第25話 平和な休日


「たのもー」


「あ、ルイスじゃないっすか」


 本日はダンジョン探索はお休みだ。稼ぎも十分だから無理する必要はない。


 各自、自由行動。


 一人って気楽でいいよね。結婚という呪縛に縛られる奴の気が知れない。


「しっかし、相変わらず客がいねーなー」


 いくら町外れにあるとはいえ潰れないか心配になる。


「だからいつも失礼っす! あのあと冒険者にちゃんとなれたっすか?」


「ああ、お陰様でな。いまはCランクだ」


「あははは。来年あたりにそう言えるといいっすね。そしたらスピード昇格を祝って、オイラが旨い飯でもご馳走してあげるっすよ」


「よし、じゃあ早速昼飯を食いに行くか。もちろん奢りでな」


「ちょっと厚かましくないっすか! いくら冒険者なりたてで金欠だからって」


「なにをいってるんだ。お前から言いだしたんじゃないか」


 ギルドカードを取り出し、ビバティースの眼前に掲げる。


「は!? これどういうことっすか! 冒険者登録してからまだ一週間も経ってないっすよ! 上がってもEランクじゃないとおかしいじゃないっすか」


「そうか? 簡単に上がったぞ」


「Cランク以上は冒険者全体の二割にも満たないっすよ!」


「なんだよ大袈裟だな。それなら五人に一人もいるじゃないか」


「それは何年もかけた結果っす! いわゆる熟練冒険者っす。大体の冒険者はそこが最高ランクで生涯を終えるっす。Bランクになれるのなんて百人いて一人いるかどうかっすよ」


「それで今日は相談があってな」


「おいらの話はスルーっすか!」


「これな~んだ?」


 店のカウンターにドンと置いた。


「は!? また馬鹿でかい銀鉱石を……。いや、この輝き具合は少し違う――」


「さーてなんでしょう」


「マグネシウム? プラチナ? いや違う……。チタニウムでもないし。ドルトジウムかビルリン? それとも――」


 うーん、何をいってるのかさっぱりだ。しかしマジだよこいつ。語尾から”す”が消えてるし。まさか意図してつけていたのか?


 新たな発見。鑑定スキルを使うと僅かに光輝くんだな。どこがって? 歯だよ歯。あれで笑ったらピカッと爽やかに笑うイケメンに……。ならないな。出っ歯だし。ビーバーだし。


