第12話 ショッピングに行こう④

 唸るサイレンが、ドップラー効果でだんだん高く聞こえてくる。

「な、なにがあったんだ……?」

 俺とアルスはさっき蕃野がしたのと同じように地上を見下ろした。集まったパトカーは総計10台。初めて見る光景に、俺は驚いていた。

「あ、パトカーだ。久しぶりに見た」

「……」

 とりあえずアルスのその物騒な発言はスルー。

 もしやと思い、服のポケットからスマホを取り出し、ネットで今いる場所を検索。すると、案の定このショッピングセンターにまつわるニュースが表示される。

「立てこもり事件かあ……」

 17年間生きてきて、まさかこんな現場に遭遇するとは思わなかった。

「なになに? 現在犯人は店の客を人質にとっており、身代金一千万円を要求している。人質は、犯人が送ってきた動画から、一階のイベント用スペースに集められている。犯人の人数は不明。だが手口から複数名だと考えられる。時間までに金が用意されない場合は、人質を5分に1人殺していく……」

 なるほど、ここで事件が起こっていることはわかった。でも、なんで蕃野が血相変えて出て行く必要があるんだ?

「ここも見つかるかな?」

 アルスが聞いてくる。

「屋上の鍵をぶっ壊して侵入する客とか、あっちは想定しているかな」

「ううん……」

 だが油断はよくない。俺はアルスに見張りを命じて、警察に電話をかけた。


 

 電話をかけ終わったあと、俺はため息をついた。

 わかっていたことだ。警察は俺達に待機をするように、との答えをよこした。

「まあ、事件に遭遇しても、そんなもんだよなあ……」

 俺がすごい組織のエージェントだったら、こんな異常事態にも能力を発揮できるのに。現場にいるのに何もできない。こんな無力感初めてだ。せいぜい俺にできるのは、隠れていることだけ……

 って待てよ。俺の隣りにいるのは誰だ?

「アルス。お前の魔術でなんとかならないのか?」

「なんとかなるよ。だけど、まあ様子見してても大丈夫じゃないかな」

 アルスは軽い返事をよこした。俺はアルスのもとに歩いていった。アルスは余裕綽綽といった感じの表情で、ドアノブを直している。光の粒子が、アルスの手から放出されている。

 ひしゃげていたドアノブは、つるりとした銀の輝きを取り戻した。

「どうしてそんなに余裕そうなんだ?」

 さっきのパトカーを見た時の反応といい、この妹は睦月のもとでどんな修羅場をくぐり抜けてきたというのか。俺は正直言って膝が震えるのを押さえているのだが。

「え? 決まってるじゃない」

 アルスは隣に立つ俺ににっこりとほほ笑んで言った。

「だって、あの女が出て行ったでしょ? だから事件解決はすぐ」

 妙に自信満々に言い切ったアルスを見て、俺はぽかんとするしかなかった。




 同時刻。

 アルス、春哉を残して猛スピードで階段を駆け下りていくみくり。

 あっという間に3階に到達。慎重に1階のイベントスペースをうかがう。

 人質はざっと見たところ、200人。綺麗な四角形の形で並べられていて、数えやすい。数えやすい上に、逃げた人質がいたらすぐにわかってしまう仕組みだ。

「面倒だな……」

 犯人は見たところ5人。

 人質の四角形の頂点の位置に4人。そこから少し離れて、リーダー格の男が1人ソファに悠々と座っている。

 頂点の4人は防弾ジャケットを着て、ヘルメットを被っている。手には拳銃。

 一方、気になるのがリーダー格と思しき男。

 なんの武装もせず、ただ座っているだけだ。

 その様子に不気味さを感じながらも、みくりは3階の手すりに足をかけ。


 一気に飛び降りた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る