第4話 『ナカヤマさんの番』


「「「「「「うおおおぉ、いいぃぃぃえええぇぇぇ」」」」」」」


 

 私達が敷地内に入った瞬間、ゾンビさん達が一斉に中へと走り出した。

 

「あ、おいっ、待て、お前ら!」


 鳴ちゃんが声を上げる。


 でもゾンビさん達は、家を目の前にして興奮しているのか、聞く耳もたずにショッピングモールの入り口へと走っていっちゃった。


「いいじゃないですか、鳴さん。どうせ私達もあそこへ行くのですから。それはそうとワタナベさんを連れてこなくちゃいけませんね」


 栞ちゃんが右のほうに指を向ける。

 見るとワタナベさんだけが駐輪場のほうへ歩いて行っちゃってた。


「どこ行ってんだ、あいつ。ったく、あのデブはあたいが連れてくるから先に行ってていいぞ」


 そう言うなり、鳴ちゃんはワタナベさんのところへ走っていく。

 

 ありがとう、鳴ちゃん。

 ワタナベさんはよろしくね。大切なお友達だから。


「それにしても……」


 なにやら周囲を見渡していた栞ちゃんが口を開く。


「どうかしたの? 栞ちゃん」


「いえ、この島には本当に誰もいないのだなと思いまして。元々いた人達はどこに行ってしまったのでしょうか」


「うーん。ここよりも居心地のいいどこかへ移動したとか……かな」


「あるいは――いえ、なんでもありません。多分、まほろさんの言ったことであっているのでしょう。さて行きましょうか。ゾンビ達がこっちを見ています。何かあったのかもしれませんね」


 見ると、本当に22人のゾンビさん達がこっちを見ていた。

 

 その目はなんだか助けを求めているようにも見えて、私と栞ちゃんは急いで向かったんだ。そしたらなんと――。


「えーっ、ドア開かないの!?」


「えぇ、ひらかなあぁい。なあぁんで?」


 ヌクミズさんが首を傾げて聞いてくる。


「向こうから鍵、掛かってるからですよ。……うーん、どうしよう。ほかの入り口を探したほうがいいかな」


「そうしたほうがいいですね。ほかにも入り口はあるでしょうから、どこかの鍵が開いていることを祈り――」


「うおおぉい。まあぁかせぇろ」


 栞ちゃんを遮る声。

 それはナカヤマさんだった。


 タグチさんを下ろしたナカヤマさんは筋骨隆々の右腕を回しながら、開かずの自動ドアの前に立つ。

 

 一体、何をする気なんだろ? まさか殴ったりしないよね??


 と、思ったら、


「どらっっっしゃあああぁぁぁっ」


 と雄たけびを上げながら自動ドアを殴りつけた。


 グキッ。


 変な音がなる。

 

 ナカヤマさんが、手首からさきが変な方向にねじ曲がっている右手をいぶかしげに眺めている。 

 そしてこっちに見せてくれた。


「おぇた」


 自動ドアを舐めちゃだめだよ、ナカヤマさんっ。





 ◆第5話 『ヌクミズさんの番』に続く。

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