「それより人の所有物を勝手に噛むのはどうかと思うんだが」


 おもいっきり鉱石に歯をあててやがる。涎をつけたらわかっているだろうな。


「わかったっす!」


「正解を教えてやろう。だがしかし、その前にお前の見立てを答えてみろ」


「これはノンジウムっす! 超貴重なメタルじゃないっすか!」


「ああそうだ。これはノンジウムだ。でもそんなにレアなのか?」


「レアもレア! 超レアっすよ! 魔結晶の威力を何倍にも増幅させる効果があるっすよ! 強力な魔導具が作れるっす! いったいどうしたんすかこれ!」


 へー、そんな特別な効果がある石だったのか。ノンジウムね。初めて知った。いやー鑑定って依頼するとお金かかるのに得したな。


「いや、ちょっととあるボス部屋でね……」


「ドロップアイテムっすか!」


「まあ、ドロップといえばそうかな」


 天井が崩落ドロップしたんだけどね。瓦礫の中でも一際銀白色に輝いていたんだよなこれ。サッカーボールサイズのものを十個ほどアイテムボックスに回収してきたんだよね。


「う、売ってくれるっすか!」


「まあ、値段にはよるけどな。ビバティースには借りがあるし。珍しい物をゲットしたら売ってくれって言ってたもんな」


「あっ――。よく考えたら手持ちじゃ買えないっすよぉ……。なんでこんな超レアなものをしょっぱなから持ってくるっすか」


「いやそんなこと俺に言われても。あれだ。売ってからでいいぞ。儲けの一部を俺に払ってくれればいい」


「まじっすか!? いや、売り上げの五パーセントも貰えれば十分っす。残りはルイスに支払うっす」


「はあ、お前もう少しがめつくなった方がいいんじゃないのか」


「いやそれでいいっす。競売の手数料は普通はそんなもんっすから」


「そうか。なら任せたわ」


「明日の朝一で競売にかけるっす。絶対高値で売れるっす。なので明日の昼以降に来てくれればいいっす」


「わかった。それと他にも頼みたい事があるんだけど」


「これ以上レアな品は止めて欲しいっす! 持ってるだけで不安になるっす」


「ああ大丈夫だ。ちょっと調味料が欲しいんだよ」


「調味料っすか? 普通にその辺りで売ってないっすか?」


「いや、この王都で手に入る物の全てが欲しいんだ。少量ずつで構わない。いくら高くてもいいぞ。

手間がかかるだろうから買値は市場価格の二倍でどうだ?」


「それなら妥当っすね。わかったっす。朝市で同時に仕入れて来るっす」


「よろしく頼む」


「じゃあまた明日っす!」


「なにを言っている?」


「まだ何かあったっすか?」


「豪華な昼飯をご馳走してくれるんだったよな?」


「覚えていたっすか! しかも豪華にランクアップしているっす!」


「昇格祝いだから当然だろ」


「しかたないっすね~」


 なんやかんやいってビバティースは鼻歌混じりに店を閉めていた。さっきの件は結構な儲けになるのだろう。まあ、店を開けていても人来ないしな。


「ルイスなんか失礼なこと考えてないっすか?」


「いや、どんなものを食えばビバティースが破産するか考えていたんだよ」


「やっぱり極悪っす!」


「さて、何を食いにいくっすかねー」


「あ、兄貴!」


 ビバティースと歩いていたら声をかけられた。


「おまえ、すげー荷物だな」


 何段にも積まれた宙に浮かぶ荷物。声を掛けられた時、新手の魔物かと思って身構えちゃったじゃないか。この世界にもミミックっているのかな。


「いや、お金がたくさん入ったからってアクアが無駄遣いしやがってさ」


「何言ってるの! 私が買ったのは薬草とかポーションとか日持ちするものばかりよ。お兄ちゃんが無駄な物ばかり買うから。お金がなくなる前に揃えておかないといけないの!」


「無駄じゃねーよ! 見ろよこの煌めくブレスレット。装備しているだけでアンテッドは近寄れないんだぞ! この指輪だって装備しているだけでアンデッドは一撃なんだぜ! しかも格好いいときたもんだ」


「それ全部パチもんっすね」


「な――。嘘つくんじゃねーよ!」


「いや、おいら《鑑定》持ちだから嘘じゃないっすよ」


「な、なんだと……」


 地面に膝をつくレッド。


「ちょっとお兄ちゃん!」


 荷物が一斉に路上に飛び散っていた。なんて仕方のない奴。


「ルイスさん、ところでそちらの方は?」


「ああ、誠に遺憾ながら友人のデッパチィーッスだ」


「ビバティースっす! いろいろと失礼っす!」


「私はルイスさんと同じパーティメンバーのアクアといいます。あっちでしょげているのが私のお兄ちゃんのレッドです」


「狼獣人っすか。珍しいっすね」


「そうなのか?」


「彼らは基本的に他の種族との交流を嫌いますから」


「ふーん。二人はそんな感じじゃないんだけどな」


 あれ? なんか心の奥にひっかかるな。


「でも、ルイスさん珍しいですね。お友達だなんて。二人とも仲良さそうですね」


「「……」」


 コメントに困ることを言う娘だ。一応友人扱いだけど、仲良しとはいいたくないが否定するのも……。よく考えると前世を合わせて人生で初めてできた友達だったりするし。


「おい、レッド。そんなに落ち込むな。ビバティースが肉をたらふく奢ってくれるらしいぞ」


「ほ――」


「ほんとですか!?」


 レッドの声はアクアによって打ち消されていた。やべ、禁断のフレーズを口にしてしまったかも……。


「ちょっと何勝手なことを言ってるんすか!」


「友達の友達は友達だろ?」


「意味がわからないっす!」


「その友達たちが全員昇格したんだからお前が奢るのが当然だろ」


「なんでそうなるっすか! 狼獣人の食欲が凄いのは知ってるんっすよ! あ、でも待てよ。ルイスと同じパーティということは期待の新星っすね。いまのうちに仲良くなっていた方がいいっすね。今回の儲けで飯代なんてどうとでもなるし……」


 半分冗談だったんだけどな。二人の分は俺が払おうと思っていた。でも、ビバティースが完全に商人の顔になっていたからいいか。


「いいっすよ! おいらがお薦めのお店に連れてってあげるっす!」


「ありがとうございます! ほらお兄ちゃん何してるの! 早く荷物もってこないとお肉たべれないよ!」


「あ! ちょ、待ってくれよ!」


 ビバティースが連れていってくれた店は街はずれの分かり難い場所にあった。地元民で賑わう穴場のお店らしい。


 三十種類以上のステーキが食い放題のビュッフェスタイルだった。しかもかなり旨い。安くはないがビバティースのチョイスは正しかったと思う。あれは完全に店側が赤字だな。


 三人と別れ、午後は一人でまた街をふらふらとした。


 久々にのんびりとした一日を満喫できた。明日もこの調子でのんびりしようかな。

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