますね。
全体的にネガティヴな心理描写が続くのですが、それを塗りつぶす戦闘シーンが文章に迫力と夢を与えてます。

あと、効果として見逃せないのが『敵の弱さ』ですね。
いや、実際の敵味方双方の実力の強弱の事ではなく、作中の設定としてフィンブルが「倒されるべき敵」という位置付けなんですね。
彼らからしたら彼らなりの生活をしてただけなのに、突然やってきた化け物(主人公)に虐殺され、蹂躙される。チェーンソーで体を引き裂かれ、穴だらけにされ、皆殺しにされる。サンプルとして研究される。
フィンブル側も決して正義というわけではなく弱肉強食の世界のようなので、倫理的なものは感じません。むしろ出てきてはポコポコ殴られて死んでいく彼らには愛おしささえ感じます。その辺りで感じるのは、まんまRPGの雑魚キャラ狩りですね。
一度主人公達から逃げ果せるも、血痕から追跡されて仲間もろとも惨たらしく殺されたレッドキャップには、作者様の意図はともかく個人的にほっこりしました。

正直、ひたすら絶望に満ちた世界観で、彼らフィンブルの存在はゾンビ映画におけるゾンビのような「ある種の癒し」です。
例えばこの先人語を解したり、キャラクターが立つフィンブルが出たり煙草を吸ってても、その位置は揺るがないようにも思います。
作中におけるファンタジー要素はつまるところ彼らに収束してるわけですからね。

余談ですが、現時点で一番可哀想だと思ったキャラクターは一般的なフィンブルの強さの例えとして殴り殺されたライオンさんです。フィンブル研究のモルモットだったんでしょうか。

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