第21話 『勝負の一発芸(ヌクミズさん編)』


 ナイフが眉間に刺さったマツムラさん。

 だけど刺さったことをなんとも思っていないのか、マツムラさんはそのまま観客ゾンビの中へと戻っていった。


 あとで抜いてあげようと決めると、私は最後の一人の名前を呼んだ。


「それでは三人目となりますが、ヌクミズさん、よろしくお願いしまーすっ」


「よっ、真打登場っ! よっ、全国のバーコードハゲの希望の星っ!」


「ヌクミズさんなら最高に盛り上げてくれるでしょう。期待していますよ」


 必要以上にヌクミズさんにプレッシャーをかける、鳴ちゃんと栞ちゃん。


「ヌッキィ、ファアィトォ」


 そして、スズちゃんが応援する。


 ――って、ぬっきーってっ!

 愛称なんかいつ付けたのスズちゃんっ!?


 みんなから注目を集める、仁王立ちのように立っているヌクミズさん。

 両手にはフタの開いているプラスティック製のボトルを持っていて、その下の地面にはいつ掘ったのか、大きな穴があった。


「穴はともかく、何だあのボトルは? なんか字が書いてあるけど……うーん、遠くて読めないな」


 確かに鳴ちゃんの言う通りボトルには字が書かれている。

 でもその字は小さくて、私も読めなかった。


「……やく、よう、ピュリ……ポ、ア……そこまでは読めますが、さて何でしょうか」


 視力がいいのか、栞ちゃんはそこまでは読めたらしい。

 やくようピュリポア……ってなんだろ??


「っ! あっ、まさか――っ!?」


 目を見開く鳴ちゃんの口から、クッキーのカスが思いっきり飛び出る。

 どうやら思い当たったらしい。


「何? 鳴ちゃん、分かったのっ?」


「鳴さん、あのボトルの中身が何か分かったのですか?」


 鳴ちゃんは紅茶でクッキーを流し込むと、おもむろに口を開いた。


「以前、校長先生が使っているのを見たことがある。あれは……あれは『薬用ピュリポアEX』。つまり――」


「「つまり?」」



  


 突然、強風が私達がいる場所を通り過ぎる。

 それが合図となったのか、少ない髪の毛を風になびかせるヌクミズさんが「へあああぁぁぁぁぁぁっ!」と奇声を上げて、ボトルの中身を一斉に穴の中に流し込んだ。

 

 え? え? 何? 何っ?


 チンプンカンプンの私を置いてけぼりにして、ヌクミズさんは更に意味不明なことを始める。


 その穴に頭を突っ込んでから、周りの土で固めたのだ。

 土下座のような体勢で、頭だけを土に埋めているヌクミズさん。


 ――って、超、意味不明ーっ!!


 鳴ちゃんも私同様、ヌクミズさんの行為に「あのハゲ、何やってんだよっ??」と首を傾げていたのだけど、栞ちゃんは違った。


「まさかヌクミズさん……。だとしたら、もしうまくいったとしたら、これは凄いことになるかもしれません」


「えっ? 栞ちゃん、何が起きるのか知ってるのっ?」


「栞、分かってるなら教えてくれっ。ヌクミズは一体、何をしたいんだっ?」


 すると栞ちゃんは、「土に埋めると回復するゾンビの特性と、育毛剤のコラボレーションです」と述べると、「そのときを待ちましょう」と口を閉じたのだった。


 そして待つこと五分。


 そのときが――来たッ!


 ガバッっと、土から頭を上げるヌクミズさん。


 のはずだったのだけど、別人!? 

 いや、違う正真正銘、ヌクミズさんだっ!


 髪の毛がボーボーに生えまくったヌクミズさんだっ!!

 

 しかも! 何でそうなったのか知らないけど、めっちゃ!!


 観客ゾンビから、割れんばかりの歓声が沸き上がる。


「ボンバァヘッド、ヌッキィィ」


「マジかっ! あのハゲ、増やしやがったっ!」


「ブラヴォーです。ヌクミズさん、ブラヴォーですっ」


 そして、スズちゃんも鳴ちゃんも栞ちゃんもびっくりしていれば、もう言うっきゃない!


「勝者、ヌクミズさん! リーダーはヌクミズさんに決定しましたっ!!」



 へあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!





 ◆――ボイスレコーダー③――に続く。

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